名言〔第1位〕:「企業の目的は顧客の創造」

解釈:

 企業が目指すべきなのは顧客の購買行動を介した社会の変容である。社会を改善する機能をもち、それに対価を支払う行動を強化できる製品やサービスを開発し、提供すること、そうした機能的な相互関係が成立する条件をみつけることが企業の“目的”である。

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名言〔第2位〕:「我々の事業は何か」

解釈:

 企業の“事業”(行動)は顧客の購買行動によって決まる。どのような好子にどのような確立操作が作用し、どのような強化スケジュールやその他の条件設定(遅延、購買にかかる行動コスト、社会的随伴性など)下で、どのくらいの金額で購入するのか(お金という好子消失による弱化の随伴性よりも強い強化の随伴性は何か)。
 顧客の購買行動を強化する企業の行動が顧客の購買行動によって強化される相互の強化関係が成り立つとき、企業の事業が成立する。

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名言〔第3位〕:「知りながら害をなすな」

(これはヒポクラテスからの引用のようです)

解釈:

 顧客の“信頼”とは、企業の製品やサービスや宣伝やブランドそのものが購買行動の弁別刺激となることである。
 弁別刺激は刺激と強化の一致によって形成される。
 「私たちの会社は顧客に必ず強化を届けます」という言語行動は、それが事実と完全一致することがないため(言行不一致となり)、“信頼”の弁別刺激を形成できない。せいぜい可能なのは「私たちの会社は顧客にできる限り強化を届けるようにベストを尽くします」という言語行動である(これなら事実と完全不一致することはない)。
 一方で「私たちの会社は顧客に害があるとわかっている嫌子は届けません」という言語行動は自発し(約束し)、言行一致を守らなければならない。守らなければ“信頼”の弁別刺激が破綻するどころか、企業のブランドが“疑惑”、つまり習得性の嫌子となり、購買行動回避を強化してしまう。ブランドや商品へのタクトも変容し、言語共同体から強化も受けるので、その回復は容易ではなくなる。

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名言〔第4位〕:「自らの強みに集中する」

(ドラッカーは、能力(competency)の底上げにはコストがかかりすぎるので、能力の高いところを伸ばすことに集中すべきとしています。適材適所や事業の選択という意味ではもっともですが、能力ではなく、行動やパフォーマンスのマネジメントという視点からすると話は異なります。また、中小企業の多くは、会社の規模という制限があるので、必ずしも適材適所の人事を理念通りに運用できないという事情もあります。ですので、以下の解釈ではこのあたりを勘案し、直訳というより、本意を離れた拡張的意訳をしてみました)

解釈:

 仕事の成果(パフォーマンス)に個人間や事業所間のばらつきがあるときには、できる人や部署とできない人や部署の差が大きければ大きいほど、一般的にその差を解消しやすく、できている人や部署の成果をさらに伸ばそうとするよりも効率的である。なぜなら、できている人や部署の行動を引き出し、強化している随伴性を分析し、できていない人や部署に欠けている条件を見つけ、それを補完することで、パフォーマンスが改善されることがあるからである。
 ただし、たとえば個人間のパフォーマンスのばらつきをそのように解消しようとして、考えられる限りの条件整備をしても大きな個人差が残る場合には、個人の特性(習得が用意ではない行動レパートリーの差や習得性好子や嫌子の違い)に配慮し、個人の特性はそのままで仕事の内容や方法が変わればパフォーマンスも改善され、その個人の行動が強化される確率も高まる環境が企業内の他部署に存在するのなら、配置転換という手段が有効になるだろう。
 企業としても個人でも、仕事をすることで強化される確率を上げていくことが働きがいにつながり、同時に、退職率や欠勤率、病気や事故などによる経費の削減にもつながる。経営者の仕事は、従業員にとっての強化される行動が、企業にとっても強化される行動になるように(つまり、利益を生む行動になるように)、好子の配分をして、最適化しやすい環境設定を支援するべきである。そのためには、同じ仕事、同じ部署で強化率を上げられるように支援するか、仕事を変え、部署を変えて強化率を上げるように支援する。

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名言〔第5位〕:「明日のために昨日を捨てる」

解釈:

 行動、特に組織における行動は、その行動がそもそも強化されていた随伴性がなくなってからも、別の制御変数によって自発され続けるものである。たとえば、もう必要のない書類をこれまで書いてきたからという理由だけで書き続けたり、売れ行きが落ちている製品をその製品が売れなくなってきている理由を検証することなく作り続けたり。
 企業にとっての、そして顧客にとっての強化や好子を生まない、強化履歴によってのみ制御されているこうした行動はコストとなり、企業がマーケットの随伴性に敏感に適応していくことを妨げる。
 社会や市場、企業内の随伴性の変化を迅速に察知し、古い行動の自発が新しい、より適応的な行動が自発される機会を奪わないように、組織内の補完的な随伴性(ワークフローや内規、工程、仕事の進め方の取り決め)などを随時修正していく行動が強化されるように環境を整えるべきである。

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名言〔第6位〕:「何によって人に覚えられたいか」

(この引用は他の名言と性格が異なります。ドラッカーが13歳のときに宗教の先生から「50歳になるまでに、“あなたは何によって人に覚えられたいですか?”という質問に答えられるように生きようね」と言われたという逸話だからです。経営に関する名言というより、個人の生きかたに関するお話です。それを承知であえて解釈するなら、こんな感じでしょうか)

解釈:

 誰かの何かの行動を強化したり、誰かの何かの行動を強化する何かの好子を生みだしたり、あるいは誰かにその人にとっての何かの好子を提供したり、その人にとっての何かの嫌子を消し去ったり、そういう行動を、何か特定の領域に集中し、やり続けていくと、あなたについて「あの人はどんな人」と誰かに質問したときに、「あの人はこういう人です」というタクトが自発されることでしょう。

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名言〔第7位〕:「まず時間からスタートせよ」

解釈:

優秀な経営者は「何をすべきか」や「いつまでにすべきか」を考える前に次の行動をやっている。

1) まずは、自分の日々の行動を振り返り、どんな行動にどれだけ時間をかけているかを調べる。
2) 時間をかけても成果が上がっていないことはやめる。
3) 部下に移譲できそうなことはそうする。
4) スケジュールし直し、空いた時間帯をできるだけひとかたまりにし、成果を期待できる行動に割り振る。

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名言〔第8位〕:「マネジメントの役割」

解釈:経営陣の役割は以下の3つである。

1) 組織の社会に対する機能を定義すること(すなわち、誰にどのような行動をして何を得るかというメタ随伴性を記述すること)。
2) 1) の機能を発揮するための組織内の随伴性を整備すること(すなわち、従業員各々のどのような行動をどのように強化するかを決め、そうすること)。そして、そのときに従業員それぞれの好子や嫌子が出現/消失するように、付加的随伴性だけではなく行動内在的随伴性にも配慮すること。
3) 1) と 2) を進めるときに、社会の法や倫理に関する随伴性と抵触しないようにし、かつ、社会全体に貢献できるように(好子を出現させ、嫌子を消失させるように)工夫し、他の組織にとってモデルとなるような組織づくりを目指すこと。

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名言〔第9位〕:「真摯さこそ不可欠」

解釈:

(ドラッカーはこれから成長していこうとする部下にとっての管理職に必要な素養として、管理職としての様々なスキルだけではなく、「尊敬できる人となり(原文は"integrity of character")」を持っていることが不可欠だと述べています。この名言集ではそれを「真摯さ」と訳しています。ドラッカーは「人格」なるものは仕事のスキルとは違って教えられるものではないと考えていたようです。このあたりの見解は、行動分析学の考え方とは若干相容れないところもあるので、ドラッカーの考え方を解釈するというよりも、「人格」なるものを行動分析学からどのように解釈できるかを考えて書きました)

 誰でも管理職の仕事をこなして、部下が成長し、満足してやりがいのある仕事に取り組めるように、企業はそれに必要で有効な随伴性を整え、必要で有効なスキルを管理職、部下ともに教えるべきである。
 しかし、どれだけ随伴性を整備し、行動レパートリーを充実させる研修やトレーニングを行っても、部下が上司の「性格」や「能力」に、上司が部下の「性格」や「能力」に不満をもつことはある。
 企業として整備すべき随伴性は、それをそれぞれの「人格」に帰属させる行動の強化随伴性ではなく、何が欠けていてどうすれば改善できるのかを話し合い、試行し、評価して、成果を喜びあう行動を強化する随伴性である。
 その上で、強化随伴性をすべて完全に整備できることもないことは現実として共有し、随伴性の設定や研修や改善努力でまかないきれない問題については、配置転換や設定目標を下げるなど、企業側の処置で対応し、あくまで個人の「人格」なるものを攻撃対象としないようにすべきである。

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名言〔第10位〕:「顧客の創造に不可欠な二つの機能」

解釈:

(ドラッカーは企業の目的を「顧客の創造」とし、そのために必要で、それだけあればいいのが、マーケティングとイノベーションであるとしています)

 「組織の存在意義」でも定義したように、企業の存在意義は、社会や消費者にとっての好子や嫌子、それらによって強化される行動と随伴性を明らかにして、それを実現する商品やサービスを提供することにある。
 このうち、既存の好子、嫌子、随伴性について調べてそれに見合った商品やサービスを開発するのがマーケティングの基本的な役割であり、新しい好子や嫌子、新しい随伴性を見つけるのがイノベーションである。

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名言〔第11位〕:「マーケティングは販売を不要にする」

解釈:

 もしかするとこれも誤訳かもしれません。引用元はこうなっています。

Indeed, selling and marketing are antithetical rather than synonymous or even complementary. There will always, one can assume, be need for some selling. But the aim of marketing is to make selling superfluous. The aim of marketing is to know and understand the customer so well that the product or serice fits him and sells itself.  (Management, p.64)

 ここでの selling は「販売」ではなく、売り込みという意味での「営業」です。マーケティングが十分にできていれば、無理に売り込まなくてもその商品は売れて行くという意味ですから。

 もしそうなら、行動分析学からの解釈は以下のようになると思います。

 マーケティングとは、1) 顧客とって何が好子なのか、何が嫌子なのか、2) それらの好子や嫌子によってどのような行動が強化されるのか、3) 他に同じ機能をもたらす好子や嫌子はないか、4) そのような好子や嫌子の価値を高める確立操作は何か、5) 製品やサービスにどのようにこれらの好子や嫌子、もしくは機能を組み込めるか、6) 製品やサービスを入手する行動の随伴性は最適化されているか、などを調べ、7) 顧客の購買行動や商品、サービスの使用・利用行動が強化される随伴性を設定する仕事である。そして、これらの環境設定が十分にできていれば、顧客の購買行動は自発され、無理に売り込むという意味での営業行動はほとんど必要がなくなるのである。

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名言〔第12位〕:「教える組織を作る」

解釈:
 QCサークルやTQC、TQMなど、QC活動の成功事例からわかるように、「教える」行動が強化される随伴性は「学ぶ」行動の確立操作として機能する。これは、ゼミを発表当番制で運用すると、毎回最も学ぶのは発表者だったり、社内/校内研修の講師を社員/教員が担当すると、最も学ぶのは講師になった社員/教員だったりするのと同じである。
 社員間の学び合い(学んだことを教える)が自発され、強化される機会を設定することで、上意下達に凝り固まったコミュニケーションだけではなく、現場から意見を吸い上げることもできる柔軟な組織運営が可能になる。

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名言〔第13位〕:「自ら変化を作りだす」

解釈:

 もしかするとこれは誤訳かもしれません。引用元はこうなっています。

Experience has shown that grafting innovation on to a traditional enterprise does not work.  The enterprise has to become a change agent (Managing in the next society, p. 295).

 そのまま訳すと、

従来の組織に接ぎ木をつぐように改革を上乗せしていってもうまくいかないことが多い。組織そのものが改革の主体にならなければならない。

 です。

 だから「自ら変化を作りだす」というよりは「自ら変化する」ということではないでしょうか。

 もしそうなら、行動分析学からの解釈は以下のようになると思います。

 組織で変化を作りだすには、組織そのものを変化させることが必要である。組織の中心は人であり、人の行動であることを考えると、行動を変えるために組織を変えるということは、組織における行動随伴性を変えるということになる。組織の中の行動随伴性が変わらなければ、行動は変わらず、行動が変わらなければ「変化」もつくりだせないはずである。

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名言〔第14位〕:「自らの貢献を考える」

解釈:

 組織における個人の行動とその随伴性は、組織全体のパフォーマンスとその随伴性に同調するように設計すべきである。つまり、組織全体のパフォーマンス向上につながる個人の行動が強化され、つながらない行動は消去されるように、各部署の強化随伴性を調整すべきということになる。
 特に、経営者や管理職は、こうした視点から、組織や部下だけではなく自らの行動の強化随伴性を常に見直し、自らの行動随伴性を整備すべきである。

(追加の解釈)
 経営者や管理職のそうした行動はどのように強化し、維持できるのだろうか。大企業で、雇われ経営者であれば株主総会などが機能するかもしれないが、では、株主の行動はどのように強化、維持できるかということになり、強化随伴性を設定する行動の強化随伴性は何重にも入れ子になり、誰が強化の源泉になるかについての議論はきりがないようにも見える。
 おそらく、実際にはある行動から入れ子が遠ざかるほど、その影響力は薄れ、また、一貫性、同調性も薄まり、どこかの時点で、いわゆる「equilibrium」な状態になるのだろうが、社会、経済、経営環境が目まぐるしく変動する現在、均衡状態が安定して続くことは稀であり、それゆえに、自然に放置したままで均衡状態に落ち着くのを待つよりも、積極的に介入して、安定し、かつ、強力な均衡状態をつくることが求められているのだろう。
 その一方で、そうしたルール支配的な制御による行動も、いずれは随伴性制御に押し流されるという、いわゆる「まにまに」的な真理もあるのだろうなと思う。

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名言〔第15位〕:「強みを総動員する」

解釈:

上司でも、部下でも、自分自身でも、苦手な行動、不得手な行動をする機会よりも、好きな行動、得意な行動をする機会を増やした方が、組織にとっての成果につながる。

苦手な行動とは、行動内在的に嫌子出現によって弱化されている行動である。不得手な行動とは、主に行動レパートリーが未習得か不十分なため行動内在的に強化率が低い行動である。どちらも、うまく遂行できないときには、叱責などの嫌子出現による弱化の随伴性が付加されることがあると、さらに「苦手に」、さらに「不得手に」なる悪循環となる。

反対に、好きな行動とは、行動内在的に好子出現によって強化されている行動である。得意な行動とは、行動レパートリーが十分に習得され、流暢であり、行動内在的に強化率が高い行動である。どちらも、うまく遂行できたときには、賞賛などの好子出現による強化の随伴性が付加されることがあると、さらに「好きに」、さらに「得意に」なる好循環となる。

組織の成員個人の、好子、嫌子、行動レパートリーを把握し、仕事や作業とうまく組合わせ、悪循環を減らし、好循環を増やすことで、組織全体のパフォーマンスをあげていくことができると考えられる。

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名言〔第16位〕:「部下の強みを活かす責任」

解釈:
 上司の仕事は部下の行動を支援して結果をだすことにある。したがって、上司の行動の強化随伴性は、部下の成功にもとづいて設計すべきである。

(追加の解釈)
 部下の行動マネジメントをしていない/できない上司を責めるのも同様にナンセンスであり、上司が部下の行動を上手く支援できるように支援するのが、その上の上司や、最終的な経営者の仕事になる。

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名言〔第17位〕:「優先順位を決める原則」

解釈:

 優先順位の決定(すなわち選択反応)に及ぼす変数のうち、過去の成功(強化履歴)、目の前にある問題を解決すること(確立操作+逃避による強化随伴性)、他の会社や製品・サービスの成功を追うこと(モデリング、ルール)、新しい試みをすることで生じる抵抗や失敗の回避(反応コストによる弱化、回逃避・回避による強化随伴性)は、将来の成功につながる選択肢とは異なる反応を引き出し、強化してしまう可能性がある。市場や経営に関わる随伴性は常に変動していて、過去に強化された行動が将来にわたって強化され続けるという保証はないからである。

 このため、経営に関する意思決定をするときには、優先順位を決めるときに自らの判断に及ぼすこうしたバイアスを知り、過去や現在の随伴性では強化されていない選択肢を敢えて選ぶ必要があることがある。つまり、未来の、不確定な強化随伴性を記述したルールに従う選択反応を「勇気ある選択」とタクトし、社会的承認の随伴性を追加しておくことが重要になる。

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名言〔第18位〕:「信頼するということ」

解釈:
 部下がリーダーについていくかどうかは、リーダーの言行一致度とその一貫性にかかっている。言語行動と非言語行動が一致していること(やるといったことをやる、やらないといったことはやらない)、一致した言語行動と非言語行動が一貫していること(やるといったことは納得できる理由がない限りやり遂げる)が重要である。
 部下がリーダーのことを「好き(like)」と言うかどうか、リーダーの言うことに賛成しているかどうかは、必要条件ではない。
 言行一致度と一貫性が高く、リーダーの指示に従う行動が高い確率で強化されれば、リーダーの言語行動が生みだす言語刺激は部下にとって強化の弁別刺激となる。さらにそのことで、リーダー自身が部下にとって習得性の好子になる可能性は高く、ゆえに「好き」という評価が増えることもあるだろう。ただし、これはあくまで副次的な効果である。「好き」という評価を増やす方法は他にもあるだろうが(例:やたらと褒めるなど)、追従行動に影響するとは限らない。

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名言〔第19位〕:「対立なければ決定なし」

解釈:
 (「反対意見がでない案件は採用すべきではない」と主張する真意がわからないので、あくまで予測ですが)企業の経営を左右する案件については、賛成/反対の両方の意見表明を明示的に強化する随伴性を準備して、賛否両論の根拠をできるだけたくさん浮き彫りにし、十分な情報を得た上で決定を下すべきである。

 例:経営者やリーダーの意見が無批判で通る会社には、正統な反対意見の表明を弱化したり、消去する随伴性が存在する可能性が高く、そういう環境では的確な意思決定に必要な情報(弁別刺激、警告刺激、ルールなどなど)が入手不可能になるリスクが高まる。

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名言〔第20位〕:「明日のために今日何をなすか」

解釈:
 経営に影響する、将来の景気や経済・社会環境を起こりえる行動随伴性の変化として予測することも重要であるが、予測だけに終わっては意味がない。
 必要なのはそのような変化に対応できる、今日できる行動随伴性の修正があるかどうかを考え、すべきこと、できることがあるのなら、それを実行する随伴性を設定することである。
 つまり、社内の(経営者や意思決定者の)未来予測行動のみを強化する随伴性を見つけ、妥当な未来予測に対応する実行をより強化する随伴性を整備すべきということになる。

 例:会議などで予測に関する報告があるときには必ずそれに対する実行可能な対応策も提案するように促し、採用の如何に関わらず評価し、強化する。

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名言〔第21位〕:「顧客にとっての価値」

解釈:
 企業や組織の生存はその活動を強化する顧客の行動によって決定する。顧客の行動は企業や組織から対価を支払って受取る商品やサービスによって強化される。すなわち、好子消失による弱化を上回る好子出現による強化(あるいは嫌子消失、好子消失阻止、嫌子出現阻止による強化)を提供しなくてはならない。
 このとき、顧客の購買行動を制御する好子、嫌子、随伴性は、企業や組織がそうであるに違いないと思い込んだり、企業や組織の内部事情によって決まるものではなく、あくまで顧客側の環境によって決まるものであり、何が顧客の購買行動を強化するのか(好子/嫌子、確立操作、随伴性)は顧客の行動随伴性の生態学的調査ならびに実際の購買行動のデータから推測し、確認し、修正し続けるべきものである。
 企業や組織の内部事情(組織内の随伴性)と、顧客側の随伴性を一致させていく方法については、たとえば、Brethowerのトータルパフォーマンスシステム(Total Performance System: TPS)などの行動システム分析の考え方などを適用することが有効だろう。

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名言〔第22位〕:「明日のために今日なにをなすか」

解釈:
 「明日何をすべきか」ではなく「明日のために今日なにをすべきか」。拡大解釈すれば、「明後日のために今日なにをすべきか」、「来週のために今日なにをすべきか」、「来月、来年のためになにをすべきか」、「5年後、10年後のために何をすべきか」であり、かつ、「なにをすべきかを考える」だけではなく、「何をすべきかをする」ことである。
 かなり遠い未来の出来事を現在の行動の制御変数とできるのは言語行動という特別なレパートリーを持つヒトの特権だが、だからといって、まったくの訓練なしに身に付くスキルでもない。将来の転勤に向けて語学の学習を毎日するとか、万が一の災害に備えて食糧や水を備蓄するといった、個人的な行動でも未来事象による制御は難しいのに、ましてや企業の経営に関わる行動にこうした制御をいれるには、たとえば、Malottらの目的指向的システムデザインのような行動システム分析のツールを取り入れるなど、それなりの仕組みが必要だ。

Malott, R. W., & Garcia, M. E. (1987). A goal-directed model for the design of human performance systems. Journal of Organizational Behavior Management, 9(1), 125-159.

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第23位:「成果をあげることは習慣

第24位:「リーダーとは何か

第25位:「成果をあげるのは才能ではない

第26位:「組織の存在意義

第27位:「組織は戦略に従う

第28位:「利益とは目的ではなく条件

第29位:「理論は現実に従う

第30位:「総体は部分の集合とは異なる

名言〔第23位〕:「成果をあげることは習慣」

解釈:
 「成果をあげるのは才能ではない」〔第25位〕にもあったように、組織で成果をあげるために必要な仕事はすべて学習可能な知識や技術--すなわち「行動」--である。成果をあげるために必要な仕事は複雑で、習得の程度に大きな個人差があるため「能力」とか「人格」とかに帰属されがちだが、必要な仕事を丁寧に課題分析してみれば、それを構成している一つひとつの行動は実は意外に単純であるということ。
 もちろん、そのような課題分析をすることはそれほど簡単ではないし(課題分析をする知識や技能をもった人的資源、時間などが必要になること)、学習は“可能”であっても、学習にかかる時間(コスト)が発生することなどを考慮すれば、成果があがらない理由を「能力」や「人格」などのヒューマンファクターとして片付けてしまいがちな事情も読み取れる。「できない奴だなぁ」とか「礼に欠ける」などのタクトは「そうですよね」などの共感的反応で強化されがちだし、“リストラ”という文脈では標的となった人を解雇したり、配置転換することが強化される。しかし、こうした個人攻撃の罠にまみれた解決策は短期的な成果しか生まないのは、実は誰の目にも明らかだったりもする。
 遠回りのように見えても、必要な行動を洗い出し、それが学習され、強化される行動的環境を整備することが、成果をあげる行動を“習慣化”させるベストプラクティスである。

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第24位:「リーダーとは何か

第25位:「成果をあげるのは才能ではない

第26位:「組織の存在意義

第27位:「組織は戦略に従う

第28位:「利益とは目的ではなく条件

第29位:「理論は現実に従う

第30位:「総体は部分の集合とは異なる

名言〔第24位〕:「リーダーとは何か」 (これだけだと「リーダーとは何か」がわからないので引用します)。

効果的なリーダーシップの基礎とは、組織の使命を考え抜き、それを目に見える形で明確に定義し、確立することである。リーダーとは、目標を定め、優先目標を決め、それを維持する者である(「未来企業」p. 147 )。

解釈:リーダーとは組織に係るメタ随伴性を分析し、組織として、どんな条件のとき、どんな行動をすれば(どんな製品を造り、サービスを提供し、などなど)、社会から強化されるのか、すなわち組織のメタ随伴性ルールを、現在と将来にわたって記述し、社会から強化される行動が組織としてまとまって遂行できるように、個々のフォロワー(社員、部下など)の行動を引き出す弁別刺激や確立操作を提供する役割である。

ちなみに、昨今の、特に安倍政権以降(ポスト小泉)の日本政府の動向をみていると、リーダーシップはリーダーだけに帰属させるべきものではないとつくづく感じる。組織がその使命をまっとうするためには、フォロワーの行動も等価に重要である。リーダーの示すルールと反する行動に従事することで強化される随伴性が、ルールに従う行動を強化する随伴性よりも強い場合、どんなに優れた「資質」を持った人がリーダーとなってもうまくいくわけはないからだ。個人的には、安倍氏がいとも簡単に総理の座から退いたことで、総理を降ろす行動の強化随伴性が、おそらくこれまでもあったのだろうが実際に機能してしまい、またそうした行動が弱化されることが少ないことがバレてしまったため、もはや誰もリーダーに従わないという悪夢のような状況になってしまっているのではないかと思う。菅総理の個人的資質はさしおいて、このことの方がはるかに大きな問題である。

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第25位:「成果をあげるのは才能ではない

第26位:「組織の存在意義

第27位:「組織は戦略に従う

第28位:「利益とは目的ではなく条件

第29位:「理論は現実に従う

第30位:「総体は部分の集合とは異なる

名言〔第25位〕:「成果をあげるのは才能ではない」

解釈:成果をあげる人(performers)とそうでない人(non-performer)の違いは“才能(talent)”という仮説的構成体によるものではなく、習慣や行動やルールによるものであるというのは、まさに行動分析学の考え方そのものである。「才能」や「能力」といった概念に成功や失敗の原因を求める限り、循環論を抜け出せず、改善の手がかりは得られない。成果をあげている人が何をしているのか(何をしていないのか)、成果をあげていない人が何をしているのか(何をしていないのか)、まずは観察し、行動レベルでの違いをつきとめることが重要である。

もう一つ。ドラッカー先生はこういう見方がなかなかできない理由を「組織」というものが私たち人間にとっては比較的新しい“発明”であるためとしている。組織の中で成果をあげるための思考方法も進化(集団、世代としての学習)していくものだという考え方は前向きで面白いと思う。

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第26位:「組織の存在意義

第27位:「組織は戦略に従う

第28位:「利益とは目的ではなく条件

第29位:「理論は現実に従う

第30位:「総体は部分の集合とは異なる

名言〔第26位〕:「組織の存在意義」

解釈:「組織とは目的ではなく手段である」という考え方はまさに行動システム分析そのものである。Gilbertの階層的視点の分析にしろ、Brethowerのトータルパフォーマンスシステム(Total Performance System: TPS)にしろ、Malottの目的指向的システム分析にしろ、組織を行動の集合と捉え、行動は製品やサービスの受け手に与える影響ーすなわち社会における機能ーと考える。社会や消費者から強化されない組織の行動は消去されるから、組織にとっての存在意義は社会や消費者の求める価値とその実現から定義されることになる。こうして組織の存在意義は、社会や消費者にとってのニーズを好子出現や嫌子消失という形で定義し、それを実現することとして定義され、評価されることになる。

行動システム分析についての日本語の資料があまりみあたらないので、旧版「パフォーマンス・マネジメント」の6章(現在の版には非掲載)をここに公開しました。

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第27位:「組織は戦略に従う

第28位:「利益とは目的ではなく条件

第29位:「理論は現実に従う

第30位:「総体は部分の集合とは異なる

名言〔第27位〕:「組織は戦略に従う」

解釈:組織の構造は組織の機能が効率よく果たせるように変形できるように設計すべきである。いわゆる「べき論」や流行で組織の構造をつくっていくと失敗することが多い(たとえば「組織はフラットであるべき」とか「ピラミッド型であるべき」などの固定的な組織観にもとづいた組織改革は弊害をもらたすことがある)。こうした設計は、組織レベルの強化随伴性が、組織の内部にも整合するように組織をつくることで実現できる。組織レベルの強化随伴性というのは、組織が生みだす商品やサービスの受け手(顧客や他会社、地域社会や株主など)が、そうした商品やサービスを生みだす活動をどのように強化するかということであり、これがすなわち組織の目的や機能の分析となる。組織内の構造的な仕組み(部署の構造や役割分担など)は、この強化を最大化し、弱化(たとえば、顧客の信頼を失うリスク行動など)を最小化するように、課題分析、職務分析をした上で、強化随伴性を設定するのに適した構造を考え、さらに成果によって継続的に修正していくべき事柄である。そのような仕組みができれば、組織の構造は自然と、組織の目的にそった戦略に柔軟性をもって従うようになるのだ。

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第28位:「利益とは目的ではなく条件

第29位:「理論は現実に従う

第30位:「総体は部分の集合とは異なる

名言〔第28位〕:「利益とは目的ではなく条件」

解釈:企業活動という集団行動は経済的好子(利益)ではなく、社会的貢献(生みだすべきモノやサービスを生みだしているかということ)や顧客サービス(生みだすモノやサービスが顧客にとって充分な好子や強化になっているか)という結果によって強化されるべきである。利益はむしろそうした行動を自発する機会を整えるという意味で、確立操作や弁別刺激、オペランダムのようなものと捉えられる。あるいはそうした行動が自発されいれば副次的に生みだされるはずの環境変化とも考えられるだろう。ただし、好子出現をもらたらす確立操作や弁別刺激、オペランダムはその機能ゆえに強力な習得性好子となるため、企業活動はとかく目先の利益に制御されがちなことも事実である。したがって経営者としては、そのままにしておくと敏感になりがちな経済的好子だけではなく、社会的貢献や顧客サービスにも敏感に反応するように、企業内部の行動随伴性やルールを設定する必要があるのだ。


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第29位:「理論は現実に従う

第30位:「総体は部分の集合とは異なる

名言〔第29位〕:「理論は現実に従う」

解釈:企業において従業員や顧客や管理職の行動について、環境と行動との相互作用(「〜のときに〜したら〜となった」というオペラントや「〜によって〜する」が引き起こされる」というレスポンデント)を一つひとつ明らかにしながら、経営に重要な行動の制御変数を現場で見つけ、記述していき、結果として特定の個人や状況や集団を超えて共通の関係性がみえてくれば、最終的にはそれが“理論”となる。始めに経営の理論があって、それを実行して確かめるのではなく、小さな成功を数多く重ねて行くことで、経営の“理論”も見えてくるかもしれない。つまり、理論は演繹的にではなく帰納的に導かれるべきであるのだ。それでもその“理論”はおまけのようなものであり、大事なのは一つひとつのマネジメントの成功なのである。最終的に“理論”がまとまらなくても、帰納的に仕事を進める限り、そのあとには成功が残るのだから。

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第30位:「総体は部分の集合とは異なる

 『もしドラ』(最初聞いたときは「もしドラッカーが高校野球の女子マネージャーになったら」かと思ってた)は発行部数が200万を越え、2010年文句なしのベストセラーになったそうだ。「スーパージャンプ」で漫画の連載も始まり、柳の下のどじょう的な本も多数出版され、まだしばらく流行が続きそうな気配である。

 てなわけで、今回はちょっとふざけて(でも半分以上は真面目に)、もしドラッカーが行動分析家だったらという想定の元、週間ダイヤモンド 2010年11月6日号に掲載された特集『みんなのドラッカー:Part 6 ドラッカー名言集』(Pp. 74-81)を参考に、ドラッカー先生の名言を行動分析学から解釈し、翻訳してみようと思う。

 一応、シリーズ化宣言。でも途中で飽きるかも。

 自分は経営学者じゃないし、ドラッカーの専門家でもない。勘違いとか思い違いとかあったら、ごめんなさい(と、最初から謝っておく)。

名言〔第30位〕:「総体は部分の集合とは異なる」

解釈:会社を形づくる一人ひとりの社員の行動や社内の小集団(係・部・チームなど)の行動をマネジメントできたとしても、会社全体がマネジメントできるとは限らない。個人や小集団の行動を強化する随伴性が社内で矛盾したり(例:営業が納期を早めて受注することは、製造にとっては必ずしも好子にはならない)、相反したり(例:研究開発の予算をある製品に集中させることで、他の製品開発費が減る)するし、マネジメントしようとして部下の行動の随伴性を変えればそれに応じてマネジメントする側の随伴性も変わるという相互作用もあるからだ。経営者には、個人や小集団のパフォーマンスを最適化する随伴性を導入するだけではなく、社内のさまざまな随伴性を調整し、好子と嫌子の配分を決めていく仕事が期待される。すなわちこれは、科学というよりは工学の方法論なのである。

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