定義:

「認知機能は、入力情報の感覚的、物理的な分析を行う「浅い」水準から、抽象的、意味的、連想的な分析処理を行う「深い」水準へと階層的に構造化されている」「深い処理を行う方が(その単語の)保持成績は優れたものになる」(『心理学辞典』(有斐閣),  p. 430)。

行動分析学的解釈:

(ここでは文字刺激に対する反応のみを想定して解釈します)

文字に対する行動としては、機能的に独立したいくつかの言語行動クラスが形成されている。たとえば、文字の形態的特性と反応の関連をもとに般性強化されるタクト、文字と発話(読み)の要素毎の対応をもとに般性強化されるテクスチャル、文字と反応の内容的関連性をもとに般性強化されるイントラバーバルなどが形成されうる。

タクトの例:
 「」 → 「さんずい」、「10画(正しくは9画だが、正誤は無関係)」、「角張っている」、「大きい」、「赤」

テクスチャルの例:
 「海」 → 「うみ」、「かい」

イントラバーバルの例:
 「海」 → 「海水浴」、「夏」、「砂浜」、「オーシャン」、「去年は海に遊びに行けなかった」

他の刺激と同様、文字に対し、言語行動以外の反応も形成されていることもありえる。

その他の例:
 「海」 → 寒気(レスポンデント)、海辺のイメージ(内潜的視覚反応)

 文字刺激が提示されたときにどのような反応が自発されるかは、その刺激に対する過去の随伴性と、現在の状況(確立操作、その他の弁別刺激、強化随伴性)などによる。自発された行動が強化されるかどうかが、同じ文字刺激に対して同様の反応が繰り返されるかどうか(「保持テスト」における反応)に影響するが、多くの記憶研究では強化の変数は統制していないので、状況任せになっていると考えられる。そのような状況では、より多くの反応が自発可能で、かつ、実験において提示される他の刺激から引き出される反応とは異なる(弁別刺激の混乱が少ない)可能性の高い、イントラバーバルを自発させる手続きの方が「保持テスト」の成績が高くなるのは予想できる。これは「処理水準」の概念をさらに発展させた「精緻化」の概念にもあてはまる。

関連する文献

島宗 理・清水裕文 (2006).  文章理解の理論的な行動分析  鳴門教育大学研究紀要, 21, 269-277.

本シリーズの過去記事一覧:

定義:

「同化とは環境を自分のなかに取り込む働きであり、調整とは自分を環境に合わせて変える働きである」(『心理学辞典』(有斐閣),  p. 622)。

行動分析学的解釈:

 同化とは、既習の行動レパートリーが新奇な刺激に対し自発され、強化される、刺激般化の過程である。調整とは、刺激般化した反応が強化されなかったときに(消去されたときに)、類似した異なる形態の行動が自発され(消去後の反応拡散)、そのうちのいずれかの行動が強化されていく過程である。

ピアジェの理論も含めて、発達に関する様々な概念の行動分析学からの解釈については、下記の文献が参考になります。

本シリーズの過去記事一覧:


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定義:

「客観的には同一の図形でありながら、知覚的には二つあるいはそれ以上の形が成立する図形(『心理学辞典』(有斐閣),  p. 708)。

行動分析学的解釈:

 複数の異なる随伴性で弁別刺激となり、異なる行動を誘発させうる刺激。どちらの(どの)刺激性制御が優位になるかは、その他の弁別刺激(その他の弁別刺激や文脈となる条件性弁別刺激など)や確立操作、フリーオペラント的に移動する注視点などによると推察される。

本シリーズの過去記事一覧:

 法政心理の大学院入試で出題する可能性のある用語(法政心理キーワード)を行動分析学の概念に翻訳しているこのシリーズですが、ふと、三つのことを思いつきました。

 ひとつめ:はたして逆はあるのだろうか? すなわち、行動分析学の概念を他の心理学から解釈することは可能なのだろうかということです。強化や弱化、弁別や般化、分化や連鎖、消去やバースト、自発的回復、変化抵抗や行動的慣性、等価性や関係性などの概念や現象を、他の心理学で翻訳することはできるのでしょうか?(興味と技能がある人がいるかどうかは別として)

 もうひとつ:大学院入試の出題範囲はけっこう限られていて、翻訳する必要や意味ががなかったり(「統制群法」や「アセスメント」、「帰無仮説」や「インフォームドコンセント」)、翻訳できないもの(「ドーパミン」や「セロトニン」など)もけっこうあります。それでいて、たとえば「コンプレックス」とか「サブリミナル」とか「カタストロフィー」とった、世間一般では(あるいは一部のサブカルで重宝される)用語はなかったりします(元々、日本心理学諸学会連合が「心理学検定試験」に作成している生真面目な用語集を元にしているせいです)。

 さらにもひとつ:最初の記事が2010/12/15だから3年ちょっとで17語。う〜ん、スローなペースだ。

 どれも I wonder 〜 レベルの思いつきで、だから何をどうしようというわけではありません。閑話休題の一つ前の話です。すみません。

本シリーズの過去記事一覧:
定義:

「持続的な意識消失と、全般的な身体機能の低下状態であり、覚醒と対をなして周期的に生じる脳の生理的な活動様態である」(『心理学辞典』(有斐閣),  p. 464)。

行動分析学的解釈:

 スキナーは Science and Human Behavior で、睡眠を、周期性をもつ特殊な行動と捉えられないことはない(1953, p. 155)と述べていたが、それ以上の詳しい解釈はしていない。睡眠について行動分析学から研究を進めている Blampied & Bootzin (2013)は、睡眠そのものは周期的に生じる生理的な状態と捉えた方が生産的であるとし、さらにその状態を以下のように定義している。

  1. 中枢からの制御により運動(顕現的行動)の範囲や強度が大きく制限される。
  2. 同時に、中枢での神経活動、夢、新陳代謝などの内的な活動(非顕現的/内潜的行動)は行われている。
  3. さらに、それが成熟、発達、学習、脳機能の維持などに必須である。
 Blampied & Bootzin (2013)らは、睡眠につながる行動連鎖の中で、たとえば横たわる行動を最終的な好子(入眠/睡眠)の完了行動(consummatory behaviour)とし、行動連鎖の中で完了行動の弁別刺激がうまく機能しないと不眠の問題が生じるとしている(従って不眠治療でも刺激性制御をつけることを重視する)。また、覚醒時間など、睡眠の好子としての機能に影響する条件を確立操作として分析することの有効性も指摘している。

 以上を踏まえ、よくある質問に答えてみる:

Q: 睡眠は行動ですか?
A: いいえ。睡眠そのものは顕現的な行動の自発頻度が大きく低下した状態と考えた方がよさそうです。ベッドに入るとか横になる、目をつむるなどの行動は、入眠につながり、睡眠で強化される行動であると考えられる。

Q: 睡眠は好子ですか?
A: はい。生得性好子であると考えられます。睡眠につながる行動、横になるとか目をつぶるとか、カーテンを閉じて照明を消すとか、人によってはアロマをたくとか、そういう行動がもし入眠につながれば強化されるという意味で好子ですし、他の好子との対提示が必要ないということから生得性の好子であると考えられます。ただし、「眠気」がいつも好子として機能するかと言えば、たとえば仕事が残っているときや渋滞の中運転して帰らなくてはならないときなどは、弱化の弁別刺激にもなり、コーヒーを飲んだり、大声で唄ったりすることで眠気を消す行動が強化されることもあります。

Q: 睡眠を好子として機能させる確立操作にはどのようなものがありますか?
A: 覚醒、夕方から夜にかけての運動、体温の変化(床につくまえにお風呂に入る)などがあります。睡眠導入剤や睡眠薬などはお医者さんに相談の上で。

Q: 夢を見るのは行動ですか?
A: 夢は睡眠中に自発される非顕現的/内潜的行動の一種ですから、行動です。外界との接触がほとんどなく、随伴性は夢の中だけで、覚醒時に比べると強度も弱いと考えられ、このため覚醒時の思考に比べて、不安定で非連続的な展開をするのはないでしょうか。

Q: 起床は行動ですか?
A: 目が覚めるという意味での起床は、睡眠から覚醒への状態の変化であると考えられますが、覚醒状態になるということは、様々な顕現的な行動の自発が始まるということなので、たとえば見る、聞くなどの行動の自発頻度が一斉に上がることになります。なお、朝起きれない人が起きれるようにする介入を考えるときには、目が覚めないないのか、目が覚めても動かないのか、動くけどベッドからでないのかなど、問題の在処をまず特定する必要があります。

引用文献

Blampied, N.M. & Bootzin, R.R. (2013). Sleep—A behavioral account. In G. Madden (Editor-in-chief). Handbook of Behavior Analysis Vol 2. (pp 425 – 453). Washington, DC: American Psychological Association.

Skinner, B. F. (1953). Science and human behavior. Oxford England: Macmillan.

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定義:

愛着:ボウルビィが定義した赤ん坊の母親に対する特別な情緒的結びつき(『心理学辞典』(有斐閣),  p. 4)。 ストレンジ・シチュエーション法:エインズワースによる愛着の質を測定する実験法(同, p. 476)。

行動分析学的解釈:

分離場面で泣く

  • 母親が離れることが泣き行動(レスポンデント)の無条件刺激となっている。
  • 母親が離れることが泣き行動(レスポンデント)の条件刺激となっている(ミルクを飲んでいる途中で母親が用事で離れた:母親が離れる & ミルクの中断)。
  • 母親が習得性好子となり、 母親が離れることが泣き行動(オペラント)の弁別刺激になっている(泣くと母親が戻ってくることで強化される)。
  • 母親が離れることが習得性嫌子となり、 母親が離れることが確立操作となり、泣き行動など、この状態を終結させる行動クラスの自発頻度が高まる。

分離場面で見知らぬ人に接近し、遊ぶ

  • 見知らぬ人が生得性/習得性の好子として機能し、接近行動(オペラント)を強化している。

再開場面でしがみつく

  • 母親の短時間の不在が母親の好子としての価値を高め(確立操作)、
  • 母親が離れることを阻止する行動クラス(しがみつく、泣く、叩く)の自発頻度が高まり、
  • そうすることで母親が不在にならなければ、こうした行動が強化される。

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定義:
 「劇的で‘感情’を強く動かされるような重大な出来事について、初めて知らされたときの状況を鮮明かつ詳細に想起する‘記憶’をさす」(『心理学辞典』(有斐閣),  p. 756)。

行動分析学的解釈:

 この現象の例として取り上げられるのがジョン・F・ケネディの暗殺事件である。事件のあとで、「あのニュース、どこで聞いた?」「何していた?」「誰といたの?」という会話が増えていたのは間違いなく、そのたびに「自宅で家族と食事をしていたよ、ワインを飲みながらさぁ」と回答し、「そうなんだ。俺はね…」というようにタクトが般性強化され、維持されるのではないだろか。タクトが強化される随伴性が確立操作となり、その場面を思い浮かべる(イメージする)という行動も自発され、強化される可能性もある。

 このように考えると、“重大な事件”というのは以下の条件を成立させる事件であろう。
1) それが以前に起こった他の事件と類似してないこと(弁別しやすいこと)。
2) 上記のタクトの初発反応はできる限りその場で自発されること。事件発生から時間が経ち、すでにその場にいなくなってから「どこで聞いた?」と聞かれるようでは、初発反応の弁別刺激(場所の様子、一緒にいる人、時計などなど)がすでに消失しているので、正確な反応が自発されにくくなる。事件発生と同時に電話などで会話が生じることで現場での初発反応が強化される機会が重要なのではないだろうか。つまり、友達にすぐに電話をしたくなるほどの事件ということになる。
3) 事件発生後、長期間にわたって会話による強化が高頻度で続くこと。
4) その間にその事件と類似の事件が起こらないこと(弁別しにくくなり、その他の行動が強化されないこと)。

 事件を知ったことで‘感情’的な(情動)反応が引き起こされることが、このような現象の成立に必要な条件であるようには考えにくい。会話を繰り返すたびに当初と同様の(ただし相対的には微弱な)情動反応が生じ、それが弁別刺激の一部として作用することになる可能性はあろうが、こうした条件反応はいずれ消去される(つまり、事件のことを思い出しても興奮しなくなる)。よって、タクトの手がかりとしては機能しにくいはずである。また、他の事件によって引き起こされる情動反応と大きく異なるとも考えにくいので(ケネディの暗殺事件によるドキドキとスリーマイル事故によるドキドキを区別するのは難しい)、もしこれが弁別刺激の中で主要な作用を持っていたら逆に混乱(誤反応)を引き起こすだろうと予測できるからである。事件を知ったときの情動反応がそのときの周辺刺激に偶発的に条件づけられ、周辺刺激が情動反応を引き起こす可能性はあるが、よほど強い刺激と反応で(たとえばPTSDを引き起こすような)、かつ、周辺刺激がより特殊でなければ(それ以来行ったことも観たこともない場所など)、やはり消失してしまうだろう。

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定義:
 「心理療法において治療者とクライアントの間に存在する人間関係をさす。(中略)治療者は親密で暖かい感情の交流をもつように心がけることが大切であり、ラポールが治療の第一歩である。(中略)受容的態度によって治療に有効なラポールが形成される」(『心理学辞典』(有斐閣), p. 874)。

行動分析学的解釈:
 心理療法では、まず、クライアントの怖れや不安といった情動反応を引き起こす条件刺激や無条件刺激が提示されないように、そして、カウンセラーやカウンセリング室が、クライアントのいかなる発言もカウンセラーがそれを批判せずに聞くという好子出現による強化の弁別刺激、そして嫌子出現による弱化からの復帰の弁別刺激になるように、クライアントにとっての嫌子は出現させず、発言は弱化せず、また内容によって分化強化せずに、どのような発言でも同じように微弱に(大袈裟にせず)強化する。これにより、クライアントの安心した来室行動を自発、維持させ、不安なく話をする行動の頻度を安定的に維持する。

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定義:
 「特定の情報に選択的に注意を向け、他の情報を無視することができるという現象」(『心理学辞典』(有斐閣), p. 114)。

行動分析学的解釈:
 ざわつくパーティー会場のどこかで自分の名前が会話に登場すると、それに気づき、その会話だけがよく聞こえてくるという現象を例に考える。
 まず、ある方向や位置から提示されている音を聞こうとする行動を定位反応と呼ぶ。原始的な反応形態としては、そちらの方向に顔や耳を向けるといった身体的な動作が含まれることが考えられるが、たとえばあからさまに耳をそばだてていることが他者に気づかれるのを回避する理由があるような場面で弱化され、そうした動作を含まずに同じ効果を得られるような学習が進むと考えられる。
 この反応クラスは特定の聴覚刺激を弁別刺激としたその他のオペラントが自発されやすくなるという行動内在的随伴性で強化されていると考える。おそらくは乳幼児期に母親の声を弁別刺激にした視線移動や手を伸ばす行動が母親との接触や授乳などで強化されることで獲得されていくのではないだろうか。
 定位反応が自発された後、定位した刺激が弁別刺激となり他の反応系列が自発されれば(例:噂話をしている人の名前をタクトするとか、噂話についてイントラバーバルとして考えるとか)、こうした反応と両立しにくい、別の音源に定位する反応の自発頻度が下がり、従って周囲の他の音を弁別刺激とした反応も自発されにくくなる。
 原始的な定位反応は、たとえば大きな物音への反応のような定位反射である可能性も大きい。物音がしてそちらに視線を向けたら(レスポンデント)、母親の声がして(オペラント的強化)、その後の反応はオペラントとして強化、維持されるという過程を辿るのではないだろうか。
 オペラントとしての定位反応には、どこに定位するかを制御する弁別刺激が必要であり、どこに定位するかはその選択による強化率によって決まってくると推定される(ハトの選択的注意を一般対応法則から検討した実験については以下を参照)。

Shahan, T. A., & Podlesnik, C. A. (2006). Divided attention performance and the matching law. Learning & Behavior, 34(3), 255-261. doi:10.3758/BF03192881

本シリーズの過去記事一覧:

定義:
 ホーソン実験とは「1924年から32年にかけてシカゴのウェスタン・エレクトリックのホーソン工場で実施された一連の研究」(『組織行動のマネジメント』p. 176、S. P. ロビンス、ダイヤモンド社)である。適度な照明などの労働環境を科学的管理法の視点から探るのが目的であったのがそのような変数は生産性に影響を与えず、実験に参加した「少数のメンバーが、そのように期待されるとそのように行動する」(『組織の心理学』p. 138、田尾雅夫、有斐閣ブックス)という成果に終わった。これが、いわゆる実験者効果を確認したと、ネガティブに捉える解釈が広まり、ホーソン効果というと実験者効果(観察者効果)を意味することが多い。

行動分析学的解釈:
 ホーソン実験とそのデータはその後、さまざまな研究者から最解釈が試みられていて、その解釈は定まっていないが、そのうちの一つが、パフォーマンスフィードバックやペイ・フォー・パフォーマンス、すなわち作業に対する強化随伴性によって作業効率の増加を解釈する考えであることはあまり知られていない。
 Parsonsは下記の論文で、リレーの組み立て作業実験について、組立て個数のフィードバックや給与の一部が歩合制になっていたことによる、賃金による強化随伴性が効いていた可能性を指摘している(実験者効果と随伴性効果の混交)。

  • Parsons, H. M. (1974). What happened at Hawthorne?. Science, 183(4128), 922-932.
  • Parsons, H. M.  (1978).  What Caused the Hawthorne Effect?: A Scientific Detective Story.   Administration & Society,10, 259-283.
  • Parsons, H. (1992). Hawthorne: An early OBM experiment. Journal of Organizational Behavior Management, 12(1), 27-43.

 余談ではあるが、ホーソン実験に参画していた研究者の一人である T. N. Whiteheadとスキナーとの関係性・関連性が下記の論文に推察も含めてまとめられている。Whitehead氏の父がやはりハーバード大学の哲学の教授であり、息子さんも同席した会合での、父 A. N. Whiteheadとのやりとりから、Verbal Behavior の執筆が始まったとのことである。

  • Claus, C. K. (2007). B. F. Skinner and T. N. Whitehead: A brief encounter, research similarities, Hawthorne revisited, what next?. The Behavior Analyst, 30(1), 79-86.

本シリーズの過去記事一覧:

定義:
 「人は他人に対していろいろな期待をもっている。意識すると否とにかかわらずこの期待が成就されるように機能すること」(『心理学辞典』(有斐閣), p. 715)。

 この現象については、ローゼンソールとジェイコブソン(1968)の、教師を対象に生徒たちに対する期待(成績が上がりそうな生徒とそうでない生徒との情報提供、ただし嘘)が、生徒たちの後の成績に影響することを明らかにした実験がよく知られていているが、その再現性や一貫性、効果の大きさについては疑問も呈されていて、追試やメタ分析が多数、行われている。
 ローゼンソールはラットを使った実験実習場面で実験者効果を検討する研究も行っており(Rosenthal & Lawson, 1964)、自分たちにあてがわれたラットが"Skinner-Box Bright"と言われた実験者チームと、"Skinner-Box Dull"と言われた実験者チームとでは、マガジントレーニング、シェイピング、消去と自発的回復などの7つの実験において、被験体であるラットの学習の速さにおいても、実験者によるいくつかの評価においても、群間で差があったことが報告されている。
 ここではそうした違いが生じるかどうかではなく、生じたとしたら、それはどのような変数によるものなのかを推測して解釈する。

行動分析学的解釈:
 他者の行動傾向に関する教示は、ルール(随伴性を記述した刺激)として機能する可能性がある。たとえば、初対面の人を事前に「怒りっぽい人ですよ」と言って紹介され、怒られることが嫌子であるなら、他者を怒らせたことがある様々な行動群の自発頻度は下がり、微笑むなど、他者が怒ることを阻止する機能をもつ行動群の自発頻度があがるだろう(そして、それが成功すれば強化される)。
 同様に、生徒の学習傾向に関する教示も、ルール(随伴性を記述した刺激)として機能する可能性がある。たとえば、「この子はとても賢く、将来有望です」と言われ、将来有望な子どもの成長が好子であるなら、その子を見たり、話しかけたり、質問したり、ヒントをだしたり、正解を褒めたり、誤答に対して解説したりといった、子どもの学習を促したことがある様々な行動群の自発頻度があがるかもしれない。反対に、「この子はあまり賢くありません。将来、期待できません」と言われたら(こんな実験、現代の倫理委員会は通らない可能性が高いですが)、そのような行動群の自発頻度が下がるかもしれない。
 つまり、生徒の行動を変えているのは、教師の行動(生徒にとっては随伴性)の変化であり、教師の行動を変えているのが、教師の生徒に対する行動の強化に関するルールである。「期待」という媒介変数/仮説的構成体がなくても解釈できるし、この場合、「期待」という媒介変数の設定は、重要な制御変数の特定に妨害的に働きそうでもある。
 なぜなら、上述のようなルールによって教師からどのような行動が引き出されるかは、教師がどのような強化履歴をもっているかどうか、何が確立操作として機能するかに依存するのであり、それを調べないと、それこそ「期待」がどのような行動変化につながり、どのような効果をもらたすのかわからないからである。
 数多くの追試実験が行われても結果に一貫性がないのは、こうした重要な制御変数を統制せずに実験をしているからではないだろうか。たとえば、教師によっては「この子はあまり賢くありません。将来、期待できません」という教示が、逆に、その子に注目し、より丁寧な説明をしたり、特別に教材をつくったりするなどの行動を引き出す可能性もあるからである。
 なお、ローゼンソールらが考察しているように、上記のラットを使った実験実習では、出来の悪いラットをあてがわれたと言われたチームの方が、より多くラットに話しかけていたことがわかっていて、これが実験中の妨害刺激としてラットの学習を阻害した可能性がある。出来が悪いゆえに「頑張れ〜、そこだ〜」など、本来すべきではない行動が“善意”から自発されてしまうこともあるわけであり、同じような行動変化が教師対象の実験で生起している可能性もある。

Rosenthal, R., & Jacobson, L. (1968). Pygmalion in the classroom: Teacher expectation and pupils' intellectual development. New York: Holt, Rinehart & Winston.

Rosenthal, R., & Lawson, R. (1964). A longitudinal study of the effects of experimenter bias on the operant learning of laboratory rats. Journal of Psychiatric Research, 2(2), 61-72.

本シリーズの過去記事一覧:

定義:

 「左右単眼像のずれを両眼視差、この情報を利用した相対的奥行き知覚を、両眼立体視という」(『キーワードコレクション 心理学』(新曜社), p. 88)。

行動分析学的解釈:

 奥行き知覚とは事物への距離がその事物に対する行動を制御する刺激性制御である。

 たとえば、バナナに対して確立操作が効いていて、手を伸ばして掴んで引き寄せ、食べる行動が誘発されるとき、二本のバナナのうち、近い方に向けて手をだす行動は、バナナへの距離によって制御される。

 こうした刺激性制御の弁別刺激となっているのが、両眼の網膜上に写るバナバナの像の差異だと考えられる。Schlinger (1998) はこうした刺激性制御が発達の過程でオペラント条件づけされる可能性を理論的に検討している。彼によれば、最初は両眼視差がSdになっていないので、乳児は異なる距離にあるものに同じ頻度で手を伸ばすが、近い方には手が届き(強化)、遠い方には手が届かない(消去)という弁別学習が進むことで、次第に両眼視差がSdになるとしている。

 3Dテレビの映像が立体に見えるのも両眼視差を使っているが、たとえば、エイリアンが飛び出してくるように(物体の距離が近くなるように)刺激変化を作成すれば、体を動かしたり、顔をそむけたりするような逃避/回避のオペラントが自発される。これも両眼視差による刺激性制御と言える。

 事物への距離が行動を制御するときのSdには他にもきめや勾配、運動視差などがあるが、Schlinger(1998)はこれらも同じように弁別の随伴性によって獲得されるオペラントの刺激制御であると解釈している。

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Twitterで流れていて面白そうだったので、Beran et al. (2013)を読んでみた。

Michael J. Beran, M. J., Smith, J. D., and Perdue, B. M.  (2013).  Language-Trained Chimpanzees (Pan troglodytes) Name What They Have Seen but Look First at What They Have Not Seen.  Psychological Science, 24(5), 660-666.

人以外の動物に「メタ認知」があるかどうかは“大論争”になっているそうで(昨年度、大阪大学の三宮先生の特別講義でもそのような話をされていた)、この研究はチンパンジーにはメタ認知があることを示したもの(と著者らは主張している)。

手続きとしては、まず、チンパンジーにタクト/マンドを教える。反応形は記号を使ったselection-based tact/mandで、好子はバナナ、ジュース、さつまいも、キウィ、オレンジ、M&Mなどなど。

実験者が好子を容器に入れ、事前にチンパンジーに見せてから反応機会を与えるのだが、実験条件として、容器に入れた好子を見せる条件と容器だけで中身は見せない条件を設定する。その後、実験室の別区画に移動し、チンパンジーは対応する記号のついたボタンを押してタクト/マンドするか、容器に近よって何が入っているのかを観察してからタクト/マンドできる(近よれば中に何が入っているのか見えるようになっている)。

このような条件で、容器の中に何が入っているのか「知っている」ときにはすぐにボタンを押し、「知らない」ときには観察反応が生じることから、容器の中に何が入っているか知っているか、知らないかをチンパンジーは自分でわかっているとしたのが実験1。

ただ、それだけだと、事前に見せられた好子を手がかりにしているだけの可能性がある。見せられたもの名前をタクト/マンドし、見せられなければ観察しにいけばいいから。だから実験2では、異なる好子を入れた2つの容器を使い、そのうち一つだけをチンパンジーに見せ、そのどちらかを移動させ、タクト/マンドする機会を提示した。つまり、今度は、見たものの名前をタクト/マンドするだけでは強化率は50%になってしまう。中身を見たものが移動されたかどうか、その中身が何であったか、すなわち、より「知っている」ことを示す条件を厳しくしたわけだ。そして、それでも実験1と同等の結果が得られることが示されたことになる。

やたらと複雑な手続きを用いているが、要するに、ある反応(この場合、タクト/マンド)が強化されそうかどうかを弁別刺激とした弁別(できればそれぞれに対応した異なる分化反応を形成?)が成立することが示されているようである。

であるなら、たとえば、ハトを使った遅延見本合わせで、比較刺激提示時にFR20とかの反応コストをかけた観察反応を見本刺激の再提示で強化するなどをしたら、遅延時間が短く(例:遅延0秒とか)、そのまま比較刺激に反応しても正解する(強化される)ときはそうするだろうし、遅延時間を長くして正答率がチャンスレベルに近づいてきたら(強化率が下がったら)、観察反応が自発されるのではないだろうか。もちろん、これだと、本当にハトが覚えているかどうかではなく、遅延時間がSdになっているだけという可能性があるから、たとえば、プローブとして比較刺激に見本刺激が含まれていない試行や、見本刺激を提示しない試行などを含めてもいいかもしれない。つまり、実験者側がハトが明らかに正解を「知らない」とわかっている条件を工夫する。

“大論争”に関する論文はまったく読んでいないので、ピントを完全にはずしている可能性はあるけれども、ある反応の強化可能性を手がかりにした弁別であるなら、人やチンパンジー以外の動物でも成立しそうな気がする、というのが感想。

それを「メタ認知」と呼ぶかどうかについは定義の問題だと思うので、認知心理学者の方々にお任せである。

なお、ヒトに特有そうな「メタ認知」の行動分析学からの解釈はこちらから。

本シリーズの過去記事一覧:

蛇足:

この論文、けっこうあちこちで取り上げられている。検索したら、メディアに取り上げられそうな、この手の研究を紹介するサイトがいくつか見つかった。見つかったのだが、たとえば、独立行政法人国立健康・栄養研究所という組織が運営しているLinkDeDietというサイトでは、出典の「Psychological Science」が「心理科学」になってたりする。もしかして自動翻訳??

定義:
 「先行刺激の受容が後続刺激の処理に無意識に促進効果を及ぼすこと」(『心理学辞典』(有斐閣), p. 754)。

行動分析学的解釈:
 条件刺激、無条件刺激、弁別刺激、確立操作、プロンプトなど、特定の行動や行動群を誘発する機能をもった刺激は、その刺激に対する反応がタクトやテクスチャルとして顕現化しなくても(提示時間が短かったり、他の刺激に遮蔽されて、刺激が提示されていることに"気づかなくても")、刺激と行動との関係をタクトできなくても(その刺激がその行動を引き起こすことを"知らなくても")、当該の行動の強度を制御しうる。強度が強まれば、その行動を誘発するその他の環境条件が整ったときに、その行動が顕現化する(観察可能な強さで自発される)確率が高まる。

 『心理学辞典』の例で視考してみた。提示時間を短くしたり、遮蔽して、プライミング刺激である「だいどころ」が直後のテクスチャルやタクトを顕現化するまで強くしないようにしても、その後、元々「だいどころ」を誘発する刺激操作を加えれば、プライミング刺激が提示されなかったときに比べて、この反応の自発確率が相対的に高まる。あるいはプライミングされなかった刺激に対する反応(例:「だいまぐろ」や「ほうちょう」)に比べて相対的に自発される確率が高まる。つまり、これは多重制御における一部の刺激が時間的にずれて(前に)提示されたときの効果を測定したものとも考えられる。

Photo

 そしてこのように考えると、そもそもこの元々の刺激性制御が成立していない刺激や反応であれば、プライミング効果は確認できないはずである(例:「ちかてつ」を提示しておいても、「料理」から連想する言葉として「地下鉄」がでるとは考えにくい)が、そのような実験があるかどうかは未確認である。
 私自身はプライミングの実験をしたことがないのだが、おそらく、最初の顕現反応を抑え、かつ、相対的頻度がうまく上がる刺激や操作を選択、調整する予備実験が欠かせないのではないだろうか。つまり、そういう選択調整して均衡のとれた状態を測定するという手順になりそうな気がする。

 刺激性制御によるこうした解釈は、Apple社のロゴをみせた方がIBM社のロゴをみせるよりも"創造的な"反応が増える(用途テストにおける反応数が増加する)というような実験結果(Fitzsimons et al., 2008)には直接あてはめることができない。プライミングはあくまで手続きや効果の名称として限定し、効果の仕組みについてはそれぞれ別途に分析、考察する必要があると思われる。

Fitzsimons, G. M., Chartrand, T. L., & Fitzsimons, G. J. (2008). Automatic effects of brand exposure on motivated behavior: How Apple makes you 'think different.'. Journal of Consumer Research, 35(1), 21-35.

本シリーズの過去記事一覧

定義:
 「認知過程に関する知識、自己の認知状態やその過程の評価、認知過程や方略の実行制御、認知活動に関連した感情的評価といった広範囲な心的事象」(『心理学辞典』(有斐閣), p. 831)。

行動分析学的解釈:
 「自分は情に流されやすい」や「早とちりが多い」、「文章を読むのは得意だが計算は苦手」や「人の話を聞くのが得意」など、基本的には自身の行動特性のタクトである。
 個々のタクトの獲得過程は、 1) 刺激般化:早とちりが多いひとに対して「早とちりが多い」とタクトすることが獲得されてから、同じ間違いをする自分の行動に対して「(自分も)早とちり」とタクトする、2) 拡張的なモデリング(エコーイック&タクト):「お前は情に流されやすいよ」と言われ「俺は情に流されやすいんだな」で「そうだよ」、3) 隠喩的拡張:瞬間的に面白いことを考えつくけど長続きはしない自分を「花火のように考えるところがある」と自発する、などが想定できる(おそらく他にもあるだろう)。
 多重制御として、「自分は早とちり」だから「勘違いを許してね」とか「怒りっぽい」けど「すぐに忘れるから気にしないでね」のような、聞き手に対するマンドや、「計算は苦手」だから「この仕事は○○さんに頼もう」のような問題解決的弁別刺激もしくは確立操作として機能することも考えられる。純粋なタクトと、このように他に強化随伴性がある(言い換えれば他に機能のある)タクトとは分けて分析すべきであろう。
 タクトの正確さや自発頻度はその他のタクトと同様に随伴性次第と言えるが、自分の行動(たとえば計算間違いなどの具体的な事実)を弁別刺激として“メタ認知”タクトを自発し(「計算が苦手」)、直後に「やっぱり、そうだよな」と納得するように、話し手と聞き手が同一である強化事態が多い言語行動でもあるといえるだろう。従って、問題解決や学習効率、社会的適応の向上を狙ってこの種のタクトを訓練する場合には、訓練後、他者の介在がない状況でも標的行動が自発、強化されるように、あらかじめ訓練プログラムに行動の罠を仕組む必要がある。

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定義:
 「実体鏡などにより、実験的に両眼の対応部にある程度異なった対象を同時に呈示すると、同時に二つの対象が知覚されることは少なく、両対象が片眼に交互に現われたり、部分的に重なりあって現われたりする」(『心理学辞典』(有斐閣), p. 379)。

行動分析学的解釈(前試案段階):
 我々の「見る」行動は両眼に提示されたほぼ同じ刺激か、単眼に提示された刺激の刺激性制御を受けるように強化されてきた。系統発生的な選択の過程により、そもそも両眼に異なる刺激が提示されたときにそれを同時に別々に「見る」オペラントは両立しないようになっているのかもしれない。どのようにそうなっているかは神経生理学的な研究による検討対象となるだろう。あるいは個体発生的な選択の過程(すわなち学習)でそのようなオペラント(左右に異なる刺激が提示されたときにそれをまとめて一つの刺激として反応すること)が強化される機会がなかったということなのかもしれない。そのようなオペラントを強化できるかどうかを検討した実験があるのかどうか私は知らないのだが、両眼にそれぞれ呈示する刺激の内容によって知覚される時間に差があるという実験報告もあるようなので、もしかすると少なくとも時間配分についてはオペラント的制御を受ける可能性があるのではないかと予想する。
 魚類のように、両眼視野と独立した単眼視野の両方を使って生きている生物でも視野闘争は起こるのだろうか? ヒトでも視覚に比べれば左右で異なる刺激が同時に提示されることが多そうな聴覚ではどのようになるのかと、この分野はよく知らないだけに興味津々。

参考サイト: How to Create and Use Binocular Rivalry

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定義
 危険や不快な状況、内的な衝動を満足できないときに、自己を守ろうとする、無意識的な手段(『キーワードコレクション心理学』(新曜社), p. 232-235)。

 精神分析の用語であり、“心理学の基礎概念”と言えるかどうかは定かではないが、臨床におけるさまざまな具体例は行動分析学から解釈する価値が十分にある。スキナーとフロイトは一見対極にいるように見えるが実はその考え方に共通点が多いという指摘もあるし(Overskeid, 2007)、臨床行動分析(ランメロ・トールネケ, 2009)、弁証法的行動療法など、最近ではこうした領域にも行動分析学的なアプローチが用いられ始めているからだ。

 そこで、以下、防衛機制のいくつかの例について、行動分析学的に解釈を試みる。ただし、もちろん、行動分析学では「自己」や「無意識」を“実体”としてとらえるわけではない。たとえば、「抑圧」の解釈をしても、それは「抑圧」として分類されている例の解釈であって、「抑圧」そのものの解釈ではないことに注意すべきである。

“抑圧”の例:
 (例ではないが)受け入れることが苦痛な考えは意識にのぼらないように防ぐ。
行動分析学的解釈:
 思い浮かべたり、考えたりする行動の結果(思い出されたこと、そこからさらに連想されたこと、引き起こされる情動的反応)が嫌子であると、思い浮かべる行動や考える行動が、内在的随伴性によって弱化される。そして、そのことが言語化できないことがある(強化同様、弱化も言語化されずに生じる)。

“否定”の例:
 「息子の戦死」を知らされても信じない。
行動分析学的解釈:
 思い浮かべたり、考えたりする行動の結果が嫌子であると、それと逆のことを思い浮かべたり、考える行動(「息子はどこかで生きているに違いない」など)が、不安という嫌子の消失や、嫌子出現阻止の随伴性によって強化される。

“投射”の例:
 母親に対して自分が敵意をもっていることを抑圧し、母親が自分に敵意を持っていると考える。
行動分析学的解釈:
 「お母さんが嫌い」というタクトは社会的には強化されにくく弱化される可能性もある。そのため、「お母さんが嫌い」というタクトの自発頻度が下がるだけでなく、行動内在的に罪悪感などの嫌子出現によっても弱化される。母親に対して悪態をついたり、暴力をふるう行動も社会的には強化されにくく弱化される可能性が大きいため、悪態をついたり、暴力をふるった後で罪悪感(自己嫌悪感)が生じる。「お母さんは私のことを嫌いなのよ」というタクトは、こうした罪悪感を低減させたり(嫌子消失による強化)、あるいは母親に向かってそのように言うことで母親が悲しむ様子によって強化されたり(攻撃性好子による強化)、母親からの“攻撃”と受け取るような行動(「いつまでもテレビ見てないで早く宿題しなさいよ」など)を回避したりすることで強化される。つまり、マンド的に多重制御されている。

“合理化”の例:
 イソップの「すっぱいぶどう」。
行動分析学的解釈:
 キツネが葡萄を跳び上がってとろうとするが、とれない。消去とバースト。攻撃性好子の確立操作により、“捨て台詞”が誘発される。「どうせすっぱくてまずい」というタクトには攻撃性の確立操作の効果を打ち消す効果があるのかもしれない。だとすれば、やはり、マンド的に多重制御されていることになる。

“知性化”の例:
 夫が癌であることを宣告された女性が癌に関する知識を一生懸命に求める。
行動分析学的解釈:
 調べる行動が少しでも希望をもたらせば(効果のある治療法や生存者の存在など)、調べる行動は間欠的に強化される。また、調べ、考えているときには、両立しない、より不安をふくらませる行動の頻度が強制的に低下するため、不安という嫌子消失によっても強化される。

“抑制”の例:
 会話をしているとき「核戦争のことは明日考えよう」と言って話題を変える。
行動分析学的解釈:
 不安が確立操作となり、話題を変えるきっかけとなる言語行動が不安の低減により強化される。

“補償”の例:
 (例ではないが)自分弱点をカバーするために他の望ましい特性を強調する。
行動分析学的解釈:
 “弱点”を発見されたり、指摘されるという嫌子を回避する行動(他のことに注目をひく)が強化される。また、望ましい特性に注目をひくという行動は注目や社会的承認によって強化される。

防衛機制の下位分類はまだまだ続く(“反動形成”、“置き換え”、“昇華”、“同一化”、“逃避”、“退行”、“隔離”、“打ち消し”)。基本的には不安や罪悪感などの嫌子を出現させる何かしらの確立操作が作用し、その不安や罪悪感を低減させたり、回避させる行動が強化される随伴性がその背景にあるようだ。機会があれば、また今度。

Overskeid, G. (2007). Looking for Skinner and finding Freud. American Psychologist, 62(6), 590-595.

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定義
 “今より先の時点で、あるアクションを起こしたり‘プラン’を実行することを覚えている記憶”(『心理学辞典』(有斐閣), p. 619)。

行動分析学からの解釈
 「駅までの道のりの途中にある郵便ポストで葉書を投函しよう」というようなルール(「A:後でポストを横切るときに、B: 葉書を投函すれば、C: あさってには相手に到着する」と等価な省略形)には、今はここにないが将来提示される郵便ポストに投函行動の弁別刺激としての機能(行動喚起)を付加する機能がある。これはルールの機能変容作用(function-altering effects)の一つと考えられる(Schlinger, & Blakely, 1987など)。行動が遂行されるためには、弁別刺激が提示されなくてはならない。たとえば、駅まで歩いているときに考え事をしたり、他の刺激を注視(カラスがゴミを喰い散らかしているのを見たり)していると(つまり、郵便ポストを見る行動と両立しない/しにくい行動が自発され強化されていると)、行動が自発されない(「〜し忘れる」)。将来の行動の遂行率を上げるためには、様々な方法で(例:玄関を出るときに葉書を鞄に入れずに手に持ったままにして、「ポスト、ポスト」と言い続けるなど) 弁別刺激が確実に提示されるように工夫する必要がある(旅行の予定を手帳に書き込んだりするのは。こうしたスキルの一つである)。なお、歯磨きなど日常的にルーチン化した行動は行動連鎖化によって引き起こされているので、そこに関与している制御変数を検討すると、上述のような未来の行動計画とその遂行とは別のものとして捉えるべきであろう。なお、ルールがもつこのような作用については理論的な分析が多く、実験的な検証はまだまだこれからである。

Schlinger, H., and Blakely, E. (1987). Function-altering effects of contingency-specifying stimuli. Behavior Analyst, 10(1), 41–45.

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定義
 “卓越した目標を設定し、困難を克服しながら、それを成し遂げようとする動機”(『キーワードコレクション心理学』(新曜社), p. 217)。

行動分析学からの解釈
 他者にはできないことができたり、自分にできなかったことができるようになったり、最初はなかなかできそうにないことができるようになっていくことが習得性好子となり、できるようになろうとすることを探す行動、目標を立て、達成するための計画を立てる行動、目標達成度を知る行動、うまくいかないときにどうすればよいかを示す手がかりを探す行動などが、うまくいっていない状況を確立操作として誘発され、少しうまくいったり、なぜうまくいかないかがわかることが上記の最終的な好子までの条件性好子として機能し、部分強化スケジュールで強化されること。
 達成動機の高い人はこれらの事象が好子となっているため、“自分自身の評価にもとづく場面での作業効率が高い”、“仕事のパートナーとして専門家を選ぶ”(『キーワードコレクション心理学』(新曜社), p. 217)、“与えられた課題をよりよく遂行しようとする”、“自らの活動の成果を知りたがる”(『試験にでる心理学ー一般心理学編ー』(北大路書房), p. 322)という傾向にあると考えられる。

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定義
 “自分自身を全体として肯定的に評価することであり、人間が心理的に充分に機能するための基盤を支えるもの”(『心理学』(有斐閣), p. 330)。
 “自己に対する評価感情で、自分自身を基本的に価値あるものとする感覚。(中略)自尊感情は、その人自身に常に意識されているわけではないが、その人の意識態度を基本的に方向づける”(『心理学辞典』(有斐閣), p. 343)。

注記:
 心理学研究にはよく登場する概念であるが、上の引用からもわかるように定義は抽象的で、これを測定するためだけに開発された各種の尺度(質問紙)で測定される(or 測定されていると定義される)心的概念である。何だかよくわからないものを解釈するというのも非常に困難であり、ほぼ不可能なようにも思えるので、ここでは“自尊感情”と言われている構成概念の一部分を拾い上げて、行動分析学から解釈することにした。

行動分析学からの解釈
 自分に関するタクトとそれがもらたらす情動レスポンデントである。自分に関するタクトは、表現上、能力や性格に関するタクトが多い(例:「自分は何でもうまくやれる方だ」や「自分は役に立たない人間だ」)。直接の弁別刺激は実際に何かに成功したり、達成したときや、失敗したり、やりたいことができなかったという成功や失敗であるが、そのさいに提示される他者の評価(例:「お前はこんなこともできないのか」)や自分の評価(例:「また失敗した」)のエコーイックや、他者からの賞賛を求めたり、次回の失敗による評価の低下を回避するマンド、こうした言語刺激からさらに派生していくイントラバーバル(例:「こんなこともできるなら次にはあれに挑戦してみよう」や「身の程知らずだった。俺なんかは静かにしていればいいんだ」)と、制御変数は多重である。そして、自らのこうした言語行動(内言であっても、外言であっても)が条件刺激として作用し、自分自身に情動反応(気分の高揚や抑うつ感)をもたらし、さらに条件性抑制(や確立操作)として他のオペラントに影響するとき、これを“自尊感情”と呼んでいるようである。抑うつ感をもたらす言語行動(いわゆる“マイナス思考”)は、上述のような強化随伴性があれば、抑うつ感という嫌子出現だけで弱化されることはなく、自発が続く。そして、このマイナスの連鎖によって不適応を起こすこともあるだろう。ちなみに、ACT(Acceptance and Commitment Therapy)の面白いところはRFT(Relational Frame Theory)の考え方を臨床に持ち込んだ点にではなく、オペラントであるタクトも、レスポンデントである否定的感情も、本人の“意志”ではどうしようもない、強化随伴性によるものであること。そして、そこから、だから無理矢理に気持ちを変えようとはせずに、それでもそうした状況を少しずつ変えていくという臨床のテクニックとして技法化した点にあると私は考える。いずれにしても、行動分析学からこのように解釈するなら、“自尊感情”は環境によって(本人が取り組むさまざまな課題とその達成の如何、回りの人の評価、本人の評価)、変容可能性のあるものと捉えられる。

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定義
 過去の経験を元に構造化されている認知的枠組みのこと。バートレットによる物語の伝聞を使った古典的な研究にみられるように、人は与えられた情報をスキーマに基づいて理解し、つじつまがあうように再体制化して記銘し、再生する(『心理学』(有斐閣), p. 94、『キーワードコレクション心理学』(新曜社), p. 184-187) 。

行動分析学からの解釈
 人は与えられた刺激に対し、これまでにその刺激やそれに類似した刺激に対して自発し、強化された行動(オペラント)や条件づけられた行動(レスポンデント)を自発する。誘発された行動はひるがえって弁別刺激や確立操作となり、その他の関連する行動を誘発していく。強化や条件づけの履歴はある文化や世代などで共有されていることが多いから、実験者が意識する/しないに関わらず、実験参加者の反応は、実は実験者が提示した刺激(S+やS-)によってのみ制御されているわけではなく、こうしたこれまでの強化歴に影響されて出現する、その他の刺激との多重制御になっていることに注意すべきである(S+はSdと同一ではないということ)。バートレットの実験などからわかることは、こうして誘発される派生的な行動同士が主題的に一致する場合(刺激等価性が確立している場合)に派生的な行動は強化されるが(つまり後で再生されやすい)、主題的に一致しない行動は、そもそも矛盾するタクトやイントラバーバルの自発が抑制される、もしくは自発されても強化されにくいということだろう。これは、見たり聞いたりしたことを後で報告するときの強化随伴性が、一般的には“つじつまがあう”報告を強化するようになっていることの影響であり、その随伴性が変われば、それにあわせて刺激の“処理”も変容するのではないかと予想される。たとえば矛盾する情報があればそれを発見し、報告する行動を強化する条件を導入すれば、“無意識的に記憶が変容される”ことなしに、ありのままに報告するようになるかもしれない。こうした条件性弁別が確立したとすれば、それは新たな「スキーマ」と呼ばれるのだろうが、行動分析学からすれば、それは文脈刺激による条件性の刺激性制御ということになる。

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 法政心理の大学院入試の用語問題には、心理学の基礎的な概念が出題されます(法政心理キーワード)。

 うちのゼミで試験勉強中の研修生の発表(勉強した用語をゼミで解説する)を聞いていて、こうした概念や用語を行動分析学から解釈していくのも面白そうだなと思いました。

 こうした作業は「翻訳」と呼ばれ、たとえば『行動分析学から見た子どもの発達』という本の中でシュリンガーは発達に関わるさまざまな概念を行動分析学から解釈しています(お勧め本)。

 気が向いたときにコツコツと書きためていってみようかなと。まぁ、自分にとってのメモみたいなものだから、正確さや妥当性はあまり信用しないで下さい。

 今回は知覚心理学から「マガーク効果」について。

マガーク効果

定義
 音韻の知覚が聴覚刺激だけではなく視覚刺激の影響も受ける現象のこと。たとえば/ba/と発音したときの音を聴覚刺激として、/ga/と発音したときの顔の表情を視覚刺激として、両方を同時に提示すると、/da/と聞こえたように感じる(心理学事典, pp.806-807) 。

行動分析学からの解釈
 音声と表情を組み合わせて提示すると、音声だけではなく表情による視覚刺激もエコーイック(聞こえた音を繰り返す)や象徴的見本合わせ(聞こえた音に対応する文字を選ぶ)に刺激性制御を持つようになる。これは言語習得の段階で聞き手が話し手の表情を観察しながら音声に適切に反応することで強化される学習履歴を考慮すれば、複合刺激の各要素、もしくは組み合わせが刺激性制御を確立する過程として解釈できる。
 刺激の過剰選択性の研究からすると、もしかすると自閉性障害をもった人だと生じにくいかもしれない。モダリティの異なる刺激の複合が刺激性制御を持つようになるのは音声と表情には限られず、たとえば味覚は視覚の影響を強く受けることはよく知られている(例:うちのゼミの研究でも、同じ紅茶の味覚評定がコップの色によって変化することがわかっている、など)。

 

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