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 畿央大学の大久保賢一先生による『3ステップで行動問題を解決するハンドブック』。4/25(木)に刊行予定ですが,さきほどAmazonをのぞいたら「Amazon 売れ筋ランキング: 本 - 1,357位」となっていました。なかなかの注目が集まっています(笑)。

 本書では,応用行動分析学の研究で効果が確認されているシェイピングやチェイニングなどの技法が,学校ですぐに使える手順として解説されています。単なるハウツー本ではありません。なぜ,どういうときに,どの技法を使うべきかを判断するための課題分析やABC分析の方法も,イラストやダイアグラムを交えて,わかりやすく示されています。

 小中学校(だけではなく,幼稚園や高校でも)で働く先生方が,子どもや親を責めず,そして自分も責めず(つまり,個人攻撃の罠から抜け出て),指導方法を見直し,改善していくのに便利そうです。

 それにしても行動分析学関係の出版が続いていますね。Amazon(日本)で「行動分析学」を検索すると,509件がヒットします(もちろん内容がかけはなれた本もひっかかってきます)。これは Amazon.comで "applied behavior analysis"を検索したときの807件にはかないませんが("behavior analysis"だと色々ひっかかりすぎて "over 3,000 results"),Amazon(ブラジル)で"Análise do Comportamento"を検索したときの171件を凌駕します。

 英語以外の言語で,しかも翻訳ではなく原著として出版されている文献の件数は,日本語がトップなのではないでしょうか(根拠はないです。誰かスペイン語とかノルウェー語とかで調べたら結果を教えて下さい)。

 著者の大久保先生ですが,ここ数年の間に,徳島県やその他の地域でスクールワイドPBSを普及させてきた立役者のうちの一人です。子どもたちの学習と成長を重んじ,現場の先生たちと一緒に汗を流し,苦労と喜びを分かち合うことができ,かつ,研究もしっかりできる,頼りがいのある仲間です。学校に違いをつくる仕事は簡単ではありませんが,あきらめず,少しずつでも前に進むことができることを身をもって示されています。そういう建設的な取り組みがさらに広がるのに本書もきっと役立つことでしょう。

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 弊著『部下を育てる! 強いチームをつくる! リーダーのための行動分析学入門』(日本実業出版社)の中国語版が台湾で出版されました。

 表紙からはまるでかつての宝島のようなムック本的印象を受けますが、ぱらぱらと頁をめくった限り、中身はそのまま訳されているようです。なんといっても中国語が読めないので、留学生のゼミ生に頼んで内容を確認してもらおうと思います。

 検索したら、このECサイトから注文できるようです。日本から注文できるかどうかは不明です。

 京都で開催された国際行動分析学会(ABAI)も大盛況のまま終了し、この夏、というか春から、ずっと続いてた常識を越えた忙しさも一段落。ようやく一息つけそうです。

 というわけで、9月17日に刊行された拙著のご紹介です。

 『リーダーのための行動分析学入門』(日本実業出版社)は、副題にあるように、部下を育て、強いチームをつくる方法を解説したビジネスパーソン向けの本です。

 行動分析学をベースにしたコンサルテーションをグローバル企業に提供しているCLG(Continuous Learning Group)のアジア進出に伴い、彼らの協力を得て、大企業への介入事例も掲載しています。

 CLGは以前にも日本の某大手企業にコンサルを提供したことがあり、その会社の大型M&A案件を成功に導くことに貢献しています。このとき、CLGを起業した当時のCEOの一人、Leslie Wilk Braksik博士に頼まれて、彼女の著書『Unlock Behavior, Unleash Profits』の日本語翻訳をお手伝いしました。クライアント企業内の研修に使うためでした。
 LeslieはWestern Michigan University大学院時代の同級生で、右も左もわからないままKalamazooに着き、アパートが見つかるまで学部生用のドミトリーの部屋で寂しく暮らしていた私をテニスや食事に誘ってくれて、友達づくりを後押してくれた恩人です。その恩返しにでもなればと思い、お手伝いさせていただいたのです。
 今回、日本と韓国にオフィスを構え、本格的にビジネスをスタートするので色々と手伝って欲しいという彼女の要請に応え、最初は彼女の本の翻訳を正式に出版することも検討していました。ですが、日本の経営者やビジネスパーソンにとって、よりわかりやすく、伝わりやすい本にするためには、日本の文化や慣習も考慮し、日本での事例も加えた方がいいだろうということになり、『Unlock Behavior, Unleash Profits』に紹介されている、CLGの考え方や方法論、用語や事例などを使う許諾をいただき、オリジナル本として書き下ろしました。

 先々週、Amazonの「売れ筋ランキング」を見ていたら、この本が「ビジネス・経済」の下の「実践経営・リーダーシップ」の下の「CI・M&A」のサブカテゴリーに入っていました。確かにM&Aの事例も紹介しているのですが、同じレベルのサブカテゴリーに「リーダーシップ」もありますから、妙な感じもします。出版社の担当編集者さんに質問したら、このサブカテゴリーの指定は出版社にはできないそうです。Amazonが独自に分類しているとのこと。
 なんて書きながら、今一度「売れ筋ランキング」を確認したら、今日は「経営理論」に入っていました。う〜ん、謎(笑)。

 これまでも行動分析学からビジネスやマネジメントについて書かれた本は、拙著『パフォーマンス・マネジメント』を含め、数冊あります。でも、日本や海外における具体的な事例が掲載されている本はこれが初めてだと思います。
 M&Aと行動分析学?と疑問に思われる方は、去年、CLGが開催したセミナーの資料をご覧下さい。数々の大規模M&Aを成功させている、JTの新貝康司氏(現代表取締役副社長)もパネリストとして登壇されたセミナーです。

 海外進出に伴い、現地社員や顧客とのやりとりで文化の差につまづく企業もあると聞きます。国内でも、外国人を雇用したり、女性を登用したり、異世代の若手に活躍してもらうためには、これまで通りのやり方に限界を感じている経営者や管理職の方が多いのではないでしょうか。
 行動分析学には国や文化や世代を超えて適用可能な「行動の法則」と、国や文化や世代や個人に独特の“個性”や“多様性”に対応できる方法論があります。グローバリゼーションとダイバージョンが鍵になる次世代のマネジメントに、この方法論をぜひともご活用下さい。

使える行動分析学: じぶん実験のすすめ (ちくま新書) 使える行動分析学: じぶん実験のすすめ (ちくま新書)
島宗 理

筑摩書房  2014-04-07
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 4/7(月)に書店に並ぶ予定の新刊です。

 セルフマネジメントの本、というより自分にあったセルフマネジメントをみつける方法についてまとめました。

 私の授業では受講生が自分で自分の行動を変えるプロジェクトに取り組みます(私も一緒に取り組みます)。本書にはそうした学生の取り組みを掲載しました(私の取り組みもいくつか紹介しました)。片づけ、ダイエット、勉強、早起き、スポーツ、音楽など、様々なテーマのじぶん実験の実例を読むことができます。

 標的行動の決め方、測定方法、行動の原因推定、グラフの作成方法、解決策(介入)の立案方法など、これまでに出版された同じような本に比べると、細かすぎるほどの細部にまで突っ込んで書きました。

 行動分析学について本で読んだり、授業をとって勉強しても、いざ行動を変えようとすると何をどうしていいかわからなかったり、うまくいかなかったりするという声はよく聞きます。なので、本書では、受講生の皆さんがつまづきやすいところとか、犯しやすい間違いとか、よくある疑問や勘違いなどに、できる限り対応しました。

 「じぶん実験」と銘打っていますが、応用行動分析学、シングルケースデザインの基本をおさえていますから、「たにん実験」をする人にも役に立つと思います。

 内容的には大人向けですが、よく本を読み、勉強している高校生なら十分に理解できるように書きました。高校で心理学を教えている学校はまだまだ少ないようですが、じぶん実験を一学期やる授業なんて、きっと面白いと思いますよ。

 光文社の「人は、なぜ約束の時間に遅れるのか」では、「心」を行動随伴性として見える化する方法について書きました。あの本で予告したように、行動分析学の見える化は、視考したダイアグラムに基づき、行動随伴性を変え、それで行動が変わるかどうかをグラフにして判断することで完結します。本書には、行動を見える化したグラフもたくさん掲載しました。

 行動科学を象牙の塔の外に出すという野望が見え隠れする本ですが、それを自分で行ってしまっては身も蓋もないか。

 ぜひとも、お召し上がり下さい。

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 アメリカの獣医師の会である、American Veterinary Society of Animal Behavior (AVSAB) が「罰」を使った躾や訓練に関する声明文をだしていることを以前この記事でご紹介しました。この声明文の日本語訳が掲載されている本があることを、先日、中島定彦先生に教わりました。

内田佳子・菊水健史(2008)犬と猫の行動学--基礎から臨床へ-- 学窓社

 さっそく購入して読んでみました。声明文の訳はしっかりしているし、学習理論の章もわかりやすく書かれている本だと思いました。「罰」に対する声明文を読みたいが英語が苦手という方は参照して下さい。ただし、Amazonでは取扱がなく、楽天ブックスにあった(その時点での)最後の在庫を私がいただきましたので(^^)v、現時点では学窓社のサイトで直接注文するのが最短のようです。

 この本にはDVDもついていたので観てみましたが、こちらはかなり謎だらけです。

 どうも犬の訓練関係の人たちは(Excel-erated Learningで有名なPamela Reidもそうですが)、レスポンデントとオペラントを混同しているか、あるいは私の知らない特殊な理論を用いているようで、たとえば、「おすわり」というコマンドの後におすわりをした後でフードをあげる手続きを「古典的条件づけ」と説明しています(正しくは「道具的条件づけ」もしくは「オペラント条件づけ」です)。
 褒め言葉("グー")とフードを対提示することで褒め言葉を二次性強化子(習得性好子)にするという手続きのシーンでは、「順行/逆行条件づけ」の話がでてきて、条件づけられるのはフードが持つ「嬉しい」「大好き」という感情だと説明されています。順行/逆行条件づけはレスポンデント条件づけで用いられる概念ですし、フードが有する無条件刺激としての主な機能は「唾液分泌」です。涎がでることを「嬉しい」「大好き」と比喩として使っているのか、擬人化しているのか、そのような無条件反応を確認しているのか、よくわかりません。
 そもそも訓練や躾の文脈で「強化子」について説明しているわけですから、褒め言葉について着目すべき機能変容は、無条件刺激から条件刺激への変化(レスポンデントでの文脈)ではなく、行動を強化する機能のない刺激から強化する機能のある強化子への変化(オペラントの文脈)です。どうもこのあたりがごっちゃごちゃになっているようです。
 一箇所だけなら単純ミスかと思うのですが、一貫していますので、何かしらの勘違いか、新(奇)理論かと思うわけです。本文にはそのような混同がみられないだけにいっそう不思議です。

 他にも、おすわりを強化せず、ふせを強化する手続きを「シェイピング」と呼んでいたり(分化強化ではありますが、逐次接近して新しいレパートリーを形成しているわけではないので"シェイピング"にはあたりません)して、ツッコミどころが満載です。

 その中には、よくよく考えてみると、実験的(基礎的)、応用的(臨床的)、理論的に興味深いこともたくさんあります。

 たとえば、上記の褒め言葉もそうですが、習得性好子には、次の(本来の)強化随伴性の弁別刺激となっているからこそ強化力がある場合と、そのようなローカルな随伴性がなくても好子として機能する場合があります。クリッカートレーニングに使うクリック音は前者の例ですし、飼い主は後者の例です。前者の成立要件は明らかですが、後者の成立要件はそれほど明らかではありません。対提示する好子の種類を圧倒的に増やせば般性好子になるだろうと理論的に推察することは可能ですが、実際そうなのかどうかはよくわかりません。前者についても、非常に細かなところ、たとえばそれこそレスポンデントでいうところの順行/逆行のような提示順や時間差の問題がそれほど明らかになっているわけではありません。
 どのような習得性好子をどのように作れるかというテーマは基礎、応用、実践で、多くの人が興味を持つところなので(たとえば、自閉症がある子どもに他者との関わりや新しい遊びを習得性好子にするとか、働くことに楽しみが持てない人に楽しみを教えるとか)、一度じっくりと考えてみたいところです。

 DVDでは「自発的行動」を教えるという文脈で、椅子に座った飼い主にちょっかいをだしてくる犬を無視し(テレビを観たりしているという体で)、そのうち伏せたら言葉がけとフードで強化するというところがあります。確かに「ふせ」というコマンドをかけていないのでその意味では"自発的行動"ですが、ここで強調すべきなのはむしろ「消去」だと思います。ふせた犬を立ち上がらせるためにフードを遠くに投げ、戻ってきて伏せたらすぐにフードで強化しているので、このままだとそれを繰り返すことになり、いつまでたっても静かにテレビが観られません。この文脈で必要なのは完全な消去だと思います。そうすればそのうち犬も伏せるなり、寝転がるなりして、勝手に("自発的に")休むわけなので。
 これは社会的妥当性をいかに保障するかという課題です。訓練の先にある目標(何のために行動を変えるのか)はどこにあるのか(この例ならテレビを観ている間、犬は犬で休んでいてほしい)、そしてその目標を達成するのに最適な訓練手続きは何なのかを検討すべきあり、同じ課題(訓練とその先の目標の不一致)は教育界やトレーニング界にあちこちに散見されますから、おそらくそうした発想を強化する随伴性が業界全体に不足しているということなのでしょう。どのように補完すればいいのか、できるのか、検討すべきなのだと思います。

 「観察学習」というチャプターには犬にあくびを教えるシーンがでてきます。残念ながらあくびしか教えていないので、模倣を教えているかどうかはわかりません。犬では模倣、しかも般性模倣が成立すると主張する人も多いようです。本当にそうなのか、そうだとしてそれが生得性のものなのか訓練あるいは自然な学習によるものなのかは、私は不勉強でわかりません。文献はかなりあるようなのですが、実験条件の統制がしっかりできていそうにないので読込んでいないのです。とりあえず、このビデオを観た限りは、"あくび"というコマンドをだしている飼い主が弁別刺激になっているという意味では"観察学習"ですが、それ以上の機能が獲得されているようには見えませんでした。でも、犬好きで犬を飼っている学生が卒論で取り組むことができそうな、面白そうなテーマだと思います。

 というわけでDVDにはかなりずっこけましたが、こうした点も含めてご覧になれば逆に勉強になるかもしれません。

「応用行動分析学からみる“仕事の期限にルーズな人”への対処法」を書いた本が刊行されました。なんと、95,000円もする本です(^^;;)。おそらくは関連企業さんが購入される系の本で、一般の人が目にすることはまずないだろうと思われますが、一応、お知らせしておきます(国会図書館には入るのかな?)。


研究開発テーマの “遅れ” 対策と効率化ノウハウ 研究開発テーマの “遅れ” 対策と効率化ノウハウ
(株)ニコン 富野 直樹 旭化成(株) 小川 周一郎 帝人(株) 村上敬 日東電工(株) 六車 忠裕 テルモ(株) 松村 啓史 住友化学(株) 細田 覚 富士フイルム(株) 後藤 孝浩 (株)ファンケル 粂井 貴行 日産自動車(株) 戸井 雅宏 味の素(株) 榛葉 信久  ほか 85名

技術情報協会  2013
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タイトルには"社会的学習理論"とありますが、バンデューラはほんのちょこっとでてくるだけで、あとはほぼ全編行動分析学的手法についての話です(タイムアウト、行動契約、スモースステップなどなど)。特に、行動契約については、親子で契約を結び、守って行くための細かな手続きが書かれています。ここまで細かく書いてある本は他に知りません。

それに本の構成がプログラム学習風になっていて、読んで、考えて、空欄に用語を書込んで、答えをみて....と学べるようになっています(「風」というのは、これだと無誤学習にはなりそうにないし、そのための開発手順もふんでなさそうだからです)。

1987年に翻訳書がでていて、今は絶版ですが、Amazonで古本が入手可能です。原著はロングセラー本で今でも入手可能です(Amazon.co.jpではなぜか一時的に在庫切れのようですね)。"Families: Applications of Social Learning to Family Life"というタイトルからわかるように、"Theory"は入っていませんから、翻訳タイトルを「社会的学習理論」としてしまうのは誤訳だと思います。それに本来は一般向けの本ですから、表紙や文体をもちっと工夫すればもっと売れた(読まれた)のではないかと、残念な気持ちがします。

著者の Gerald R. Patterson 先生は、元々は精神療法とかをやっていた人のようですが、1960年代に非行少年の多動や攻撃行動の対応に遊戯療法がほとんど役に立たなかった経験から行動分析学を学ばれたようです。本書では最後の章に子どもの攻撃行動について書かれています。攻撃、不服従、非行、そして犯罪につながる、望ましくない行動の発達の起源を、家庭における威圧的な行動(coercive behaviors)が負の強化によって学習されていくところに求める理論を築かれた人です(Coercive Family Process)。とはいっても、行動分析家ではなく、業績の多くは、家庭での親子のやりとりを観察し、コーディングし、こうした行動指標と、家庭環境(社会経済的状況、結婚/離婚などなど)や予後(非行による補導など)との相関関係を調べる研究です。オレゴンのソーシャル・ラーニング・センターを立ち上げ、運営してこられた研究者ですが、調べたら今はなかば引退され、カヌーとかを楽しまれているようです

反社会的行動の発達に関するオレゴンモデルを紹介した"Antisocial Behavior in Children and Adolescents" の序章には、40年間にわたる歴史がまとめられています。Skinnerの罰の考え方に対する批評や、強化の理論(随伴性の理論)が彼らの理論にどのように組み込まれているか、臨床的な、シングルケース主体の研究から、理論構築のための大規模で媒介変数(というか集約的変数)を使い、実験をするとしても無作為化した群間比較を用いるようになった経緯も書かれていて、興味深いです。

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日本ではあまり知られていないのではないかと思いますが、行動分析学から家族内の関係性や、攻撃行動・反社会的行動、非行や犯罪を研究してみたいと考えている人には、一連の著書や論文を読むことをお勧めします。

Families: Applications of Social Learning to Family Life Families: Applications of Social Learning to Family Life
Gerald Roy Patterson

Research Pr Pub  1975-06
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家族変容の技法をまなぶ―入門 親と子どものための社会的学習理論 家族変容の技法をまなぶ―入門 親と子どものための社会的学習理論
G.R. パターソン 大渕 憲一

川島書店  1987-10
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Swpbs

 久しぶりに大学に行ったら、二瓶社さんから献本が届いておりました(有り難うございます)。

 我が国初のスクールワイドPBSの(翻訳)本です。

 前半が機能分析や指導計画の立案など、後半がスクールワイド体制の築き方についての解説となっています。チェックリストもついているので使いやすそうですよ。

 今年の夏に法政大学で開催された教育心理学会の総会では、スクールワイドPBSの第一人者、G. スガイ先生による講演がありました(関連記事はここここ、講演資料はこちらからダウンロードできます)。そのときには日本語の文献をご紹介できなかったのですが、こういう本がでてくることで、日本でも本格的な導入が始まるかもしれませんね。

 楽しみです。

 Amazonに表紙画像が用意されていないようなのでスキャンして掲載しました。封を開けた瞬間はこの色に驚かされました(ドドメ色?)。増版のさいにはぜひとももう少し薄めで明るい色への変更をご検討下さい(^^)。

スクールワイドPBS―学校全体で取り組むポジティブな行動支援 スクールワイドPBS―学校全体で取り組むポジティブな行動支援
ディアンヌ A.クローン ロバート H.ホーナー 野呂文行

二瓶社  2013-11-22
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 とても面白い辞典がでました。

 序にあるように、行動生物学は動物の行動を研究対象とする生物学の総称で、動物行動学、応用動物行動学、動物心理学、行動分析学、比較認知科学、神経行動学、行動薬理学、行動遺伝学、人と動物の関係学などを含む学際領域です。こうした諸学問(諸学会)の“横のつながり”によって生まれた、我が国初の成果だそうです。

 ざっと項目をみていくと、行動分析学の基本的な概念がかなり網羅されています。行動分析学の辞典がない現状では、本書がその代用になると思いますし、関連諸学問の用語も学べるという意味で(そして関連諸学問の専門家の方々が行動分析学の用語を学んでいただくのにも)ベストチョイスとなるでしょう。

 辞典ですから一頁めから順に読むようなことはないはずなのに、そうしてしまいそうなくらい面白いですし、読みやすいです。「あ」にはいきない犬のあくびの実験の様子を写した写真が掲載されていたりします(犬のあくびの実験についてはこの記事を参照)。

 ここのところ続けて記事を書いてきた「権勢症候群」については、この辞典では「優位性攻撃行動(アルファシンドローム)」となっています。「これまでイヌの飼い主に対する攻撃行動の多くは優位性攻撃行動と診断されていたが、動物種の異なるイヌとヒトの間に社会的順位が成立するかどうかは疑問視されている」(p. 533)と書かれています。

 写真やイラストも多く、閲覧できる動画のURLまで掲載されています。数年先でもいいからiPadなどで読めるカラー、電子版、動画もありといった改訂版がでることを期待します)。

行動生物学辞典 行動生物学辞典
上田 恵介

東京化学同人  2013-11-22
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 Julie Smith 先生の特別講義『成果を出し続ける経営マネジメント 行動分析学にもとづいたアプローチ』が無事に終了しました。

 前夜に韓国から到着し、昨日も講演前後にはビジネスミーティングがあり、本日午前中にはアメリカに帰国されるというタイトなスケジュールでしたので、ホストとしても気が抜けない状況でしたが、講演もその後の質疑応答セッションも問題なく進行でき、ほっとしました。

 金曜日の夕方という設定にも関わらず、学生さん、社会人の皆さま、あわせて170名ほどの参加があり、これも嬉しかったです。忙しい中、お疲れ様でした。

 講演後、何人かの方から発表資料をいただけないかというご要望をいただきましたが、今回は配布資料なしということです。CLG社は、アジア諸国への事業展開をしていますが、国によってはすぐに模倣のコンサルティングサービスが立ち上がり、知的財産権を守ることが難しくなるとのことで、とても慎重になっているようです。ご了解下さい。

 その替わりというのもへんですが、CLGのコンサルティングサービスやその背景にある理論を解説した本へのリンクをはっておきます。講演でもご紹介いただいた本で、日本のアマゾンからも購入できそうです。私もまだ読んではいないのですが、ざっと目を通したところでは、昨日の講演内容(特に、コンサルティングのステップなど)が詳しくカバーされています。ただし、事例については、昨日の講演やその後の質疑応答セッションの方が詳細な情報が得られたと思います(わざわざ会場に脚を運んでいただいた参加者の特権ですね)。

 解説的通訳を務めさせていただき、反省すべきはお金の単位変換です。"Twenty five million dollars"と言われても、それが日本円でいくらになるか、とっさに訳せませんでした(恥)。日本円でもUS$でも、普段からそんな大金扱ってないからという言い訳しかできません。すみません。およそ25億円ですね。

 法政の心理学科の学部生たちもたくさん参加してくれました。学部で心理学を学んでも、卒業してからそれを仕事にするのは難しいと、あちこちで言われると思います。でも、Smith 先生たちのように、何もないところから起業し、今では世界をまたにかけ、心理学をフルに使ったコンサルテーションをして、即座に翻訳できないほどの桁のお金を稼いでいる人もいるのです。いずれは皆さんの中からも、そのようなパイオニアが出てくることを期待してます。


The Behavior Breakthrough: Leading Your Organization to a New Competitive Advantage The Behavior Breakthrough: Leading Your Organization to a New Competitive Advantage
Steve Jacobs Multiple Authors

Greenleaf Book Group Llc  2013-05-28
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週末になると近所の公園は野球少年やサッカー少年たちでいっぱいになる。最近は男女が一緒に練習しているから、正確には少年少女たちだ。

地元のチームなのか、その中に大人が交じっていて、ノックしてたりするのだが、これが酷い。

「あきらめんじゃんぇーよ」、「どこみてんだ、このくそぼけ」、「どうしてできねぇんだよ!!」の連続。

それでも子どもたちは「よろしくお願いします!」とか「すみません」とか、とても礼儀がいいし、一生懸命ボールを追いかけている。見ていて、正直、胸が痛くなる。そのうち、きっとどこかで折れるぞ、この子たち。

こういう大人の特徴。

まず、ノックしかしない。自分でキャッチの見本をみせているところを見たことがない。子どもと離れているから、身体的ガイダンス等で、たとえば膝を曲げる角度とか、キャッチする前の事前動作等を誘導することもできないし、しない。

ノックも適当。近距離のキャッチボールから始めて、次第に距離を伸ばすとか、あまり移動しなくて捕れるところから始めて、前後左右へ移動しないと捕れない球をだすとか、そういうプログラムが一切ない。

子どもがすべきことの説明もない。どうすれば捕れるのか、落下地点に移動できるのか、コツの言語化ができないのかしらないのか。キャッチできなかったり、ポロリと落としたときに文句を言うだけ。それも、ちんぴらのような言葉遣い(昨日目撃した奴はサングラスかけていて見かけもなんだか酷かった)。

そして、何しろ褒めない。驚くほど、褒めない。かなり厳しいところに飛んだボールを子どもがキャッチしても無言。

うそでしょ、とあきれるくらいだ。

腹が立つので、公園の脇のベンチに愛犬と腰掛け(自分は犬と散歩中なのです)、「ナイスキャッチ!」とか「惜しい!」とか、赤の他人なのに声をかける。

サッカー教えている大人にはこういう大人はみかけない。パイロンとか小さなゴールとか、いろいろな仕掛けも持参して、ゲームみたいな方法も取り入れて、子どもがいい動きやプレーをするたびにめちゃめちゃ褒めてる。

野球はいくつかのチームをみかけるが、程度の差こそあれ、たいてい酷い。

なんなんだろ、あの差は。たまたま? それとも競技の文化なんだろうか?

お母さんたちの話では、監督やコーチが厳しくても、チームが強ければ子どももそのチームに行きたがるし、親も行かせたがるらしい。

でも、そのチームが強いのは監督やコーチの教え方が上手いからじゃなくて、酷いコーチでも我慢して練習するほど野球が好きな子どもや、そういうのに耐えてでも勝ちたい負けん気の強い子どもが残るからですよ、と言いたくなるが、犬の散歩仲間にそんなことを言っても仕方ない。

だから、自分はできる限り、ベンチから声をかけるのだ。変なおじさんと噂されてもね。

せっかくの休日を子どもの指導に使うというせっかくのボランティア精神も、あんな教え方では台無しです。せめて、この本でも読んで勉強して下さい。


コーチング―人を育てる心理学 コーチング―人を育てる心理学
武田 建

誠信書房  1985-09-20
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臨床心理関係の図書を数多く出版している金剛出版から隔月で刊行されている雑誌『臨床心理学』で行動分析学の特集が組まれた号を読みました。

一般臨床、発達臨床、学校臨床、リハビリの他に、薬物依存支援や矯正教育における臨床という、ふだんはあまりお目にかかる機会のない領域に関する記事もあり、勉強になりました。

上記リンク先のこれまで発刊された号の特集タイトルを眺めていると、この雑誌で行動分析学が特集されたこと自体が画期的であることがよくわかります。

神村先生と伊藤先生の「誌上討論」からは、昨年、法政で開催した公開講座「臨床場面における「ことば」をめぐる精神分析と行動分析との対話」を思い出しました。あのときは、東京国際大学の妙木浩之先生と、同志社大学の武藤崇先生の「公開討論」を私が司会させていただいたわけですが、結局は臨床の目的の違い(≒クライアントのニーズの違い)が分水嶺であると(再)認識しました。そして、研究ならともかく臨床サービスについての話であれば、選ぶのはクライアントであり、セラピスト側ではありません。だから、異なる臨床目的をもち、異なるクライアントのニーズにそれぞれ対応しているサービスプロバイダー同士の対話であれば、お互い、どこがうまくいっているかを共有し、役に立てる会話をするのが生産的で、お互いに批判し合うのはあまり意味がないと思います。これは私の意見ですが。

この雑誌をクライアントさんたちが読むことはないでしょうから、こういう特集を組むことで、現在心理臨床をやられている方、これからやろうとしている方が、これまで学んできたアプローチとはかなり異なるアプローチがあるのだと気づくきっかけとなることに意義があるのでしょうね。

さらに「広がる」ことを期待します。

臨床心理学 第12巻第1号 特集:行動分析学で広がる心理臨床 臨床心理学 第12巻第1号 特集:行動分析学で広がる心理臨床

金剛出版  2011-12-01
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場面緘黙の本は少ないので、貴重な一冊である。しかも、前半はマンガ、後半はスモールステップでの指導や練習に使えるチェックリストや具体策のイラストなどが掲載されていて、とても使いやすそうな本にまとまっている。

緘黙そのものよりも、緘黙によってQOLが落ちないように、できることを伸ばしていくアプローチにも好感がもてる。

昔、テニス仲間に極端に無口な大学生がいた。テニスをしているときも、飲み会でも、自分からはまったく話さない。こちらが酔っぱらって、しつこく質問を繰り返すと、ようやく、ぼそっと一言二言、返してくれた。

周りは「個性」として受け止めていたように思う。本人がどう感じていたかはわからないが、テニスも飲み会も、時々、突っ込まれるのも、楽しんでいたように思う。

話ができなくても(しなくても)、それが「無口」という「個性」でしかなく、友人関係や仕事に影響せずに、適応できれば「障がい」ではないのだと思う。そして、そのための環境作りも実は重要だったりするのだと思う。

どうして声が出ないの?: マンガでわかる場面緘黙 どうして声が出ないの?: マンガでわかる場面緘黙
はやし みこ 金原 洋治

学苑社  2013-09-05
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うちのゼミでは、卒論/修論/博論の執筆で「パラグラフ・ライティング」法を指導しています。

パラグラフ・ライティングとは、各段落に一つの論点を「トピック文」として段落の先頭に書き、段落の残りの部分は、論点の論拠や例などを「サポート文」として書いていく方法です。だから、一つの段落内に「しかし」や「ところが」、「そして」など、異なる論点をつなげる接続詞は含まれません(その場合、別途段落をたてることになります)。

段落の先頭の「トピック文」だけを拾い読みしても全体の論旨が明確になるように書きます。極端な話、トピック文だけをつなげれば、論文全体の要約文が完成する仕組みです。

私はWestern Michigan University に留学中、英作文の授業で「パラグラフ・ライティング」を教えられ、その後、博論の執筆でも同じようなフィードバックを受けました。米国では(おそらく英国など、英語圏では)標準的なレポートの書き方なのだと思います。

ゼミで「パラグラフ・ライティング」法を指導しているのは、論文全体を通した論旨の展開を明確にするためです。そのために、まずは、トピック文だけからなる「アウトライン」を書かせています。つまり、レポート執筆方法というよりも、論理的に考えて書くための指導の一貫として、「パラグラフ・ライティング」法を使っているということです(こういう指導を始める以前は、序論と考察で書いてあることが正反対だったりすることもありましたし、何が言いたいのか、読み手も本人もわからない論文が出来上がってしまうこともありました)。

これまで「パラグラフ・ライティング」を解説した和書がなかったので、ゼミ生には苦労をかけていましたが、ようやく一冊、解説書が見つかりました(というか、2012年の11月の新刊です)。この本自体も「パラグラフ・ライティング」で書かれていますので、どんどん読み飛ばしできます(これもメリットの一つです)。

来年度、サバティカルから戻ってゼミを再開するときには、この本を参考書に使いたいと思います。

論理が伝わる 世界標準の「書く技術」 (ブルーバックス) 論理が伝わる 世界標準の「書く技術」 (ブルーバックス)
倉島 保美

講談社  2012-11-21
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すべてを「意志力」で説明する解釈はほぼ間違っていると思うけど、内容は面白いし、数々の研究を引用していて、ここからそれらの研究を読み始めるのにちょうど良さそうな本です。

それなのに、この日本語版、引用文献一覧も、注釈も完全削除されてます。

カタカナに直された研究者名から該当しそうな研究を探すのも大変すぎるので、原著のKindle版を買ってみたら、引用文献一覧、注釈、索引がしっかりついてました(ただし、索引は頁数の記載がなく、語の羅列。せっかくの電子図書なのだからリンクをはってくれればいいのに)。

科学の研究を一般読者に紹介する本で、引用文献一覧を削除してしまうというのは、出版社としてあるまじきことだと思います。「スタンフォードの」とか、原著にはないタイトルで売上げをあげようとするのもなんかいやらしいなぁ(それで買ってしまう読者も読者だが....)


スタンフォードの自分を変える教室 スタンフォードの自分を変える教室
ケリー・マクゴニガル 神崎 朗子

大和書房  2012-10-20
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The Willpower Instinct: How Self-Control Works, Why It Matters, and What You Can Do to Get More of It The Willpower Instinct: How Self-Control Works, Why It Matters, and What You Can Do to Get More of It
Kelly McGonigal Ph.D.

Avery Trade  2013-12-31
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刑務所や拘置所で働いていた著者による解説書。この本でもたくさんのことを学びました。

以下、無知をさらすことを覚悟で、この本から学んだことを羅列します。

  • 少年院は「保護処分」(罪名も刑期もない)、少年刑務所は「刑罰」。
  • 少年刑務所に「少年」はほとんどいない。全国に7つある少年刑務所に収容されている「少年」の総数は100人程度(刑務所内で成人していくから)。
  • (これは『刑務所のいま-受刑者の処遇と更生-』にも書いてあったけど)、死刑囚は刑務所ではなく拘置所に拘留される。そのため、罰としての作業も、再教育としての訓練も受けない。
  • 逮捕・補導された総数の8-9割は制裁的処置なく無罪放免となっている。
  • 少年院に収容されることになった犯行は窃盗がおよそ3割、傷害暴行、強盗、恐喝、強姦・強制わいせつ、覚せい剤、道交法がそれに続く。
  • 少年院は全寮制で、軍隊的な集団生活を強いられる(「集団行動訓練」、「体育」など)。
  • 他にも、ロールレタリング、内観法、SST、サイコドラマなどの心理療法、教育プログラムも提供されている。
  • 職業訓練の一貫として、資格試験(溶接、パソコン、簿記、自動車整備など様々)などの準備指導も行われている。

この本の圧巻は、全国に52ある少年院すべてが紹介されているところ。まるで専門学校のガイドブックのように、教育課程や定数(収容人数)、特徴的なプログラムなどが記載されています。ただし、これを読んでも、希望する少年院に選択して入所できるわけではないので、なんだか不思議な感じはしましたが。

著者は「少年院ほど確実に進歩してきた教育施設はない」と少年院(と地元の協力)を評価しています。また、少年院で指導すれば再犯の可能性が低くなるだろうに、そのようにしない家裁の方針に異を唱えています。

自分としては、たとえば少年院に送られた子どもと、送られなかった子どもとで、その後の犯罪傾向に違いがあるのかどうかをデータとして知りたかったですが、残念ながら本書にはそうした数字はありません。

また、各少年院が提供するプログラムの効果についてもデータがありません。たとえば、資格の取得率とか、学力テストの成績向上率とか、そういう単純な指標でもいいので公表されていれば、「確実に進歩」してきているという主張の根拠になるのではないでしょうか。

法を犯した少年がどのように裁かれるのか、こういうことは中学や高校で、しっかりと正確に教えた方がいいのではないでしょうか。成人する前に悪いことをしてもたいしたことにはならないなんて考えている子どもいると思います。少年法による保護という意味で、それは必ずしも間違いではないようですが、その一方で、少年鑑別所、少年院、少年刑務所に送られ、そしてその後も再犯して刑務所で人生の重要な時間を送ることになるケースも確実にあるわけですから。

実録!少年院・少年刑務所 実録!少年院・少年刑務所
坂本 敏夫

二見書房  2010-01-18
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来月の日本行動分析学会年次大会で「『罰なき社会』を再考する」自主シンポをやります。その準備で色々な本を読んだり、資料を集めているのですが、この本は中でも勉強になりました。シンポでは紹介できないことも多いので、せっかくなのでシェアします(つか、知らないことばかりだった)。

刑務所や少年院での「暴力」(体罰など)について知りたかったのですが、本書はそういうルール違反については言及なく(そういうことがないとも書いてありませんが)、むしろ刑務所の「あるべき姿」と現状を比較して、システムとしての改善点を提案しています。

付箋をつけた数はこの5倍くらい。もっと知りたい人はぜひ本を読んで下さい。

  • 刑罰には罪に対して応報し「応報刑」、社会に知らせて予防効果を期待する側面と、その人の再犯を予防するための「教育刑」という側面があるが、裁判官は前者を重視する傾向があるが、裁判員制度が始まってからは裁判員は後者を重視する傾向があることがわかってきている。
  • 出所後5年以内の再犯率は50%で、窃盗と覚せい剤が大半を占める(←予想はしていましたが、これほどとは)。
  • 約30%の再犯者によって60%の犯罪が行われている。
  • 刑務所内で職業訓練を受けた受刑者は全体の6.64%(←これには驚きました。もっと多くの人が出所後の自立を目指した訓練を受けているのかと思っていました)。
  • 職業訓練の内容は実際に社会に復帰してから就ける仕事とマッチしていない。
  • 受刑者の半数近くがIQ80未満(←知的障害や発達障害、精神障害をもっている人がたくさん含まれているが、障がい特性に配慮した処遇はほとんどなされていないそうです)。
  • 障がいをもった人が出所後、地域で生活できるように支援する「地域生活支援センター」が設置されるようになった。
  • 某医療刑務所では(←本書には名前がでています)、最近までカレーライスをはしで食べさせていた。
  • “軍隊的行進”の強制は減ったが、まだ残っている。
  • 許可されなければトイレに行けない。許可されず、失禁したとして5万円の慰謝料が認められた事案がある。
  • 刑務所での懲罰に関する規則はかなり細かく決められ、文章化もされているが、所内で行われる懲罰委員会は弁護側も刑務官によって構成される。
  • 釈放の前には、社会により近い環境で「釈放前指導」が行われるが期間は1-2週間と短く制限も多い。携帯電話も使えない(←一応、仕組みはあるけど機能しないままという印象です)。
  • 出所後「帰住先」があるかどうかが再犯率に大きく影響する。家族などがいない人のためには「厚生保護施設」という受入先があるが圧倒的に不足している。
  • 「凶悪犯罪をした無期受刑者も十年すれば仮釈放となり自由の身になる」は間違った認識である。仮釈放される受刑者は減少傾向にあり、条件も厳しくなってきている。
  • 日本も批准している国際人権規約の精神は、刑務所の役割は罪を犯した人を社会へと再統合することを目指すことにある。
  • 受刑者の特性にあわせた「改善指導」が行われている。薬物依存離脱、暴力団離脱、性犯罪防止、交通安全指導、就労支援指導など。だが、これらを受講できる受刑者の数は少ない。予算が不足していて、専門家の数も少なく、プログラムの質も確保できているかどうかわからない。プログラムは認知行動療法的なものが多い。心理学の専門家がもっと必要であると、本書では繰り返し、指摘されている(←これも同じで、一応、仕組みはあるけど機能しないままという印象です)。
  • 受刑者には健康保険が適用されないため、医療費は国庫からの全額支出となる。
  • 刑務所の運営を民間に委託するPFI施設が設置されるようになり、そこでは既存の刑務所にはない様々な試みが行われている(←再犯率の比較などができるようになるのはまだ先のことかもしれませんが、そういう希望がもてる話だと思いました)。
刑務所のいま-受刑者の処遇と更生- 刑務所のいま-受刑者の処遇と更生-
日本弁護士連合会 刑事拘禁制度改革実現本部

ぎょうせい  2011-05-10
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“そらパパ”としてネットではよく知られている藤居学氏による療育支援本です。

自閉症児の親御さんが書かれた本にはご家族やご自分のことをリアルに書き綴ったドキュメンタリー風のものが多のですが、本書にはそうしたウェットな話はほとんどでてきません。最後まで読んでも、娘さんの「そらまめちゃん」や奥さまがどのような方なのかはわかりません。

本書の真骨頂は自閉症療育を“新規事業”と見立て、それを運営する“プレイングマネージャー”としての「新しい父親」モデルをわかりやすく、提示しているところです。

発達障害や療育や自閉症やらに戸惑い、お子さんや奥さんやご家族とどのように関わればいいのかわからずにモヤモヤしているお父さんにぴったりの本です。特に会社でバリバリ仕事をされているサラリーマンのお父さんには“プロジェクトのビジョンづくり”とか“チーム編成”とか“リソースの最適化”とか、馴染みのある言葉や考え方がどんどんでてくるので馴染みやすいはず。

お子さんに障がいがあるとわかったときに、

単に「人生のリターン」が減少したというよりは、
むしろ人生という「幸せへの投資」の性格が、
より「ハイリスク・ハイリターン」な方向にシフトした
ととらえるほうが適切です(p. 40)

という助言は“そらパパ”さんならではと感心しました。

具体的な療育法としては、主に、TEACCH、ABA、絵カード療育法(PECS)の3つが紹介されています。現在、ご家庭で療育をされている方には、このパターンをミックスしている人が多いのではないかと思われます。記録をとって、記録をもとに療育を進めるべきとしているところも信頼できます。

一つ心配なところ:本書に限らず、"ABA"(Appied Behavior Analysis:応用行動分析学)が「療法」や「技法」と勘違いされることが増えているような気がします(あるいはロバースらのプログラムやその派生したものを"ABA"と呼んでしまっている人もいます)。

"ABA"は「応用行動分析《学》」。《学》というところが大事で、一つの学問体系です。発達支援は応用行動分析学における大きな一領域ではありますが、すべてではありません。

本書には

「療育法としてのABA」では、いまある姿は「望ましいものに変えていくべき状態」と位置づけられるわけです(p.117)。

とありますが、これは、おそらく、

ABAにもとづいて開発された療育プログラムは、ご本人や保護者、関係者の要望にもとづいて、ご本人の、そして周囲の人たちの行動を変えていくものが多い。

とした方が正確だと思います(ちなみにPECSもそうしたプログラム/システムの一つです)。

ABAを名乗るセラピストすべてが「自閉症」という障がいを「望ましいものに変えていくべき状態」としかみなさず、ご本人や保護者、関係者の要望を無視して、何がなんでも変えようとする人たちであるという誤解がないようにしないとならないですね。そういう人が実在したとしても、それは応用行動分析学とは関係ないということも強調しておきたいです。

親による親支援の本です。日本自閉症協会主催による「ペアレント・メンター養成研修」の教科書のような位置づけでしょうか。ノースカロライナ大学TEACCH部による類似の事業をモデルに日本の事情にあわせて開発されたプログラムだとのことです。

保護者同士の支援はうまくいけば心強いのですが、うまくいかないと(例:親の会の分裂とか、親の会同士の仲違いとか)、親御さんもまいってしまうし、子どもさんも最適な療育を受ける機会を逸してしまうかもしれません。

そういうリスクを減らすために、自閉症の親の会の大元である日本自閉症協会がこうした研修やテキストを提供していることは大いに評価できます。

それにしてもまたしても井上先生の編著ですね(笑)。

ペアレント・メンター入門講座 発達障害の子どもをもつ親が行なう親支援 ペアレント・メンター入門講座 発達障害の子どもをもつ親が行なう親支援
井上雅彦 吉川徹 日詰正文 加藤香

学苑社  2011-10-27
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不思議本です。

著者のプロフィールには「ABAセラピー」とあるし、第5章「困りごとへの対応法」には、機能的アセスメントの話とか、代替行動の強化について書いてあるし、トイレットトレーニング(本書では「トイレトレーニング」となっています)や共同注視の指導にもふれているのだけれど、そうかと思えば、以下のような意外な展開もみせてくれます。

「瞳はこころの窓だから、瞳を見ていれば、お子さんが今どんな気持ちなのかが伝わってくるんです」(p. 36)

「まだ一語文の段階のお子さんの場合、単語一語ずつ、ゆっくり丁寧に伝えて、言われたことの意味をはっと気づけるようにします」(p. 46)

「ことばはなんのためにあるのでしょう? (中略) たとえ発音ができて、なにかフレーズを発することができても、そこに伝えたい気持ちがなければ、ことばはことばとしての本当の意味はないのではと思うのです」(p. 117)

行動分析家だったら、まず書かないと思うのですね、こういうことって(苦笑)。

米国では"Let me hear your voice"でロバースのプログラムが世に知られるようになり、一躍"ABA"セラピストがひっぱりだこになりました。ところが大学でいくつか授業をとっただけのような人まで"ABA"の名を語るようになってしまいました。フロリダ州で始まったBACBという資格認定システムが全米に広まって行ったのには、悪貨が良貨を駆逐するような事態にならないようにという配慮もあってのことでした。

とはいえ、BACBも、所詮は実習を含む修士課程修了+筆記試験で取得できる資格です。療法として行動分析学的な手法を学んだだけの人—元々の意味とはちょっと違いますが、いわゆる“方法論的行動主義”の人—でも取得できる資格です。もっといえば、BACB取得者=徹底的行動主義ではありません。

もちろん、徹底的行動主義者のセラピストの方が方法論的行動主義のセラピストよりも、セラピストとしての腕がいいということを示すようなエビデンス(RCT的な)はありませんが、私が知っている凄腕のセラピストは、全員、徹底的行動主義者です。「主義者」というのが語弊があるなら、クライアントの行動すべてを機能的に分析し、環境を変えることで行動を変える方法をみつけることにコミットしている人たちです。つまり、クライアントのためにも、精神主義に陥ることを徹底的に排している人たちです。

教育、療育、臨床サービスの全体的な底上げや、最低限の質の保証には資格システムが役に立つ可能性がありますが、理想解ではない。そのことを認識しておく必要があると思います。

などなど。 色々、考えさせられました。

ポジティブ子育て 12のこころえ―発達凸凹の子のこころとことばを育む ポジティブ子育て 12のこころえ―発達凸凹の子のこころとことばを育む
ますなが りさ

主婦の友社  2013-01-28
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奥田健次先生の新書『メリットの法則—行動分析学・実践編』を読みました。初めて日本行動分析学会の年次大会に参加されたときに “コンディショニング”や“トリートメント”とという言葉が飛び交っているのを聞いて、「ここはシャンプーの学会か!」とツッコミたくなったそうですが、この本のタイトルを初めて聞いたときには私にも「ん? 花王さん??」といらぬイントラバーバルが出現しました。

当たり前ですが、なかみはまったく行動分析学の話です。奥田先生が取り組まれてきた様々な臨床事例について、死人テストと具体性テストによって行動が特定され、医学モデルに陥らないように随伴性が分析され、行動変容のための技術が再現可能な手続きとして解説されていきます。

阻止の随伴性についてもわかりやすく、そして臨床で重要な概念として取り上げられています。伝統的な行動療法ではレスポンデント消去として解釈されるエクスポージャー(曝露療法)を、阻止の随伴性として再解釈し、レスポンデント消去によって不安を減らすというよりは、社会・生活適応にとって望ましいオペラントを強化し、その結果、レスポンデント消去によって不安が減る(こともある?)と、逆説的に捉えているところは、最近の奥田先生の一連の臨床研究の成果でしょうね。

その他、不登校・再登校支援の問題が、学校と家庭という2つの場面における対応法則を「てんびんの法則」という、よりわかりやすい比喩で解説されるなど、とても読みやすい本で、一気に読了しました。

臨床に興味のある行動分析学の初学者にお薦めします。


メリットの法則――行動分析学・実践編 (集英社新書) メリットの法則――行動分析学・実践編 (集英社新書)
奥田 健次

集英社  2012-11-16
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この夏の宿題としてエネルギー問題に関わる本や資料を読みあさっています。

この本はエコポイント制度を提唱、導入した、元経産省官僚の加藤敏春氏の著書。スマートグリッド、スマートメーター、発電方法の多様化と地理的分散化などの必要性や可能性がわかりやすくまとめられています。

こういう人が官僚のまま、表にでて仕事してくれるか(vs. 誰がどんなことをどういう動機で考え、実行しているのかがさっぱりわからないところが「官僚主導」の不気味で信用ならないところだと思うし、某現役官僚氏のように内部告発的なことばかりで、実際の仕事の様子がみえてこないメディア露出も不安を煽るだけで得られる情報は少ないから)、あるいは元官僚や外部の専門家が行政と仕事をしながら、行政が何を根拠に何をどうしようとしていているのかを、我々一般人に説明しながら仕事をしてくれるといいのだけれど。

 

節電社会のつくり方 スマートパワーが日本を救う! (角川oneテーマ21) 節電社会のつくり方 スマートパワーが日本を救う! (角川oneテーマ21)
加藤 敏春

角川書店(角川グループパブリッシング)  2011-06-10
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ちなみに、これは瑣末な話ですが、エコポイントを「@mac.com」のメルアドで登録しようとしたら、「フリーのメールアドレスを登録できません」と、環境省、総務省、経産省、三つどもえ(?)で拒否られました。エラーメッセージの作文もおかしいけど(「フリーのメールアドレス登録できません」でしょ)、@mac.comは年に1万円以上払っているnot free at all アドレスでっせ。事実誤認です。

Maccom

 このたびの大震災で被災された方々の心のケアを支援するために、日本臨床心理士会、日本心理臨床学会がさっそく「東日本大震災心理支援センター」を立ち上げたという。迅速な対応、素晴らしい。

 ただ、被災地に入るボランティアが増えると、心のケアどころか被災者にとって迷惑せんばんになる人もでてきてしまうようだ。

 私はこの領域の専門家ではないが、テレビなどのメディアで連日のように「ストレス」「こころ」「ボランティア」などが強調されているのをみると心配になる。“地震酔い”なんていうのも、それそのものは極めて正常な(健康)な反応なのに、極度のストレスが原因とか、リラクセーションが必要とか、あげくのはてに耳つぼに効果ありなんてでたらめチックな報道がまかり通っているのに立腹気味。

 そんなことを話していたら武藤崇先生(同志社大学)がとてもいい資料を紹介してくれた。兵庫県こころのケアセンターがwebページで無料公開している『サイコロジカル・ファーストエイド』である。

 これはアメリカの国立PTSDセンターと国立子どもトラウマティックストレス・ネットワーク(NCTSN)によって作成された手びき(Psychological First Aid: Field Operations Guide 2nd Edition)の翻訳版で、災害支援の現場での活動やコーディネートに携わっている人々のための具体的なノウハウが凝縮された資料である。

 たとえば、「避けるべき態度」として「被災者が体験したことや、いま体験していることを、思いこみで決めつけないでください」とか「災害にあった人すべてがトラウマを受けるとは考えないでください」、「病理化しないでください。災害に遭った人々が経験したことを考慮すれば、ほとんどの急性反応は了解可能で、予想範囲内のものです」、「反応を「症状」と呼ばないでください」、「また、「診断」「病気」「病理」「障害」などの観点から話をしないでください」などなどというように、心配していたことが見事にカバーされている。子どもの支援についても「子どもに十分な情緒的支えを提供できるよう、親の機能を補強し、支えてください」とある。これもまったくそうだろうと考えていたところ。

 兵庫県こころのケアセンターは、阪神・淡路大震災の後に、被災者や被害者の「こころのケア」に取り組む組織として設立された、全国初の拠点施設らしいが、失礼ながらこれまでその存在を知らなかった。こんないい資料をだしているとは素晴らしいじゃないですか。興味のある方は、ぜひ一度、お読み下さい。なにしろ無料ですから。

 それから臨床心理以外の心理専門家としては、もちろん「心のケア」は大切だとしても、もっと大事なのはまず衣食住の環境を整えることだと思う。体育館の雑魚寝状態で食事も睡眠も入浴も不備な状態なら、いくら心のケアしても焼け石に水のはず。とにかくまずはそこを改善すべきなのだと心理の専門家からも声を大きくすべきと考える。

Animaltherapy


 来週の施設見学に向けてにわか勉強中。『ヘンリー、人を癒す』の山本央子先生から『よくわかる!アニマルセラピー』をいただきました(補足:Amazonではなぜか売っていませんが、楽天、紀伊国屋、Livedoor、セブンネットショッピングなどでは取り扱いがあるようでした)。

 この本、『Research Methods in Applied Behavior Analysis』(Sage Publications, 2002)という、応用行動分析学の研究法の教科書をJon S. Baileyと共編したMary R. Burch先生の著書なんです(追記:Bailey先生とBurch先生はご夫婦だそうです。山本先生からメールで教えていただきました。そういえば神楽坂のBrusselsでお聞きしたような記憶が... ベルギービールの彼方に)。

 動物介在療法の概論書で、基本的な考え方から、動物の選び方や訓練法、介護施設や学校、障害者の施設、病院など、訪問先ごとの特徴や気をつけること、事例などが紹介されています。

 「アニマルセラピー」というと、動物のためのセラピーみたいに誤解されることがあるので「アニマル・アシステッド・セラピー」と呼ぶようになっているそうです。人のセラピーに動物の助けを借りるということですね。

 動物を介在させることで、怒りや不安を減らしたり、自発的な行動を促したり、動物とふれあう機会を好子につかって自閉症のお子さんかのコミュニケーションを促進したりと、いろいろなケースがあるようです。

 動物をさわったり(それで動物から反応があったり)、動物に話しかけたり(それで動物から反応があったり)することが好子として機能するであろうことは予想できるし、それを、他の様々な好子(おもちゃや、ゲームや、人のセラピストと遊ぶことなどなど)と同じように使うということは想像しやすいのですが、怒りや不安といった感情への影響はよくわかりません(直感的・常識的にはわかるのですが、行動分析学からどのように解釈できるのかはすぐにはわからないということです)。

 怒りや不安の低減という効果が行動分析学からどのように説明できるのか、見学から帰ってきたら考えてみたいと思います。

 Animal Behavior Society という学会から、Certified Applied Animal Behaviorist という資格がでてるんですね(へぇ〜。知らなかった)。

 来週末の施設見学がいよいよ楽しみです。

ヘンリー、人を癒す―心の扉を開けるセラピー犬 ヘンリー、人を癒す―心の扉を開けるセラピー犬
山本 央子

ビイング・ネット・プレス  2007-11-01
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ようやくだせました。

足掛け6年(くらい)。

原稿の〆切という約束を数えきれないくらい破りながらも出版にこぎつけられたのは、辛抱強くサポートしてくれた編集担当の小松さん(光文社新書)のおかげです。この場を借りて感謝いたします。ありがとうございました。

かつて、友人の Bruce E. Hesse が、論文がなかなか書けない状況を「便秘」に喩えたことがありましたが、この本の執筆に関してはまさにそのような状況でした。

行動分析学、というより「徹底的行動主義」の考え方の面白さを、小難しいことは言わずに伝えられたらいいなという思いで書きました。

その目的が達成できたかどうかは読者の皆さんのご判断です。

仕事や家庭など、日常生活で生じる行動の「なぜ?」についていろいろと考えてみたい人は、ぜひご一読下さい。


人は、,なぜ約束の時間に遅れるのか 素朴な疑問から考える「行動の原因」 (光文社新書) 人は、なぜ約束の時間に遅れるのか 素朴な疑問から考える「行動の原因」 (光文社新書)
島宗 理

光文社  2010-08-17
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報告その1:杉山尚子先生からの質問と回答

Q:「ところで、徳島に汽車はあるけど電車はない、というのはどういう意味でしょう?」

A:「徳島の「汽車」はいわゆるディーゼル機関車です。エンジンで駆動しています。電気でモーターを回して動いているわけではないのです。パンタグラフもない。だから「電車」ではなく「汽車」と呼ばれるわけです」


報告その2:奥田健次先生からの写メとメッセージ

「名古屋駅直上の三省堂でリベンジを果たせました。新横浜で撮れなかったものを名古屋でゲットです。平積みの写メです。記念と、わずかばかりの(献本の)お礼に、添付いたします。ご笑納下さい」

2010081714050000

お、感激。ありがとうございました!


報告その3:ブログでご紹介いただきました。メールで感想を送って下さった皆さまにも感謝いたします。ありがとうございました。

熊野宏明氏というお医者さんが書かれた裏(?)行動分析学本です。

著者ご本人が「はじめに」に書かれているように『二十一世紀の自分探し』というタイトルからはフシギ系の怪しい本のような印象を持ちかねませんが、内容の大半は行動分析学の考え方、特に、ACT(Acceptance and Commitment Therapy)の紹介になっています。

ペッパーバーグによるアレックスの研究や関係フレーム理論(Relational Frame Theory)の紹介から、言語行動論をふまえて、マインドフルネスとはどんな状態なのかをわかりやすく解説している本です。ACTの概略をざっと理解するのはとてもいい本だと思います(新書だし)。

ただ、所々に専門的な概念の解釈が正確ではないところもみつかります。誤解が生じるといけないので、そのうちいくつかを指摘しておきたいと思います。

p.71には「確立操作」が「(餌が)強化子として機能するための個体側の条件」と定義されていて、その例として「空腹」があげられています。しかし、これは間違い。確立操作は行動分析学において「動機づけ」を個体の内部ではなく環境操作として操作的に定義するために整理された概念であり、この場合「餌の遮断化」が確立操作になります。また、餌を強化子として確立する操作は「餌の遮断化」に限りません。「運動」もそうだし、人の成人の場合、たとえば自分の子どもが「チョコが欲しいぃ〜」と泣いていれば、自分はチョコに対して「空腹」ではなくても、チョコが強化子として確立され、棚からチョコを取り出す行動が誘発され、強化されるかもしれません。このあたり、詳しくは、拙著『行動分析学入門』やJack Michaelの『Concepts and Principles of Behavior Analysis, Revised (2004) Edition』をご参照下さい。

p.72には「(もう一つの)随伴性行動」として、レスポンデント学習(パブロフ型の条件づけ)が紹介されていますが、ルール支配行動に対応する随伴性行動はオペラントに限定する(レスポンデントは含まない)のが一般的です。

p.76では“わが国を代表する行動分析学者の佐藤方哉氏は「われわれが、いわゆる『自由意志』を持っているという考え方はまったくの幻想である」と表現しています”との引用があります。残念ながら原典が参照されていないので、佐藤先生のどの文献を引用されているのかは不明ですが、この考え方は元々は行動分析学の創始者であるB.F.スキナーのものです。しかも前後の文脈がないとたいへんな誤解を招くので地雷のように要注意な物件です。

スキナーは、そしてもちろん佐藤先生も、われわれが環境に対して積極的に働きかける生き生きとした生物であることは否定していません。否定してないどころか、環境に働きかける自発的な行動としてオペラントを定義したくらいです(どちらかというと、行動そのものの形態は遺伝的に固定されているレスポンデントに比較して)。

『自由意志』が幻想であるという表現は、行動の原因(行動を引き起こす究極の原因)は実体のない「意志」にあるのではなく、それを強化する環境(系統発生的に学習される遺伝要因も含めて)によって影響されるという主張でしかありません(いわゆる「Locus of control」の問題です)。

「○○しなくちゃ」とか「自分はこうありたい」というように、我々が頭で考えているような、実在する言語行動(それをもって人は「意志」と呼ぶとしても)の存在を否定しているわけではないのです。もちろん、たとえば憲法で保障されている様々な人権としての「自由」を否定しているわけでもありません。

要は、行動の制御変数をどこに見いだすかという話です。このあたりの話は『行動理論への招待』という本に詳しく、しかもわかりやすく書かれていますから、ぜひご参照下さい。

行動理論への招待 行動理論への招待

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注意して読み進めていくと、このように、いくつか「あれれ?」と思うような点もありますが、全体的には読みやすいし、その割には、仏教とマインドフルネスを対照させたり、それとACTの関連性を考察したりと、概念的分析のレベルはかなり高度で、楽しめる一冊です。行動分析学から「意志」とか「認知」を捉えようとしている人にもお勧めです。

忙しさがドを超えています。怒を越えているとも、オクターブ上のレミファソ状態とも言えるくらいの毎日です。

夕べ、スタディルームに残って仕事していたら、☆くんに「眼が赤いですよ」と忠告されました。

赤目はいやだ。

自暴自虐におちいってはいないんです。ま。それはまさかのま。

とりあえず、協同研究しているKP社のKさんから教えてもらった「ライフハック」なるテーマの本を買い込んで、斜め読み。

タイトルからは“いきなりストレスフリーで3倍仕事ができるようになる”のかぁ〜!?とハカナイ期待をもったのもツカノマ。

この4冊に書かれていることの80%はすでに実行済み。15%はやってみたけど効果が認められなくてやめちゃっていること。残りの5%はそれはないでしょっていう蛇足的な情報でした。

てなわけで、逆に言えば、これらの本に書いてあることを実行すれば、確かに仕事の効率は上がるでしょうが、ストレスフリーってところはまゆつばですね。

ストレスキープかな。

仕事って、すればするほど増えるからね。


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沖縄で学習塾を経営されている仲松庸次さんから丁寧なお手紙をいただきました。拙著『インストラクショナルデザイン』を読まれたご感想と、プログラム学習に関する仲松さんの思いが綴られていました。大好きな沖縄からの意外性の高いお便りで、とても嬉しくなりました。

スキナーの著書をすべて読破された仲松さんは、プログラム学習や行動分析学の考え方に共感し、塾を開き、またご自分で英語や数学のプログラム学習を開発されてきたそうです。『英語プログラム学習中1レベル』を献本していただきましたので、少しやってみました(授業でも紹介し、学生にもやってもらいました)。プログラム学習というよりは、英文法のわかりやすい参考書と問題集という印象を持ちました。

英文法といえば、ここ数年の間に、米国では、学校で英文法をしっかり教えましょうという動きがあるそうです。どうやらこれまでは教えてなかったようです(そういえば、日本でも国語の授業で日本語の文法を学ぶということはあまりやりませんよね)。

この領域で働く行動分析家は少ないのですが、友人のBrad Frieswykはその中の一人で、出版社を経営し、英文法の教材を開発しています。彼はMorningside Academy でディレクトインストラクションやプリシジョンティーチングを使った学校コンサルテーションをしていたこともあり、今ではそのノウハウを英語(というか国語ですね)の授業の支援に取り入れているわけです。

今年のABAでも、彼らの開発した教科書が、標準的な学力テスト(英文法に関する項目)の得点を押し上げたという事例を発表していました。

仲松先生にも、ご自分の教科書や教材の効果を測定していただき、学会発表などもしていただけるといいのになぁと思いました。


英語プログラム学習 中1レベル英語プログラム学習 中1レベル
仲松 庸次

東銀座出版社 2006-06
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Thinking Through Grammar: Prototype Construction CourseThinking Through Grammar: Prototype Construction Course
Arthur Whimbey Myra J. Linden Eugene, Sr. Williams

Bgf Performance Systems Llc 2004-04
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この本、G-Toolsで検索してもヒットしない。おかしいなと思ったら、Amazonのタイトル登録が間違ってた。本の表紙だと<意識>なのに、Amazonでは「意識」。それだけで見つからなくなっちゃうなんて、まだまだだな。

さて、新進気鋭の認知心理学者である下條先生のこの本だが、とても読みやすい。脳、意識、科学なんてキーワードが並ぶと、たいていは専門用語で覆い尽くされて、素人には手が出せなくなってしまうところを、日常的な事例を多用し、語り口調で、きわめてわかりやすく書かれている。

この本のキーワードは<来歴>。“「学習」や「経験」といったことばとちがい、生得説にも経験説にも加担しない、両方を橋渡しするダイナミックな概念”(p.p.91-92)である。下條先生のご専門は狭い意味では<知覚>である。Gibsonのアフォーダンス理論的な、環境重視(というか軽視しない)スタンスはそもそも行動分析学と親和性が高いのだが、この<来歴>という概念は、行動分析学で言えば、系統発生的な随伴性(強化の履歴)と個体発生的な随伴性(強化の履歴)と捉えられそうだ。そして、それが特定の行動が自発される時点での随伴性に影響を与えているということである。

「記憶」に対するアプローチにおいても、いわゆる“痕跡論”モデルの批判は行動分析学からの批判ときわめて類似していて、思わず「そうそう、そうでしょう」と同感してしまった。それも何度も。

神経生物学的な知見の集積は、もしかすると、認知科学と行動分析学の新しいカタチでの連携もしくは統合をもららすかも...という予感さえ感じました。

「意識」とは何だろうか―脳の来歴、知覚の錯誤「意識」とは何だろうか―脳の来歴、知覚の錯誤
下條 信輔

講談社 1999-02
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できたてホヤホヤの本ですが、これはいい。

小中学校の通常学級で特別支援教育に携わっている教員の方々には必読書といってもいいかもしれません。

行動分析学をベースにしていますが、専門的な難しい話はでてきません。高機能自閉症やADHD、LDなどの障害を持った子どもさんや、診断はされていなくても気になる子どもさんを、通常の授業などの集団指導場面でどのようにサポートできるかといった指導のコツを、漫画も交えてわかりやすく説明してくれています。

個別の指導計画や支援計画の作成や、校内委員会の運営など、特別支援コーディネーターに指命された先生が、明日からでも取りかからなくてはならない仕事についても解説があり、使えそうな本です。

さっそく数名の先生方に紹介しました。☆5つ。

あっ、買っちゃった。 一瞬でお客に反応させる快感マーケティングあっ、買っちゃった。 一瞬でお客に反応させる快感マーケティング
松本 朋子

フォレスト出版 2006-11-25
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レシート調査という手法に興味があった読んでみた本。

レシートにはいつどこで何を(何と一緒に)買ったなど、購買行動に関して重要な情報が満載されている。これを同一個人について収集していくことで、従来のインタビューなどによる聞き取り調査よりもリアルな購買行動の情報を得られるということ(らしい)。

女性は論理よりも感性で商品を選ぶとか、自分が欲しいものだけじゃなくて人に買ってあげたら喜ばれる(and/or 一緒に楽しめる )という点も重要であるなど、面白い視点もあった。

前者は、商品の機能的な価値(instrumental な強化力)だけではなくで、嗜好的な価値(hedonicな強化力)を検討すべしということだろうし(当然、商品カテゴリーによってその配分は変わってくるだろうし)、後者は自らの行動に関する言語行動よりも、行動そのものを測定した方が妥当性の高いアセスメントができるということだ(特に言語行動と行動との随伴性が異なる場合には)。

Geniiで検索してみたけど、こういう手法を使っている学術研究は見つからない。ゼミ生の卒論テーマとして提案してみようかな。

経済学と言うと、モノ、カネ、市場を、数値モデルを使って分析する学問というイメージがある。

ところが、本書には数値モデルどころか数式さえでてこない。著者の中島氏は「人間行動の合理性」から、われわれの日常的な営みを解説してくれる。

将棋界や相撲協会などの伝統芸能をビジネスモデルとして分析したり、宗教をサービスとしてとらえて檀家の行動と宗教家の行動を分析したり、行政における“社会的弱者”の設定の意味を解説したりと、すべて、企業側(行政側)であれ、消費者サイドであれ、すべて具体的な行動を念頭において、それを動機づけている経済的要因を探っている思考形態がとても興味深い。

動機づけ要因のほとんどを経済的好子(最終的にはカネに還元できるようなモノやサービス)に限定した理論的行動分析といっても差し支えないほど、その考え方は行動分析学に類似している。

とても勉強になりました。

これも経済学だ!これも経済学だ!
中島 隆信

筑摩書房 2006-08
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学力の新しいルール学力の新しいルール
陰山 英男

文藝春秋 2005-09-09
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「百ます計算」で有名になり、現在、教育再生会議の委員も務められている、陰山英男先生(立命館小学校副校長・立命館大学教育開発支援センター教授)の著書を読んでみた。

正答率ではなく正答スピードを上げる学習方法は、プリシジョンティーチング(Precision Teaching)の成果からもわかるように、基礎スキル(読み書き計算など)の習得と、その応用(文章理解、問題解決など)に効果があることは、行動分析学の研究からも想定できる。

そういう「百ます計算」の理論的背景を知りたくて注文した本なのだが、読んでみると、それよりも、いわゆる「学力低下」問題の原因分析と対処について書かれていて、こちらがいっそう興味深い。

富山から北海道へ移られ、さらに活躍されている“支援ツール”で有名な高畑庄蔵先生(北海道教育大学)による図解入りマニュアル本。ナンバーぞうきん、お手玉ふっきんなどのツールと、背景にある応用行動分析学の考え方を漫画でわかりやすく解説している。

特別支援教育で応用行動分析を活かしていこうとする初学者の先生方や保護者の方々にお勧めです。

教師の実践行動を分析する約900の特殊教育諸学校に学ぶ子どもたちは約9万人で、そこで指導・支援を展開する教員は約5万人です。一人の先生が1事例の実践研究を行うと、1年あたり5万事例が創出されていることになります(p.109)。

月に人を送るプロジェクトもいいけど、こういうプロジェクトも国は応援すべきだなぁ。

「はじめに」より抜粋米国は、日本よりも50年も早く音楽療法の全国組織や音楽療法士の資格制度を確立した音楽療法先進国ですが、その米国において、ABAアプローチは障害者教育分野でももっともオーソドックスな方法として知られています。それはABAアプローチが科学的な考え方を背景にしていて、なおかつ成果が圧倒的だからでしょう(p. ii)

音楽療法といえば、植物状態にある患者さんの動作を音楽を好子として強化できることを示した研究があります。

Boyle, M. E., & Greer, R. D. (1983). Operant procedures and the comatose patient. Journal of Applied Behavior Analysis, 16, 3-12.

音楽というのはかなり根源的な好子のようです(水や空気や人との接触のように)。だから発達障害を持った子どもたちにも使えそうなことは容易に想像できますが、実際に活用されているとは知りませんでした。

本書では音楽を使って子どもの行動マネジメントをする方法や考え方がわかりやすく解説されています。ABC分析も多数掲載されています。学校では音楽の時間が必ずありますし、音楽が好きなお子さんも多いですから、音楽療法家だけではなく、教員の方々へもお勧めです。

音楽療法士のためのABA入門:発達障害児への応用行動分析学的アプローチ音楽療法士のためのABA入門―発達障害児への応用行動分析学的アプローチ
中山 晶世 竹内 康二 二俣 泉

春秋社 2006-07
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算数・数学が苦手な子が読んでも役に立たないかもしれないが、そういう子どもに算数・数学を教える人には間違いなく役に立ちそうな本である。

著者は算数や数学で「つまずき」やすいポイントを整理し、それぞれを乗り越えるための「論理」をわかりやすく解説している。これを読むと、算数や数学では計算だけではなく、なぜそのように計算するかを論理的に考えることが重要なのだとわかる(著者が主張するほど計算を軽視すべきではないとは思うが)。

本書を読みながら、分数の割算など、落ちこぼれが発生しやすい課題について考えてみた。その上で、やはり分数の難しさは、比率と絶対量の区別を明示的に教えていないせいではないかとあらためて思った。

1/2は比率という文脈で登場すれば、たとえば100kgの1/2=500gだし、2リットルの1/2なら1リットルになる。ところが1/2=0.5とか、1と2/5=1.4のように、ときにまるで絶対量のようにも扱われる。これが混在しているために、何がなんだかわからなくなる子どもは多いのではないだろうか。

著者は冒頭に

たとえ1000までの数を言えても、数の概念の理解にはちっともつながりません。子どもに数字を「イチ」から順に言わせる訓練では、5人、5羽、5個のような絵や実物を同時に見せることを忘れてしまいます。暗記偏重という誤った教育の原点があるのです(p.14)。

としている。

もちろん、数唱と個数による刺激の種類を超えての刺激性制御下の高次オペラントはまったく別の行動である。とはいえ、まったく無関係なわけでもない。数唱は数字間のイントラバーバルをつくるし、それはカウント(数え行動)の習得に促進的に働く。そして、カウントは個数の概念獲得に役立つだろうから。

こうした理論的分析は、動物にまで数の概念を教えてきた行動分析家の得意とするところである。日本から分数による落ちこぼれをなくすために貢献できることも少なからずありそうだ。


算数・数学が得意になる本算数・数学が得意になる本
芳沢 光雄

講談社 2006-05-19
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『行動分析学入門』の元本(“Elementary Principles of Behavior”)の最新版(5th Ed.)はタイトルも変わって“Principles of Behavior”。このペーパーバック版がAmazonにナント¥1,511で登場!

半信半疑で注文してみたら(本日到着)、学生用の用語集でした。見開きの左頁に用語と定義が章ごとに掲載され、右頁はメモ用の空欄。なんだ、そういうことですか。

こういう副教材は昔なら大学の近くのKinkosというコピー屋で販売してもらっていたもんです。ネットで売買できるようになったとは.... 時代の流れを感じました。

(他にも“Behavior Modification What It Is And How to Do It ”の同じシリーズを買ってしまったというのはここだけの話にしときましょう ^^;;)

Principles of BehaviorPrinciples of Behavior
Malott Suarez Suarez Malott

Academic Internet Publishers 2006-06-30
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野呂先生の『園での「気になる子」対応ガイド』に次ぐ保育士向けの行動分析学本。

表紙にはABC分析のダイアグラムが掲載されていて、タイトルからも、これなら、気なる行動を(ダイアグラムで)読む解く方法を保育士の先生たちに教えてくれそう!と期待しながら一気に読了。

印象的だったのは以下の4点。

1. 発達の遅れの特性をとてもわかりやすく、しかも「脳」とか「障害名」とかではなく、保育士が日頃の子どもたちの関わりから理解できるようにまとめているところ(以下、p.8より引用)。

発達に遅れのある子どもの基本的な特性(1) 周りからの働きかけや刺激を受け止める力が弱い。
(2) 周りからの働きかけに応える力が弱く、また、その方法(表現)に乏しい。
(3) 周りに働きかける力が弱く、また、その方法(表現)に乏しい。

2. 発達の遅れがみられる子どもを保育所の通常のスケジュールの中でどのように支援できるかが、上の“障害観”に対応した形で具体的に列挙されているところ。特に3章の、保育所が元々持っている特性を活かした支援を進めるという考え方は、きわめて有効だと思う。

3. 「もう少し慣れてから」とか「もう少し様子をみて」という、保育所(に限らないけど)でよくみられる対応に明確にNOと言っているところ。そして、気になる子どもこそ、最初から、誤学習しないうちに、わかりやすく慣れさせることが重要であることを説得的に書いてあるところ。

4. 唯一、残念だったのが、期待していたABC分析(機能的分析)。2章の解説はわかりやすいのだけれど、14の事例のうち、ABC分析が完成しているのは最初の3つだけ。あとの事例はABのみでCがない。しかもAには「教える」とか「支援する」という記述が目立つ。そもそもABC分析には、どのようにして教えるのか、どのようにして支援するのかを記述するのだから、「教えたらできました」というのでは情報というか分析が不足する。もちろん、本文には<取り組とその成果>として指導方法や支援方法の概説はあるからそこを読めば何をしたのかはわかるのだが、これだと、気なる行動をABC分析を使って読む解く方法を教える教科書としては使いづらいかもしれない。


全体的には読みやすく、理解しやすく、読んだことを実践しやすい、良書だと思います。おすすめ。

保育士のための気になる行動から読み解く子ども支援ガイド保育士のための気になる行動から読み解く子ども支援ガイド
平澤 紀子 山根 正夫 北九州市保育士会

学苑社 2005-10
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統一協会やオウム真理教など、カルトによるマインドコントロールを研究している西田公昭先生(静岡県立大学)の著書を続けて2冊読んだ。

『まさか自分が…』は一般読者向けの本。オレオレ詐欺や悪徳商法の手口などがわかりやすく解説されている。

『マインドコントロールとは何か』ではマインドコントロールの技法が、フェスティンガーの認知的不協和やベムの自己知覚理論など、社会心理学の知見から詳しく分析されている。研究論文の引用なども豊富で、学術的にも参考になった。

『まさか自分が』のタイトルにあるように『…そんな人ほど騙される』というが、“なぜだまされてしまうのか”を考察するには、当然ながら、“なぜ信じてしまうのか”を分析すべきだろう。

マスコミでカルト問題が取り上げられるたびに、わけしり顔のコメンテーターが社会の問題、家庭の問題と批判したりするけど、この本に書かれている内容を読めば、もう少しまともな(役に立つ)ことが言えるのではないだろうか?(勉強不足なんだな、きっと)。

さて、行動分析学から「信じる」を考察すると、どうなるだろう?

それはまた次の機会に。

西田公昭先生のwebページはこちらです。





マインド・コントロールとは何かマインド・コントロールとは何か
西田 公昭

紀伊國屋書店 1995-08
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「チョムスキー」は二人います、と始まるこの本。前半では言語学者としてのチョムスキーに焦点をあて彼の生成文法論を紹介し、後半ではベトナム反戦運動から9.11以降の米国テロ戦争への反対運動で有名になった社会批評家(あるいは運動家)としてのチョムスキーの考え方をまとめている。

ご本人が執筆しているわけではなく(著者はジョンCマーハという人)、ところどころインタビュー形式でチョムスキーが語る、マンガ本みたいな構成。以前、このブログで取り上げたようにスキナーへの批判も掲載されている。

「入門」ということで、生成文法論の概略だけでもつかみたかったのだが、正直、よくわからなかった。ただ、次の箇所を読んで、わからなくても仕方がないのかなという気もしました(p.19)。

著 者:「あなたの唱えるI-言語とE-言語という区別は、なかなか難しいですね」
チョム:「難しいのは当然だね。E-言語はそもそも一貫性のないものだから、理解のしようがないんだ」

なんとなくだけど、彼のいう「普遍文法」を、あらゆる言語に共通ないくつかの機能としておきかえれば、スキナーとチョムスキーで実はおんなじようなことを言っている可能性もあるんじゃないかとは感じた。

チョムスキーはそれが生得的で遺伝的に組み込まれたメカニズムととらえたのに対し、スキナーは環境と行動の相互作用にある共通性ととらえられないかと論じただけじゃないかと。

研究室にラッセルのことばを掲げていたというチョムスキー(p.177)。

単純だが圧倒的な三つの情熱ー愛へのあこがれ、知識の追求、人類の苦しみに対する耐えきれないほどの同情ーが私の生活を支配してきた(ラッセル)。

社会問題への関心とコミットメントはむしろスキナーと共通するところだし、もっと同感してもよかったじゃないかと思う。チョムスキーは言語学者としての自分と社会批評家としての自分を区別していたけど、スキナーは逆に行動分析学で教育問題の改善に取り組むなど、学問と社会問題をリンクさせるというスタンスの違いはあったにしても。


チョムスキー入門チョムスキー入門
ジョン・C. マーハ John C. Maher Judy Groves

明石書店 2004-02
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ナンバーぞうきんや腹筋お手玉など、面白く有効に使えるさまざまな支援ツールを開発してきた武藏博文先生(富山大学)と高畑庄蔵先生(北海道教育大学)のコンビが、これまでの仕事の集大成のような本を出されました。

子どもが使う「チャレンジ日記」、保護者や教員が使う「サポートブック」の作成を中心に、互いにアイディアを出し合い、助け合いながら子どもを前向きに支援するための環境を整えていく構成になっています。

各章ごとに、「うちの子いちばんアンケートを書こう」とか、「ねらいを絞るワークシートをしてみよう」とか、「チャレンジ発表会をしよう」のように、具体的な活動プランとそのための教材(ワークシート)が用意されていて、このまま保護者向けや教員向けのワークショップの教科書に使えそうです。

表紙からも見て取れるように、イラストだけではなく、3コマ、4コマ漫画がたくさん掲載されていますし、教材の写真やそのまま使えそうな教材そのものまであります。これで1,800円はお買い得。出血大サービスですね。

これまたお勧めの一冊となりました。

発達障害のある子とお母さん・先生のための思いっきり支援ツール―ポジティブにいこう!
発達障害のある子とお母さん・先生のための思いっきり支援ツール―ポジティブにいこう!武蔵 博文 高畑 庄蔵

エンパワメント研究所 2006-08
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鳴門教育大学附属養護学校の猪子先生(現在、鳴教の大学院に在学中。私の阿波踊りの先輩でもある)が、徳島県内の保育士さんたちと事例研究を中心にしたコラボレーションを展開している。これまで私が養護学校の先生たちとやってきた仕事を、保育所を対象にリプリケーションする研究を修士論文としてやっちゃおうというチャレンジだ。地域の学校と保育所が連携できるように、今後の展開も視野に入れた大きなプロジェクトだ。

先週の金曜に2回目の研修が行われた。教科書として使うには間に合わなかったが、野呂文行先生(筑波大学)から新刊書が届いた。

『園での「気になる子」対応ガイド:保育場面別Q&A・保護者他との関わり・問題行動への対応など』 野呂文行【著】 ひかりのくに

新しすぎて出版社のHPにもまだ未掲載。Amazonや紀伊国屋などのオンラインショップでも取り扱いがない(9月から取り扱いになるそうです)。

まさにホッカホッカの新刊。

内容は、保育所や園などで気になる子の行動例を具体的にあげ、発達障害の特性からその原因を考え、原因に対応した保育の方法や配慮を紹介するというもの。

気になる行動の原因を推定し、それにあった対応をするということが意外にも難しいことは以前にもブログで書いたことがあったけど、本書ではまさにそこのところをカバーしている。

行動分析学の考え方は最後の章にちょこっとだけ解説されているだけだが、その内容は問題行動の機能的分析とポジティブな行動支援(PBS)という先進的なもの。

先に紹介したリハビリ本と同様にイラストが多く、読みやすい(イラストが多い本を書きたい私にとっては羨ましい限り)。

低年齢の子どもの場合、発達障害の有無にかかわらず(つまり子どもが“健常”であったとしても)、発達障害をもっている子どもへの対応策は有効である。障害児保育は専門じゃないからなどとは言わず、ぜひすべての保育士さんに読んでいただきたい。

これもお勧めです。


*Amazonに登録されましたので追加します。

日本の行動分析学界で特別支援教育に次いでいま最も元気がいいのがリハビリテーションの分野ではないだろうか。そんななか、タイムリーにも、医療や福祉の現場で“こころ”の問題に行動分析学から取り組もうとする人たちに最適な入門書が出版された。

本書では行動分析学や応用行動分析の基礎がわかりやすく解説され、すぐに臨床に役立つ情報も満載されている。キーワードだけあげても、慢性痛、車椅子操作指導、転倒予防、高次脳機能障害、重度記憶障害、急性期脳卒中片麻痺などなど。

専門的な内容にもかかわらず読みやすいのは、イラストが多く、すべての章で文章が容易に書かれているからだろう。行動の記録方法も含んだ研究方法についての記載もあるし、リハビリテーション以外の仕事をしている人たちが読んでも十分仕事に使えると思う。

間違いなく、お勧めです。

4263212975リハビリテーションのための行動分析学入門
河合 伊六 辻下 守弘 小林 和彦

医歯薬出版 2006-07
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人の名前をど忘れするとか、ものをなくすなど、誰にでもある日常の記憶の問題から、アルツハイマーや目撃証言、カウンセリングによる“偽記憶症候群”などの、臨床的・社会的問題まで幅広くカバーした本。近頃の認知心理学はどうなっているのかなと思って読んでみた。

記憶の問題を“7つのエラー”に分類し、それぞれ異なるプロセスを解説しているところは、“記憶”とひとくくりには論じなくなったんだなぁと発展を確認。実在しなかった幼児期の虐待の記憶がカウンセラーとのやりとりによって刷り込まれる可能性があることや、警察の質問の仕方によって目撃者証言の信憑性が変わってしまうことを示した一連の研究には、大きな社会的な貢献があると思う。また、MRIやCTなどによって、認知プロセスと脳の活性部位との関連を検討する研究が進んだことも、生物学や神経科学、医学との連携を深めたという点で評価できる。

ただ、こうした発展や社会的貢献の元になった研究をよくみていくと、認知モデルがどうのこうのというよりは、再生や再認に与える制御変数を明らかにした実験が多いように感じる。やはり、モデルの確立よりも制御変数の同定に価値があるのではないだろうか。もちろん、モデルがあるから、そのような価値ある関数関係が導けるのだと論じることもできるとは思うのだが、はたしてホントにそうなのだろうか。少なくとも目撃証言関係の論文などを読んでいると、認知的モデルなしでも遂行が可能な実験が多いように思える。

逆に、じゃ、モデルづくりは目的ではないとする行動分析学から、同じような研究がでてくるかどうかというと、私は可能だと思う。ただ、そういう領域で仕事をしている人がほとんどいないだけの話のような気もする。

そのうち時間があれば「パン屋のベーカーのパラドックス」でも行動分析学的に解釈し、さらに制御変数をみつけるような実験が組めるかどうかを考えてみてもいいかもしれない。

なぜ、「あれ」が思い出せなくなるのか−記憶と脳の7つの謎
なぜ、「あれ」が思い出せなくなるのか―記憶と脳の7つの謎ダニエル・L. シャクター Daniel L. Schacter 春日井 晶子

日本経済新聞社 2002-04
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地下鉄のポスターで気になっていた“江戸しぐさ”の本を読んでみた。

【わかったこと】

・江戸しぐさは江戸の街の商人たちが商売繁盛のために考えだし、自分たちの子息に伝えようと共同で学校(「講」)までつくった、“人工的な”ソーシャルスキルであった。

・商売繁盛といっても、金儲けのためだけではなく、お互いに気持ちよく暮らす心得が重視されていた。

・江戸しぐさを身につけた大人の行動は「イキ」(「粋」ではなく、生き生きしているという意味での「生き」だそうな)とされ、尊敬され、大人も子どもも見習った。

・江戸しぐさは「束の間つきあい」「年代しぐさ」「肩引き」「傘かしげ」などなど、ひとつひとつが具体的な行動としてわかりやすくルール化され、命名されていた(「他の人の迷惑を考えましょう」というような抽象的、心理的なルールではなく、すれちがうときは肩を引きましょうという具体的、行動的ルールという意味)。

【わからなかったこと】

・江戸しぐさがほんとうにどのくらい実行されていたのか。

・(もし大半の市民に実行されていたのなら)なぜそれが可能だったのか? そしていつごろ、どうして衰退してしまったのか。

・(これはどうでもいいことだけど)著者の越川禮子さんはどうやって江戸しぐさを学ばれたのだろう? ご著書を2冊読ませていただいたが、まるで生き証人のように解説されている。(ちなみに下の2冊の内容はほぼ同一なので、どちらかを読めば十分だと思う。)

越川さんは当時の江戸の街の状況も解説してくれていて、そこからは、

・江戸市民のほとんどが商人でお互い、売り買いをする仲だったこと。

・長屋住まいで、薄い壁ひとつ隔てて暮らしていたこと。

・幕府による住民サービスは最低限で、地域の行政はむしろ寄り合いにまかされていた。

・江戸の人たちは江戸の街や自分たちのライフスタイル(「生き」な生き方)に誇りを持っていた(おそらく、生きではない人との差別的意識があったのではないかと思われる)。

推察するに、現代に比べると地域社会が菅原健介先生の言う「世間」として強く機能していたのだろう。

夜中に騒げばとなりから苦情がくる。しかもとなりの人とは知り合いでお客さんでもある、となれば、そこで喧嘩をするわけにもいかない。

街を歩けば知り合いだらけ。そこで傍若無人なふるまいをすればすぐに噂になり、自分の店の評判も下がって売り上げも落ちる、となればナイスに振る舞うしかない。

江戸しぐさを行動レパートリーとして教えるインストラクション(「講」)、日常生活の社会的・経済的随伴性、そして見本となる行動を「いきだねぇ」、見本とならない行動を「いきじゃないねぇ」と弁別してタクトしあう(相づちをしあう)ことで、維持されていたのではないだろうか。

う〜ん。とても素敵な文化的行動なんだけど、地下鉄のポスターだけでは習得も維持も難しいだろうなぁ。


身につけよう!江戸しぐさ―イキで元気でカッコいい!出来るおとなの大切な心得
身につけよう!江戸しぐさ―イキで元気でカッコいい!出来るおとなの大切な心得越川 禮子

ロングセラーズ 2004-09
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商人道「江戸しぐさ」の知恵袋
商人道「江戸しぐさ」の知恵袋越川 禮子

講談社 2001-09
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「ジベタリアン」「人前キス」「車内化粧」など、日本人の美徳であったはずの「恥」を忘れたとしか思えないような迷惑行動。その原因を社会心理学の研究から解説した本。

著者の菅原健介先生(聖心女子大学)は「恥」に関する日本の代表的な研究者だ(本書で取り上げられている研究については、より専門的な『人はなぜ恥ずかしがるのか』に詳しいので興味がある人はそちらも参照するとよい)。

社会心理学的な研究では「なぜ恥ずかしがるのか?」というよりも「どういうときに恥ずかしがるのか?」という問いに答えようとする研究や、恥の感覚を生じさせる状況を分類するような研究が多い。しかしながら本書ではそこから一歩踏み込んで、上記のような迷惑行動が生じる原因を考察している。

地理的に身近な地域での共同体であった“世間”が崩壊し、自分本位な興味などでつながる“セケン”へと変化したことで、近所の人たちは“タニン”であり、タニンにどう思われようと気にしない(恥ずかしくない)から、地べたに座るし、電車で化粧もするのだろうというのが、菅原先生の説である。

これを行動分析学的に解釈すれば、近所の人たちとのやりとりが強化される随伴性よりも、同じ興味を共有する、遠くの、限定された人たちとのやりとりの方が強化されるように変わったために、近所の人たちが、強化や弱化の弁別刺激として機能しなくなってきたということだろうか。

こうした、マーヴィン・ハリス的な文化唯物論視点は、とかく精神論に終始しがちで、最終的には「最近の若者は...」と個人攻撃の罠にはまってなんら有効な対策(それが必要な場合には)を生み出せないこの手の議論には有効だろう。

羞恥心はどこへ消えた?
羞恥心はどこへ消えた?菅原 健介

光文社 2005-11-16
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4781908632人はなぜ恥ずかしがるのか―羞恥と自己イメージの社会心理学
菅原 健介

サイエンス社 1998-02
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行動経済学の研究が数多くダイジェストされている内容の濃い本。

この手の研究では課題の工夫のされ方がほんとうに面白くて、時に感動までする。今回、いちばんウケたのはこれ。

(シーらの)実験では、50セントのハート形のチョコレートと、2ドルのゴキブリ型のチョコレートを選ばせると、2ドルの方を選ぶ人が多かった。しかし、実際に食べるときにどちらが満足度が高いか訪ねると、ハート形という人が多かったのである(pp. 265-266)。

好子=好きなものではないという好例であり、同一の好子でも、強化する行動によって強化力が異なると言えないこともない。こういう発想が行動分析学者から出てくることが少ないのは残念だ(生真面目すぎるのだろうか)。

他にも「二重プロセス理論」は随伴性制御とルール支配の区別にかなり近似していたり、「損失回避性」(損失は同額の利得よりも強く評価される)は、同じ好子を使った好子出現による強化と好子消失阻止による強化とでは果たして強化力が異なるのだろうかとか、「現状維持バイアス」は行動的慣性と関連していそうだとか、同じテーマを行動分析学からアプローチしたら、さらに面白い知見がでてきそうな雰囲気。

いくつかの実験の元論文を読んでみようかな。

4334033547行動経済学 経済は「感情」で動いている
友野 典男

光文社 2006-05-17
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地球温暖化警鐘も、ダイオキシン汚染を防ごうとする政策も、琵琶湖のブラックバス退治も、すべて地球や環境に優しいフリをした新しい利権構造であると断じた本。

論理は明確だし、“小学生に英語を教えるな”論争本にありがちな、主張(思想?)ばかりでデータがないということはない。一応、データだらけである。

“一応”と書いたのは、参照しているデータがあまりに豊富だから、コトの真偽にいくら興味があっても、元データにすべてあたるなんで無理な話だから。このへんが科学ジャーナリズムの難しいところだ。そもそも自然科学の方法論は権威主義とは相容れないはずだけど(偉い人が言ってることが正しいと信じたりはしないってこと)、科学のことを世の中の人に正確に伝えるためには、自分の言ってることが事実であると説得しなくてはなず、そのためにはなにかしらの“権威”が必要になる。

著者の池田清彦先生は「構造主義生物学」というのがご専門だそうだ。ここまで行政を批判していたら(この本では特に環境省を痛烈に批判してる)、たとえば科研とか取りにくくならないのかななんて余計な心配をして、さらに科研データベースで検索までしてみた。どうやら科研はほとんど取られていないようだ。

でも科研は申請しないとあたりもハズレもしないから、もしかしたら申請されていないだけかもしれない、とさらにググってみたら、こんな文章が見つかった。

西條剛央のブログ:構造構成主義 一九八八年から九二年にかけて『構造主義生物学とは何か』『構造主義と進化論』(共に海鳴社)、『構造主義科学論の冒険』(毎日新聞社)、『分類という思想』(新潮社)の四冊の理論書と、ネオダーウィニズムをボロクソに貶したエッセイ集『昆虫のパンセ』(青土社)を出版し、気分は爽快であった。日本の関係学界の主流は当然、私の理論を無視したが、私は別に気にしなかった。私は学会を牛耳るつもりもなければ、エラくなるつもりもなかった。何よりもステキだったのは私の研究(理論構築)にはお金が全くかからなかったことだ。科研費などビタ一文もらえなくとも全く困らなかった。これを世間では無敵という。『科学の剣 哲学の魔法−構造主義科学論から構造構成主義への継承』の「はじめに」から

なるほどそれなら確かに無敵だろう(妙に納得)。

「すべての自然物に生きる権利があるなんて考えは、物事を深く考えたことがない倫理学者の妄想に決まっている」と池田先生は言い放つ(p.149)。その根拠の一つはごくごく単純明快だがほとんどの人は考えないだろうアナロジーである:クジラやトキやヤンバルテナガコガネなどを「自然保護」の名の元に守ろうとする人たちも「もしライオンが地球上に百億頭もいて、毎日何十万人もの人間を餌にしていたら」ライオンを保護しようなどというわけはないし、現在でも「エイズウィルスや破傷風菌にも生きる権利があるなんて思ってる人はまずいない」。

生物学の知識がなくても、元データにあたる時間はなくても、この論理の判断はできる。というか、こういう想像力に基づいた論理的思考こそ、ほんらい論理学で教えるべきことなのではないだろうか。

真偽のほどは別にして考えさせられる本でした。おすすめ。

環境問題のウソ環境問題のウソ
池田 清彦

筑摩書房 2006-02
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またしてものgoogle本。「グーグル-Google 既存のビジネスを破壊する」と内容としてはカブってるけど、この本の中ではgoogleが仮定している「不特定多数無限大への信頼」ってのが面白かった。

著者の梅田望夫氏が例示するように、確かにlinuxやfirefoxなど、オープンソースという不特定多数によるネット上のコラボレーションの成功例は見逃せない時代の変化だと思う。ウィキペディア(Wikipedia)の正確さが、ブリタニカとそれほど遜色ないことを示した研究も紹介されているが、「不特定多数無限大」を信頼できるかどうかというのは実証的な問いであって、答えはデータで示されるべきだろう。

個人的には「不特定多数無限大」から信頼できる行動を引きだすための環境要因の同定に興味を持った(逆説的にはどんな条件のときに信頼できなくなるかということ)。

ウェブ進化論 本当の大変化はこれから始まるウェブ進化論 本当の大変化はこれから始まる
梅田 望夫

筑摩書房 2006-02-07
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卒論で因子分析をするのに数学も統計も苦手で、論文読んでもチンプンカンプンですという学生さんには、これまでこの本を奨めていた。数学アレルギーで数式とかはわからなくても多変量解析を概念的に理解できる良書である。

複雑さに挑む科学―多変量解析入門複雑さに挑む科学―多変量解析入門
柳井 晴夫

講談社 1976-01
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ただ、私が学部生のときにお世話になった本でもあり、取り上げられている例は「時代」を感じさせる。もう少し新しい本はないかなと探していたら、この本が見つかった。

誰も教えてくれなかった因子分析−数式が絶対に出てこない因子分析入門誰も教えてくれなかった因子分析
―数式が絶対に出てこない因子分析入門

松尾 太加志 中村 知靖

北大路書房 2002-05
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卒論などで因子分析を勉強しなくてはならない学生(しかも統計は苦手で数式なんか見たくもない)を想定して書かれているので、ほんとに数式がでてこない。

論文を読んで他の人がやった分析を解釈するだけなら1章だけでも充分。3章も読んでおけば完璧。まず、こっちの本を読んで、どうしてもわからなければ上記の本を読むという順番でもいいかもしれません。

ちなみに著者の一人の中村知靖先生(九州大学)は上の本の著者である柳井晴夫先生のお弟子さんで、私とは千葉大学で同期だったりするのです。

これは面白い! ネットユーザーにとっては欠かせなくなったGoogleだが、単なる検索エンジン会社ではなく、既存のビジネスに取って代わって新しいビジネスモデルを作りだし、さらに我々の行動を管理する権力ともなりうる存在として、本書の著者は警鐘をならしている。

Googleの主な収入源となっているキーワード検索をベースにした広告は、行動分析学からすると見事なまでに個別化された確立操作である。新聞や雑誌、テレビにしても、読者や視聴者が、潜在的に欲しいと思っているモノやサービスの広告が、それを欲しいときに提示されるというわけではない。こうした広告はあくまでマス(大量に)情報を流し、たまたま確立操作が聞いている購買者がひっかかるのを期待しているわけだ。

ところがキーワード検索をベースにした広告なら、すでに検索しているキーワードから、その人がその時点で何を探しているのか(つまり何が好子になっているか)という情報が得られているから、最も効果的な広告が打てる。そして、そうした個別化にかかるコストはマスベースの広告に比べると微々たるものである(これこそがIT化の成果として、本当ならプラスにとらえたいところだ)。

Amazonのお奨めサービスのように、ユーザーの購入履歴やブラウズ履歴から、より一層ポイントを絞った広告も打てる。

著者はGoogleが提供するサービスの革新性は評価しながらも、あまりに巨大化し、ネット独占率が高い一民間企業が、たとえば中国政府や米国政府による圧力に屈すことのリスクを訴えている。

一国の政府が国民の行動を管理しようとする時には法律や規制によって明示的なルールをつくるのが普通である。だから国民はそれが意に反していれば反対を意思表明できる。

ところが一民間企業であるGoogleには、どんな確立操作が効いている個人にどんな情報を与え、どんな検索結果を返すかという随伴性について開示する義務がない(というか、このアルゴリズムこそが知的財産であるので秘匿するのが常識だ)。

ある意味で、ネット検索しているときの随伴性はGoogle(や他のwebサービス会社によって)コントロールされているのであり、随伴性形成的に、個人個人の行動が強化、弱化、消去され、シェイピングされていくことだってありうる。となれば、まさに映画『マトリクス』の世界である。

我々は賢いユーザーとして、我々の行動の一部がそうした随伴性によって影響を受けることを知り、随伴性をいじっている会社や個人の行動を監視して、必要であれば声を上げていかねばらないないと思った。

学生に相関関係と因果関係の分析の違いを教えるのに使えそうな本。

タイトルにあるように「サザエさん」の視聴率とTOPIX(東証株価指数)の間には-.86の相関があるらしい*、これは、

「サザエさん」の視聴率が高い時は株価が下落し、逆に視聴率が低い時には株価が上昇する傾向がある(p.18)

ということである。

これが相関関係の記述。

ところが、これは(あたりまえだけど)、みんなが「サザエさんを」観れば景気が悪くなり、観なければ景気が良くなるということではない。相関関係はそのまま因果関係を示すわけではないからだ。

ちなみに本書の著者は、景気が良くなると外食や外出が多くなるから日曜の夕方に自宅で「サザエさん」を観る人は減るはずだし、景気が悪くなると逆に自宅でゆっくりして「サザエさん」を見る人が増えるからではないか?と“解釈”している。

妥当そうな解釈ではあるが、このままではただの仮説である。「〜すると〜になる」と結論するのであれば、因果関係を実証しなくてはならない。

他にも、たとえば障害者雇用率の高い企業は業績がいいとか、女性を活用している企業の株価は高いとか、様々な相関関係が紹介されててたいへん興味深い。興味深いのだが、それは障害者雇用率とか女性労働者の比率から株価がある程度予測できることがわかるから。株価が低い企業は障害者や女性を雇用すれば株価が上がるということがわかったからではない。

相関関係を因果関係と取り違えて介入すると失敗することもある(たぶん失敗する可能性が高い)。相関関係には行動の予測には使えるが、制御には使えないことも多いからだ。

もちろん相関関係に価値がないというわけでない。投資家にとっては株価の予測(これも投資家の行動の予測である)ができればいいわけで、そのためには相関関係がわかるだけでも充分である。ところが経営者にとっては、相関関係だけでは不十分であり、因果関係を知ることが必須になる。

学生さんたちへ > 研究からわかることの効用範囲をよく理解しておきましょう。


*統計処理の妥当性の議論については保留。本書には面白い相関関係が多数掲載されているが、相関に限らず、統計処理というものはpost hocにいろいろやれば、どこかで統計的には有意な関係がでてしまうものである。


サザエさんと株価の関係―行動ファイナンス入門サザエさんと株価の関係―行動ファイナンス入門
吉野 貴晶

新潮社 2006-02
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行動療法学会のコロキウムで話題提供したときに、勉強のため、1ケースだけ事例発表会にも参加させていただいた。

そもそもこのコロキウムという催しは、学会会員が自らの事例を持ちより、他の会員から助言を受ける機会として設定されているそうである。一つの事例について1時間以上かけて発表と意見交換をするという方法は、通常の10分程度の口頭発表に比べると、話し合いも深まるから、特に発表者にとってはメリットが大きいと思われる。

取り上げられる事例は不安症など、いわゆる一般臨床が多いようだが、フロアからの助言には、機能的分析など、行動分析学的視点もあり、それが受入れられていることが私にとっては新鮮だった。日本では“行動分析学=発達臨床”という誤ったイメージが定着してしまっていると思っていたからだ。

もちろん、実際にはそんなことはなくて、行動分析学をベースに一般臨床をしている人たちもいる。特に最近では、認知行動療法的な味付けの手法だが、理論的な背景にはルール支配行動や関係性などを持つ臨床家も増えているらしい。

本書はそのような展開をまとめた、どちらかというと理論的な解説書である。具体的な事例がほとんど掲載されていないので、私のような門外漢にはとても読みづらかったが、全体的な傾向はつかめた。たぶん、初学者(特に行動分析学の初学者の臨床家)は最初の二章は読み飛ばした方がいいかもしれない。

個人的には、内的反応の条件づけなど、基礎実験につながりそうなアイディアにとても興味を持ちました。

完全に理解して読了するのはかなり難易度が高い本ですが、行動分析学から一般臨床をしたい人には必須でしょうね(他に日本語で読める本がないし)。

マインドフルネス&アクセプタンス―認知行動療法の新次元マインドフルネス&アクセプタンス―認知行動療法の新次元
S.C. ヘイズ M.M. リネハン V.M. フォレット

ブレーン出版 2005-09
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現職教員ゼミ生向けの本シリーズ、第二弾。

統計もそうだけど、現職ゼミ生は「科学」や「研究」に関する基礎的な考え方でつまづくことがある。

ものすごく大ざっぱな言い方をすると、ゼミ生やサマースクールに参加してくれる現職教員には、指導法や研究法について、たった一つの正解があってそれを覚えてしまいたいと思っている人が多いという印象がある。

質問をするときにも「これでいいですか?」と、正解か不正解かのみを問う。正解ならそれで一件落着という気持ちまで伝わってくることもある。

研究というのは、わからないことをわかるためにするものだけど、一つの研究ですべてがわかるわけではない。わからなかったことがわかる一方で、わからないことが残ったり、これまでわかっていたと思っていたことがわからなくなったりもする。

「すべては作業仮説(working theory)である」という勘をつかむことは、もしかしたらかなり重要なのかもしれない(自分の場合、こうした考え方は千葉大学時代に、恩師の実森先生から徹底的に叩き込まれた)。

本書は研究活動だけではなく生活全般でほとんど99.9%が仮説であるという仮説を展開している。そもそもなんのために研究をするのかを冷静に考えるのを、たぶん助けてくれると思う。

なぜか文字が大きかったり、妙に強調してたり、へんに挑発的だったりして、若干イラっとしながらも、最後までわかりやすく読めました。

第一弾で取り上げた本もそうだけど、こういう内容って、中学校の高学年や高校でぜひ取り上げるべきだと思う。微分・積分などより、よっぽど生活に関連しているし、日本人を賢くするのに有効だと思うから。

99・9%は仮説 思いこみで判断しないための考え方99・9%は仮説 思いこみで判断しないための考え方
竹内 薫

光文社 2006-02-16
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現職教員のゼミ生たちには、ときどき(頻繁に? ^^;;)、「え、こんなこともわからないの?(汗)」と驚かされる。行動分析学のことじゃなくて、一般常識や語彙だったり(たとれば「アナロジー」という言葉を知らなかったり)、修論のデータの分析に関わることだったりする(難しい計算ではなくて、代表値の算出や棒グラフの作成)。実際、ゼミの時間の半分以上が、行動分析学以外の指導に費やされることも珍しくない。

一般常識や語彙に関しては私も人のことは笑えない(その他のいろいろなことでも私は人のことは笑えないのだが、とりあえず笑ってしまうのは不徳の致すところなのでお許しを)。

データの分析については、たとえば、ある指導の前後で生徒の行動を測定し、その指導に効果があったかどうかを検討するためのグラフを描くときにつまづいたりする(具体例を出すと話が長くなるので、ここでは省略するけど)。

よくよく話を聞き、ゼミ生たちの行動を観察していると、どうやら数字(統計)の意味を把握したり、意味ある数字(統計)を考え出すところでつまづいているようだ。大学で扱う“統計”の教科書だと、検定とか多変量解析とか、かなり高度になってしまう。彼らがつまづいているのはもっと下位行動のようである。

そこでゼミ生の協力のもと小・中・高の教科書や問題集をざっと調べてみた。すると、グラフの読み方などは算数や理科、社会で教えるものの、グラフの描き方--というか、グラフにプロットするための集計の方法についはほとんどカバーされていないことがわかった。

これだと、新聞や雑誌、研究論文で提示されるグラフを読み取ることはできても、自分で作成するのは難しいし、他人が作成したグラフの妥当性や信頼性を疑うという、とても重要な行動は未習得なまま成人してしまう。

というわけで、研究にとっても、市民としてより賢く生きるためにも重要な数字(統計)に関する知識を学んでもらうための本を探すことにした。

とりあえず一冊目はこの手の本の古典中の古典。引用されている例も“キンゼイ・レポート”とかルーズベルトが選出された選挙戦の話とか、いにしえの感が否めないが、それをのぞけば、読みやすく、わかりやすい本である。

ゼミ生の皆さん、まずはこれを読んでみて、どう思ったか教えて下さい(知っていたことばっかりだったか、目からうろこ系か)。

統計でウソをつく法―数式を使わない統計学入門統計でウソをつく法―数式を使わない統計学入門
ダレル・ハフ 高木 秀玄

講談社 1968-07
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我々、心理学者の多くは、マスコミやメディアで面白半分に取り上げられるオカルトや超常現象、占いや血液型性格判断に関して無関心か嘲笑というスタンスをとっている(と思う)。しかしながら、実は、社会的、人権的な大きな問題になりうるのだと、本書の著者は敢えて声を大きくして警鐘している。テレビに出演して、占い師と対決してしまうというエピソードもなかなか面白い。

著者は(私も)、決して“超常現象”や“未確認飛行物体(UFO)”の存在を否定しているわけではない(後者に関しては、定義からすれば何の不思議もなく存在するわけで、むしろ飛躍しているのは、そこに未知の惑星からやってきた宇宙人が乗っているという主張にある)。いわゆるオカルト派の人たちは、不思議な現象を立証するための科学的な手続きや論理の組み立て方があまりに未熟であるというのが一つ。それから、霊魂や宇宙人の存在を仮定しなくても、より自然に説明できるのに、無理な説明をしていることも多いというのも主張の一つだ。

心霊写真に関していえば、写真の中に霊がいると報告するタクトを制御している変数は、おそらく実験室の中で再現可能だと思う。残念ながら本書ではそうした心理実験が紹介されていないが、あまり行われていないのかな。興味がある学生がいれば卒論でやってみてもいいかも。

超常現象の心理学―人はなぜオカルトにひかれるのか超常現象の心理学―人はなぜオカルトにひかれるのか
菊池 聡

平凡社 1999-12
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分かりにくい標識やマニュアルなど、世の中には分かりにくいインストラクションがたくさんある。本書は、書き手の意図を正しく伝える方法を豊富な具体例で解説してくれる良書だ。

現職教員ゼミ生の作る資料はとても分かりにくく、いつも不思議に思っているのだが(分かりやすく教えるのが仕事の人たちなのに)、Tさん(あえてイニシャルトーク)によれば、学校で配布する資料(アンケートや書類など)は前年まで使ってきたものをその年の担当者がそのまま使い回すことが多く、読み手とか読者のことを配慮するような発想自体がそもそもほとんどないそうだ。

これってまさに“公務員体質”ですね。公務員の身分を守りたければ「民間にできることは民間に」と言われる前に、自助努力でサービスを改善しましょう。そのための視点として役に立つ本です。

「分かりやすい表現」の技術―意図を正しく伝えるための16のルール「分かりやすい表現」の技術―意図を正しく伝えるための16のルール
藤沢 晃治

講談社 1999-03
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「ライフスタイル戦略」とは消費者行動を分析する手法の一つ。生活の領域ごとに人がどんなことに価値をおくかについてパターン(類型)を見いだそうとするアプローチらしい。

たとえば、ファッションに関するライフスタイルは「ファッション追求」「トラッド志向」「実質重視」「常識遵守」「無頓着」の5つに分類されるという。「ファッション追求」は20代の女性が多く、「常識遵守」は50代の男性で部課長などブルーカラーが多いというようなデモグラフィーの分析がこれに続く。

こうしたデータや分析を活かせば、どんな人たちをターゲットにどんな商品やサービスを開発・提供し、宣伝すべきかが分かってくる。マーケティングでは「セグメンテーション」と呼ばれる手法が可能になるわけだ。

行動分析学的に解釈すれば、どんな人がどんなことを習得性好子や習得性嫌子や習得性確立操作として獲得しているかというとになる。そして、一人ひとり見ればもちろん例外はあるはずだが、被調査者数を増やしていくと、そこに一定のパターンが見えてくるということは、とりもなおさず、価値観というものがその人のおかれた環境(年齢や年代、性別も含めて)に影響されることを示している。

ひとつ興味深かったのは「理想の食事」の価値観。アメリカ人にとっては何よりも「選択できる」ことが重要であるのに対し(ステーキの焼き具合、ドレッシング、サイドディッシュ、etc.)、日本の料理屋のコースではそうした選択の余地はほとんどなく板さんにお任せになる。それでも美味しい料理がでてくるという確信があり、出された料理を美味しくいただくことに価値をおく、という対比である。

過剰般化させて考えると、食べ物だけではなく人生のいろいろな場面で(職業選択、仕事の仕方、余暇の選び方などなど)、日本人はどちらかというとお上(行政や会社や学校や“ご主人さま”)にお任せという傾向があるようにも思える。

行動福祉では「選択肢が多い方がQOLが高い」と考えるが、案外、これもグローバリゼーションの一つで、ときどきは疑ってみてもいいのかもしれない(選択肢が少なくても幸せなこともあるのかもという意味で)。

売れ筋の法則―ライフスタイル戦略の再構築売れ筋の法則―ライフスタイル戦略の再構築
飽戸 弘

筑摩書房 1999-05
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スキナー的老後生活充実作戦を一般読者向けに紹介した本。たまたまAmazonで¥978の破格で入手し、一気に完読した。

長谷川芳典先生(岡山大学)のレビューによれば

この本は本明寛氏によって翻訳され、『楽しく見事に年齢をとる法:いまから準備する自己充実プログラム』(1984年、ダイヤモンド社)として刊行された。但し出版元のホームページで検索した限りでは、発行中の書籍リストにはもはや含まれていない。

ということで、残念ながら自分にも訳書は見つけられなかった。ただし原書でも、スキナーの他の著作と比べれば内容も英語も容易だから、原典購読の課題図書にはちょうどいいかもしれない。

大学生にはちと先のことすぎてピンとこないかもしれないが、スキナーが指摘するように、老後が始まってから対処するのではなく、あらかじめ準備することが大切である。そろそろ物忘れがめだちはじめた、自分くらいの年ごろにはぴったりだろう。

源流には行動分析学の考えがあるとはいえ、専門用語はほとんどでてこない。みのさんのTV番組なみのアイディアやアドバイスに富んでいる。

まずは否定(denial)から受容(acceptance)へ。

Enjoy Old Age: A Practical GuideEnjoy Old Age: A Practical Guide
B. F. Skinner M. E. Vaughan

W W Norton & Co Inc 1997-08
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タイトル買いして読み始めたら、知らなかったことだらけで正直驚いた。

専門書以外の趣味本は定食屋で夕飯食べながら読むことが多いんだけど、焼き魚つつきながら月経血のコントロールの具体的な方法を読むのは辛かった(^^;;)。

性に関する情報ってそれについて話したり書いたりする行動に社会的な弱化の随伴性があるせいか、どうしても頻度が低くなるし、不正確なタクトや迷信行動的に強化されているタクトも多いはず。

著者の価値観には共感しなかったけど、事実の部分にはさらなる興味を持ちました。

男女共、読むなら覚悟を決めて読みましょう。

オニババ化する女たち 女性の身体性を取り戻すオニババ化する女たち 女性の身体性を取り戻す
三砂 ちづる

光文社 2004-09-18
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いい本がでました。

今年度はサマースクールのための教科書を執筆する予定だったのですが、これならその必要もなさそうです。

この本では応用行動分析を学校で先生たちがうまく指導できているときの延長と捉え、日頃の指導を整理して体系的に見直すだけでも、子どもが変わり、先生が変わり、親が変わる!と提案してます。

・障害種別や発達検査のスコアだけではなく、一人ひとりの子どもに向き合って、ポジティブな指導計画を立て、実行する考え方。
・通常学級に在籍する軽度発達障害児が直面することの多い課題への、いくつもの具体的な指導の手だて。
・ハウツーだけではなく、ABC分析など、どうしてその指導方法が有効か?(あるいは有効ではないのか)を考えるための方法。

などがとても読みやすく書かれています。

特別支援教育に関わる先生だけではなく、すべての教師に読んでいただきたいと思う本です。

応用行動分析で特別支援教育が変わる―子どもへの指導方略を見つける方程式応用行動分析で特別支援教育が変わる―子どもへの指導方略を見つける方程式
山本 淳一 池田 聡子

図書文化社 2005-11
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ノースカロライナ州大学TEACCH部のスタッフによる、主に診断やアセスメントについてまとめられた本である。後半には指導や支援のアイディアも書かれている。

アスペルガーや高機能自閉症関係のハウツー本を何冊か読んで、「でも、なんでこういうやり方が必要なんだろう?」と疑問に思ったら、本書を読んでみるといいと思う。

TEACCHによる自閉症という障害の捉え方と、その支援システムとしての構造化のアイディアの関係がわかりやすく書かれている本です。

アスペルガー症候群と高機能自閉症―その基礎的理解のためにアスペルガー症候群と高機能自閉症―その基礎的理解のために
ゲーリー メジホフ リン アダムス ビクトリア シェア

エンパワメント研究所 2003-09
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最近、幼稚園や保育所で働いている知り合いから“ちょっと気になる子どもたち”の相談を受けることが多くなってきた。

障害の種類に関わらず、二次障害のリスクを減らすためには早期発見・早期対処が原則である。しかも自閉症に関しては、就学前の早期集中的療育が有効であることが数々の研究からわかっている。

そこで、保育士さんたちが読めて使えるような本を探しているのだが、不思議なことにあまり見あたらない。

この本は、ADHD、LD、HFPDD、軽度MRについて、障害を持った幼児が示すことの多い行動的特徴をわかりやすく解説している。おそらく、「あの子はなんであんなふうなんだろう?」と疑問に思っていた人も、「もしかしたらこういう障害のせいなのかしら」と、障害を認識できるようになるには役立つと思う。

ただ、その後の療育方法に関しては手薄という印象を受ける。自閉症児への早期集中的療育の有効性についても触れられていないことが“ちょっと気になる”。

ADHD、LD、HFPDD、軽度MR児保健指導マニュアル―ちょっと気になる子どもたちへの贈りものADHD、LD、HFPDD、軽度MR児保健指導マニュアル―ちょっと気になる子どもたちへの贈りもの
小枝 達也 杉山 登志郎 原 仁

診断と治療社 2002-07
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keizaisihyo

『新版 経済指標を読みこなす』朝日新聞経済部 (編集) 講談社現代新書 (1993/07)

先頃実施された国勢調査に関しては、その手続きや利用価値に関する疑問や批判が全国あちこちでわきあがった。

政府は国勢調査以外にも莫大な予算を投じてさまざまな統計をとっている。しかしながら、時代のニーズにあっていなかったり、重複が多かったり、効率が悪かったりと、大幅な見直しを求められているところである。

この本では政府が統計をとり公表しているさまざまな経済指標について、その意味(捉え方)や問題点を解説している。ただ、「新版」とはいえ、すでに10年前に出版された本なので、データは古く、改訂を期待する。

講談社現代新書からは この他にも『金融指標を読みこなす』という本がでているのだが、ぜひ『教育指標を読みこなす』とか『行動指標を読みこなす』なんて本も出してほしいな。

「最強のファイナンス理論」とは、“ノーベル経済学賞に輝いた理論を生みの親とする新しい経済理論であり”(p.3)、その正体は、“心理学の知識を使って、金融市場の動向を解析しようとする”『行動ファイナンス理論』だ!というところを立ち読みして即購入。

もしかして坂上貴之先生(慶応義塾大学)が研究している「行動経済学」のこと?と思って飛びついたのだが、ここでいう「心理学の知識」とは、主に認知心理学の知見だった。

初頭効果、親近効果、プライミング効果、アンカーリングなど、十年以上前に学生時代に勉強した昔ナツカシの概念で投資家の行動にあてはめて解釈するのが中心。

こういうのは一つひとつの現象は確かに面白くて、50へぇ〜以上が連続するんだけど、じゃぁどうして人はそういう意思決定や選択の誤りを犯してしまうのか?という問いにはうまく答えていないような気がする。

「だってそういうスキーマがあるんだから」じゃ答えになってないと思うんだけど。

たとえば.... は今度時間があるときに。

本書の巻末に坂上先生・広田すみれ先生らの共著『 心理学が描くリスクの世界—行動的意思決定入門』が紹介されていたので、Amazonで注文。どちらも大学院の先輩です。

最強のファイナンス理論―心理学が解くマーケットの謎最強のファイナンス理論―心理学が解くマーケットの謎
真壁 昭夫

講談社 2003-02
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hokkyodai-kiyo

北海道教育大学旭川校・特殊教育特別専攻科(情緒障害教育専攻)の研究紀要。

主に卒業生や修了生でつくる北海道教育大学情緒障害教育学会の研究誌でもあり、近隣の学校で行われた事例研究がふんだんに掲載されている。

TEACCH の構造化の考え方や応用行動分析学を取り入れた事例も多く、特に学校の先生たちには参考になると思う。

詳しくはこちらから。

学校教育の質を継続的に向上させていくためには、このように、教師が研究にもとづいた実践を続けていけるような構造が欠かせない。大学や大学院を卒業・修了後の支援こそ、教員養成系の学部や大学院が力を入れるべきところではないだろうか。

「卒業生の教員就職率」と「大学院生の定員充足率」の2つのみに評価の重点が置かれている近視的な現状の改善が望まれる。

何年か前に話題になった本。

「すべての富のうち6人が59%をもっていてみんなアメリカ合衆国の人です」など、50へぇ〜くらいの豆知識情報本だが、世界を測るいくつかの指標をプレゼンしている本としてとらえたら面白い。

「○○党のマニフェストにはこれからの日本の在り方が見えてこない」とか「○○総理にはビジョンがない」といった批判があるが、社会のビジョンとか“在り方”を表現する方法はなかなか難しい。お題目になってしまっては意味がないしね。

たとえば、日本の現在と未来の姿を、この本で取り上げられている指標や、もっと重要だと思われる他の指標を使って記述してみたら、とてもわかりやすいプレゼンになるのでは?

国だけじゃなくて、○○大学や(株)○○産業のような各種組織の理念を具体的にイメージするのにも使えるかもよ。

世界がもし100人の村だったら世界がもし100人の村だったら
池田 香代子 C.ダグラス・ラミス

マガジンハウス 2001-12
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のび太が自閉症?という流言の元かもしれないと思って読んでみたのが、このシリーズの第4弾−−『のび太・ジャイアン症候群4 ADHDとアスペルガー症候群—この誤解多き子どもたちをどう救うか』司馬 理英子・加藤 醇子・千谷 史子【著】主婦の友社。

ところが、のび太をアスペルガー症候群として書いてあるのはたった一箇所。なんだこれ?(←怒り半分、あきれ半分)。

仕方ない。乗りかかった船だ。シリーズの1から3も読んでみた。

のび太・ジャイアン症候群4 ADHDとアスペルガー症候群―この誤解多き子どもたちをどう救うかのび太・ジャイアン症候群4 ADHDとアスペルガー症候群―この誤解多き子どもたちをどう救うか
司馬 理英子 加藤 醇子 千谷 史子

主婦の友社 2003-08-31
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待望の新書判『行動分析学入門』登場!

望月昭先生(立命館大学)が評するように、まさに“1日で読める行動分析学の基礎テキスト”としてお奨めの一冊。

一つだけ気になったこと。

副題のとおり、本書では行動随伴性の考え方を“ヒトの行動の思いがけない理由”として紹介している。

たとえば、メガネをかけるのは目が悪いからではなくで、メガネをかければよく見えるから(強化されるから)というように。

それを説明するのに次のような図を使っているのだが、これが初学者にとって誤解の元にならなければいいなぁと、少々心配している。

行動分析学入門―ヒトの行動の思いがけない理由行動分析学入門―ヒトの行動の思いがけない理由
杉山 尚子

集英社 2005-09
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通常学級に在籍する軽度発達障害児への支援に学校をあげて取り組んだ東京都文京区駒本小学校の研究報告書。

校内委員会をいかに機能させるか、そして個々の子どもたちをいかに支援するか、チェックリストや指導内容(教育課程)、指導方法など、先生たちがすぐに使えそうなツールが満載で、これから同じような取り組みにチャレンジしようとしている小学校には重宝しそうな本である。

学校という組織には、学校教育という文化のせいなのか、なんでもかんでも自分たちで一からやろうとする悪癖があるような気がする。うまくいっているところの真似から始めて、自分たちの学校にあうように改良していった方が早道なのに...と思うことが多い(ボソっ)。

ハリケーン「カトリーナ」の爪痕が消えないうちに、「リタ」がテキサス州に接近中。約200万人が避難しつつあり、渋滞した高速道路で事故も起きているようだ。

本書では、被災した人の心理状況や回復までのプロセス、避難行動を引き起こす要因や妨げる要因、パニックに関して誤解されていることなどが、災害心理学の立場からわかりやすく解説されている。

昨年末のインドネシア・スマトラ沖地震においては、日本の津波予報システムの優秀さが強調されていたが、本書によれば、津波予報が報じられても避難行動が自発されないことも多く、それが必要以上の被害につながることが指摘されている。

「日本ならあんなことにはならない」というのは神話であるということがよくわかる。

台風接近中に海を見に行って高波にさらわれたり、屋根を補強しようとして墜落したり、“危険を過小評価しがち”という事例は確かに身の回りにいくらでもみつかる。

人はなぜ逃げおくれるのか―災害の心理学人はなぜ逃げおくれるのか―災害の心理学
広瀬 弘忠

集英社 2004-01
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先の日本行動分析学会で行われたシンポジウムで紹介されていた本を読んでみた。

環境犯罪学とは

特定地域である種の犯罪が多いとすればそれはなぜか。逆にそれがわかれば、犯罪を予防しうる新たな社会的・文化的環境を作ることも可能ではないか(p.4)。

という考え方からスタートした学問だそうだ。

本書では、ルーティン・アクティビティ・セオリーという理論を中心に紹介しているが、その考え方は、とても行動分析学的である。

犯罪という行動の原因を犯罪者の「心理」に求めるのではなく、犯罪行為を抑制・促進する環境要因を探し、実際にそれを操作して、犯罪件数の増減を確かめるのだ。

たとえば、バス停での窃盗・暴行を減らすために待合室を外から見えるように改装したり、公園での犯罪を減らすために、周囲を運行する市営バスが公園の近くでスピードダウンする道路上のコブを作ったり、路上強盗の加害者が逃走しにくいように一方通行を増やしたりするのだ。

こうすれば犯罪は防げる 環境犯罪学入門こうすれば犯罪は防げる 環境犯罪学入門
谷岡 一郎

新潮社 2004-03-17
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pm_jpa

修論執筆のマニュアルとして、うちのゼミでは日本心理学会の『執筆・投稿の手びき』を使っている。

このたび改訂版が出版された。

皆のぶんを注文するように大西さんにお願いしたら、日本心理学会のHPからダウンロードできることを発見してくれた。

ちょっとわかりにくいところにあるんで、すぐには見つからないかも(「"執筆・投稿の手びき"をご覧になるみなさまへ」→「 詳細はこちらをご覧ください。」→Wordの文章ファイルがダウンロードされ、そこにPDFへのリンクがついている)。

よく見つけました! すばらしい!! (大西さんに拍手)

500円+送料で販売もするようだけど、郵送やら振込み確認など、事務の手間を考えたら無料でPDFを配る方が損得勘定でプラスになるかそれほど大きなマイナスにならないってことだろう。

いい判断です! すばらしい!! (日本心理学会の賢い判断に拍手)

ベストセラーを読んでみた。

「た~けや~ さおだけ」の掛け声はさすがに最近は聞いたことがないが(徳島だからかな?)、この本ではさおだけ屋以外にも、著者の自宅の近所にあるという、客の入っていそうにない“高級レストラン”がなぜ潰れないかなど、身近な問題を取り上げながら、会計学をとてもわかりやすく解説している。

会計の教科書には必須のはずのバランスシートや損益計算書などの書き方や読み方はでてこない。もちろん、こうした決算書についての解説はあるのだが、むしろ、会計の数字や概念の持つ意味や解釈の仕方、考え方の理解に重点を置いている。とても読みやすく、理解しやすい。

著者によれば、優秀な経営者がやっている分析の極意は、「ある特定の数字を定期的におさえること」(p.197)であるそうな。

これは行動分析学的にも納得がいくし、教育とも共通点があるところだと、納得。

組織行動マネジメントの勉強をしたい学生さんなどで、心理学以外にも経営や会計に関する知識を習得しておきたい人にはかなりオススメ。

さおだけ屋はなぜ潰れないのか? 身近な疑問からはじめる会計学さおだけ屋はなぜ潰れないのか? 身近な疑問からはじめる会計学
山田 真哉

光文社 2005-02-16
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いい本が出ました。日本全国で、わけもわからず、心理テスト(質問紙など)の卒論なんかをしている(させらている?)心理学専攻の学生さん、わけもわからず、臨床心理の授業で心理テストの講義を受けているカウンセラー志望の院生さんたちには必読。

「血液型と性格には何の関係もない」これはまっとうな心理学者なら誰にでも言えること。この本では前振りに過ぎません。

すごいのは、ロールシャッハ、YG、クレペリンと、ほんとうは過去の遺産なのに、なぜか日本ではいまだにまかり通っているテストのウソを真っ正面から暴いているところ。しかも、“世の中に害毒を流している”研究者や臨床家を名指しで明快に批判している。

岡山大学の長谷川先生とか、元千葉大学の柏木先生とか、個人的に知っている先生も登場することもあって、ゲラゲラ笑いながら一気に完読。

超おすすめです。

「心理テスト」はウソでした。 受けたみんなが馬鹿を見た「心理テスト」はウソでした。 受けたみんなが馬鹿を見た
村上 宣寛

日経BP社 2005-03-30
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“しごき”の記事で紹介した本がこれ。

関西学院大学のアメフトチーム FIGHTERS の監督をされていた武田先生が、行動的なコーチング技法をわかりやすく解説している。

アメフトの課題分析やフォームのイラストもあれば、多層ベースライン法を使った研究のデータ(グラフ)まで掲載されている。

応用行動分析というよりは、“行動療法”的な技法の紹介が多いものの、日本にまだまだはびこっていると思われる、精神論的、権威的なコーチングスタイルの代替案として、ぜひ、すべてのスポーツ指導者に一読していただきたい本である。

ちなみに、学生にも人気があって、貸し出すと返ってこない本のランキングのトップに見事輝いている。今、研究室にあるのは、たぶん4冊め(もう貸さない)。

コーチング―人を育てる心理学コーチング―人を育てる心理学
武田 建

誠信書房 1985-09
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musicteachers

『音楽教師のための行動分析−教師が変われば子どもが変わる』 吉富 功修・野波 健彦 ・竹井 成美・緒方 満・石井 信生・木村 次宏・藤川 恵子【著】1999 北大路書房

グリーア先生の『音楽学習の設計—授業の成立のために』を翻訳された先生方が執筆されたオリジナル本。

行動分析学の用語や概念に関する解説の章もあって、初学者にもわかりやすい作りになっている。

著者の先生方が日本の小中高等学校で実践的に研究された事例も紹介されている。まずは授業を成立させるためにトークンシステムと導入するなど、音楽の授業を担当されている先生たちの現実的な問題解決に役立ちそうな情報だ。

ただし残念ながら“芸術性”とか“美的価値”に関する考察はほとんど見あたらない。

音楽とか美術を専門にしている人で、行動分析学にも詳しい人に、ぜひこのへんの研究や教育実践について話を聞いてみたい。

どなたかご存知ないですか?

音楽教師のための行動分析―教師が変われば子どもが変わる音楽教師のための行動分析―教師が変われば子どもが変わる
吉富 功修 野波 健彦 竹井 成美

北大路書房 1999-03
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greer

『音楽学習の設計—授業の成立のために』 R.ダグラス グリーア【著】 石井 信生・吉富 功修・弘中 知世子・野波 健彦・木村 次宏・藤本 和恵【翻訳】 音楽之友社 1990

グリーア(Greer)先生はコロンビア大学の教育学部の先生で、ケラースクールなど、自閉症児のための学校システム(CABAS)を開発した行動分析家として知られている。

実はグリーア先生は音楽教育にも造形が深く、音楽の個別化教授システム(PSI)を開発した人でもある。

本書は、音楽教育に行動分析学をどうやって活用できるかを解説した本。理論的な話から実践的な話まで幅広くカバーしている。行動分析学の翻訳本としては老舗で、『行動分析学入門』が世に出るはるか昔から書店に並んでいた本だ。

ただし、初学者向けではない。音楽教育と行動分析学の両方に詳しくないと、読んでもチンプンカンプンかもしれない。

たとえば、第8章では、音楽の芸術性、美的価値、情動的行動をどのように捉え、どうすれば指導プログラムに組み込めるかを、教育哲学的な考えと比較しながら論じている。

行動分析学というと、何でもかんでも客観的に測定しようとするから、どうぜ音楽と言っても、楽器を弾くスキルのような、技術的な行動にしか目を向けないんでしょ? と誤解している人も多いと思う。

もちろん、そんなことはない。

・“心を揺さぶられるような感動”を体験するとは、いったいどういうことなのか?
・そういう体験を味わうために必要な下位行動にはどんなものがあるのか?

そういう分析だってできるし、すべきである!と、この本には書いてある。難解だけど...

興味がある人はぜひチャレンジしていただきたい。

音楽学習の設計―授業の成立のために音楽学習の設計―授業の成立のために
R.ダグラス グリーア 石井 信生 吉富 功修

音楽之友社 1990-01
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西南女学院大学のごまひげ船長こと服巻繁先生との共著がでました。

とにかく行動随伴性ダイアグラムがいっぱいの本です。PBS(問題行動に対するポジティブなアプローチ)や、TEACCHの構造化、PTSDの治療、糖尿病患者の自己管理に至るまで、ダイグラムで分析しています。

行動分析学の初学者が、対人支援のプロジェクトをしながら、記録の取り方、グラフの書き方・読み方、ABC分析の仕方などを学んで行く授業で使いやすいように作った本です。


個人的にはごまひげ先生の絵心に感動。

haramaki-illust
対人支援の行動分析学―看護・福祉職をめざす人のABA入門対人支援の行動分析学―看護・福祉職をめざす人のABA入門
服巻 繁 島宗 理

西日本法規出版 2005-05
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autism_bperspective

Autism: Behavior Analytic Perspectives. P. M. Ghezzi, W. L. Williams, & J. E. Carr (Eds.) 1999. Reno, NV: Context Press.

ひとつ前の記事で、Journal of Applied Behavior Analysis には自閉症児の知覚・感覚過敏性の問題を直接に扱った研究は見当たらないと書いた。これは、行動分析家がこの問題に無頓着という意味ではない。

この本は、自閉症と自閉症にまつわる諸問題を、何人かの行動分析家が、それぞれの研究や臨床経験から論じた本。自閉症の原因に関する分析もあり、そこでは知覚や感覚の過敏性が大きく取り上げられている(ABAで買ってきて飛行機の中で半分くらい読んだだけだが)。

過敏性は神経生理学的な障害の問題とする人もいれば、学習によって生じる可能性を否定しない人もいる。

このへん日本語でまとめた展望論文があるといいんだけどなぁ... ないのかな?

駒澤大学の小野先生の書き下ろし(?)作品。行動分析学の基礎領域全体がバランスよくまとめられている。

言語行動の章では刺激等価性についても解説されていて、人間の高次の認知活動を行動分析学の基礎概念で分析するのに役立つ。

タイトルにあるように、人間を豊かに理解するための、基礎と応用の橋渡し的な教科書として最適ではないだろうか。

「罰」が「弱化」になっているところも◎。

「正の強化/負の強化」を残したのは、小野先生曰く、

負の強化、負の弱化あたりはどうするのがよいか、結構考えたところです。 結局、論理的な統一性をもたせるのが、最良なのかな、との判断です(私信)。

とのこと。

確かに論理性は一貫するですよね。こうすれば。

でも「負の弱化」と聞いて、行動が増えるか減るか一瞬で判断するのは、「負の強化」以上に難しそうな気がする(正解は「減る」)。

ルール支配行動や迷信行動、社会的行動のように、人間らしい行動の実験的行動分析の専門家である小野先生らしく、このあたりの章はとても読みやすく、わかりやすい。

初心者向けの本を何冊か読んだ後、さらに行動分析学に興味を持った人にぜひ奨めたい本です。

行動の基礎―豊かな人間理解のために行動の基礎―豊かな人間理解のために
小野 浩一

培風館 2005-05
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20050520-jasen-cover-s

日本支援教育実践学会が刊行した特別支援教育の"ハンドアウト"---というより、ここまでくると立派な教科書ですね。

ここから郵便で冊子を購入することもできれば、ここからPDFをダウンロードすることもできます(PDF版はナンと無料!)。

京都市西総合養護学校の朝野浩校長先生兵庫教育大学の成田滋先生の監修。

ブログのネタが連続しますが....

この自然と人間を行動分析学で科学するには毎週1000件以上のアクセスがある。

当然ながら眞鍋かをりのここだけの話とか室井佑月blogにはかなうべくもない(競争するわけじゃないけど)。

知人や匿名の読者から「内容が難しすぎる」とか「専門用語がたくさんあって分かりにくい」という苦情をもらうこともある。「いいんだよ、わかるヤツにわかりゃ」なんて開き直るのは簡単だけど、その前に、少しは工夫しようと思っている。

この本にはblogで使えるいろいろなサービスが紹介されている。画面右上のBlog Meterも、何回か取り上げたWikipediaも、この本で見つけたものだ。趣味のブログでは携帯の位置情報つき画像転送も試してみた。

他にも、注意を引きつけるタイトルの付け方とか、コンテンツ作成のノウハウにも触れている。

これからブログを作ってみようという人、自分のブログに味付けをしたい人にはオススメの一冊。

タイトルが気になって読んでみた。

この本の前半にかなり詳細に解説されているように、日本では「ブログ」が導入される前からネットで日記を書くシステムがかなり浸透していた。自分もNiftyのサービスを使って「庭球日記」なるものを作っていたことがある。

ネットで日記を書くという行動レパートリーとその行動にまつわる随伴性(「自己表現」や「他者とのコミュニケーション」など)の下地はすでに存在したと言える。

それでも「ブログ」の普及のスピードはただごとではない。ホリエモンで有名になったlivedoorなどが無料サービスを提供していることもあって、実に多くの人がネットで日記のようなものを書いて公開している。

その実数の正確な把握はとても難しい。参考までに、本書にも紹介されているBlog's Blogによれば、livedoorだけで513,648件のブログが登録されている(2005.5.8)。

“閉じたブログ”とも言える、ソーシャルネットワークシステム(SNS)の一つであるミクシィの会員数は2005年1月で30万人(p.128)。ちなみにミクシィには「行動分析学」というコミュニティもあるのだが、この会員が本日の時点で624人もいたりする。

「なぜ人はブログを書き続けるのか?」

本書の中核はここにある。でも、その分析は、自分の考えの確認とか、自己表現の欲求充足とか、他人とのコミュニケーションなど、直感的に推測できる範囲を超えたものではない。日記型やデータベース型のように、ブログのタイプを類型化しているのも、なるほどとは思うが想定範囲内。

もちろん、しっかりした調査と統計的分析を踏まえての解釈だから、そういう意味では、直感を裏付ける実証的な研究をまとめた本として評価できる。

自分には、たとえば、ネット上の日記というメディア(オペランダム)が利用可能になったことで、日記を書く行動自体が増えていることや(紙メディアでは書いていなかった人も書いているように思える)、コメントやトラックバックの仕組みを使っているブログとそうでないブログとでの執筆スタイルや頻度の差とかに興味があったりするのだが、そういうデータや分析はなかったなぁ。

ウェブログの心理学ウェブログの心理学
山下 清美 川上 善郎 川浦 康至

NTT出版 2005-03
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sasakimasami-IT

『自閉症児の学習指導-脳機能の統合訓練をめざして-』佐々木正美【著】学習研究社

TEACCHの世界では伝道者とさえ呼ばれることがある佐々木正美先生の昔の本を読んだ。まだ日本にTEACCHが紹介される前に書かれた本のようで、内容はタイトル通り、感覚統合の考え方を活かした自閉症児の指導方法について。

特にNYにある「リーグ・スクール」という自閉症児のための学校に感銘を受けたらしく、かなりのページ数を割いて、そのプログラムを紹介されている。また、導入部では、自閉症が保護者の不適切な養育によって生じるということが全くの誤解であること、そして、精神分析的な(受容中心の)セラピーがまったく効果を持たないことがわかりやすく書かれている。

「リーグ・スクール」という学校に興味を持ったので、少し調べてみた。 この本に紹介されているプログラムは、感覚統合的というよりは、通常の行動分析学的なものだったからだ。

学校のHPはたぶんこれだが、ここにはほとんどコンテンツがない。この学校を紹介している記事を一つだけ見つけた。

NYの行動分析家で Behaviorspeak: A Glossary of Terms in Applied Behavior Analysis の著者の、Bobby Newman は、あるメーリングリストでこんな発言をしていた。

The League School, if it is the same place, is an eclectic place for all developmental disabilities. simple ham and eggs. nothing fancy. they wouldn't know research if it attacked them.

つまり、いいところどりの折衷的な学校だが、とかく先進的というわけではない、ということだ。

これを見つけて知らせてくれた、元ケラースクール校長のジャネットは次のようにコメントした。

there are 1001 programs for children with autism in the NY area, and 999 of them say they are behavioral.

佐々木先生を感銘させたような学校は、NYではすでに標準的になっている。それだけ行動的指導方法が普及しているということだろう。日本の実情からすれば羨ましいことなんだと思う。

副題にあるように、学習や教育にまつわる様々な事象を認知心理学から分析している。認知心理学者がインストラクショナルデザインを語るとこうなるんだろうなぁという一冊。

子ネズミの誕生日にいろいろな動物が集まったという絵を見せて、それぞれの動物の「仲間あつめ」をさせ、ハトは何羽と聞くと、実際には、地上に三羽、樹の上に一羽止まっているのに、「三羽」と答える子どもがいるとか(p.22〜)、ソロバンの上級者はソロバンを動かさなくても頭の中のイメージだけで計算できるとか(p.120〜)、ひとつ一つの事象はとても面白く、その解釈も理路整然としていて納得のいくものが多い。

ただ、最後まで読んで「なるほど、わかった!」という感じがもてない。(自分だけだろうか...)

さまざまな事象が、シュリンガーが発達心理学界について指摘しているような「ミニ理論」で説明されているために、それこそ包括的な意味ネットワークみたいのが形成されないんじゃないだろうか。

行動分析学の場合には、理論的な体系の節約性が高すぎて、総括的な理解は進みやすいと思う。だけど、上のような例も、刺激性制御の問題とか、行動の自動化の問題とか、わりと簡単に片づけてしまいがちなところが、なんとなく物足りなさを感じさせるのかもしれない。

勉強力をつける―認識心理学からの発想勉強力をつける―認識心理学からの発想
梶田 正巳

筑摩書房 1998-07
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新聞で見つけた速読法の本が届いたのでさっそくやってみた。

現在の読書速度(ベースライン)を測定する「四月一日の魔法」課題(p. 54-55)では、2124文字/分で「A+」の評価。B〜Cが一般的だそうだから、かなりの高成績(笑)。

ところがランダムに配置された数字の羅列からある数字を探して行く「数字ブロックパターンシート」など、課題が単純になると、とたんにパフォーマンスが低下。「よこ一行ユニットブロック」では「おじいさんは山へ芝刈りに行きません」にひっかかり過ぎて大笑いしてしまった(自分が選んだ文章を各ブロックから見つけて行く課題)。

dokudokukadai

アイディアは面白いし、練習すれば確かに個々の課題のパフォーマンスは向上するだろうけど、単純な練習をそこまで忍耐強く続けられるかどうか、そして個々のパフォーマンスが向上することでほんとうにいろいろな文章を読むスピードが上がるのかどうかがやはり疑問である。

高い月謝を払い込んでしまえば元を取らないともったいないという確立操作が作用する。だから有料セミナーに参加するのであれば、前者についてはある程度解決できる問題かもしれない。後者に関しては、どんなに「認知視野を拡大し」「文字の並列処理」ができるようになっても、たとえば文章中の専門用語から「イメージ」がわかなければ理解できない。だから、おそらく速読訓練の効果が現れるのは、文章に使われている語彙が既知であるものなどに限定されるのではないだろうか。

いずれにしても、この「速読」に関しては、卒論や修論のトピックになりそうなオモシロ課題がたくさん見つかりそうだ。少し文献でも調査してみよう。

<目と脳がフル回転>速読らくらくエクササイズ<目と脳がフル回転>速読らくらくエクササイズ
松田 真澄

日本実業出版社 2004-12-09
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だめ犬しつけ王選手権を観て、なんとなく気になって読み返した。

ペットのしつけのハウツー本ではなく、ハウツーの原理である行動の科学をわかりやすく解説した本だ。

動物のしつけの90%はオペラントだろうって自分なんかだと思ってしまうところだが、まずレスポンデントの解説から始まり、すべてをできるだけレスポンデントででも説明しようとする姿勢を最後まで維持しているところに中島先生らしさがでている。

たとえば、パブロフの以下のような実験が紹介されている。

パブロフらは、円と楕円の区別を、古典的条件づけの分化条件づけ手続きで犬に訓練しました。犬がこの2つの手続きを区別できるようになったら、楕円を少し円に近くして、訓練を継続します。これができるようになったら、楕円をさらに円に近づけます。この訓練を繰り返し、円と区別できないところまで楕円を円形にしていったところ、急に犬は吠えたり暴れたりし始め、初めに学習できていた2つの刺激の区別もできなくなりました(p. 48)。

オペラントで課題が難しくなって強化率が低下すれば逃避行動や攻撃行動が自発されやすくなることはよく知られているが、レスポンデントでも同様の現象が起こるとは知らなかった。

勉強になります。

アニマルラーニング―動物のしつけと訓練の科学アニマルラーニング―動物のしつけと訓練の科学
中島 定彦

ナカニシヤ出版 2002-05
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これまで心理学とか社会学など、いわゆる人文科学が扱ってきた「人の心」を生物学的視点から分析しようという切り口がとても新鮮で興味深い一冊。

文章が読みやすく、論理展開も分かりやすいのが嬉しい。著者が後書きで述べているように、専門家は一般読者にやさしく、かつ啓蒙的な本をしっかり書くべきだと私も思う(見習わないとね....)。

行動分析学は生物学的心理学であるとも言える。行動に及ぼす個体発生的な要因と系統発生的な要因を両方を認識し、さらに両者の相互作用の可能性にまで言及するからだ。

ただ、その方法論に関してはまだまだ理論的な分析の域をでておらず、本書で紹介されているいくつかの実験やデータは、とても参考になると思う。

ちょっと残念なのは、前半の生物学的な分析と後半の社会心理学的な研究(これはこれでとても面白いのだけれど)をつなぐ理論というか論拠が、著者が前半で主張しているほどにははっきりしていないこと。

学問的にもこれからの課題なんだろうが、系統発生的にヒトにはどんな「約束」が組み込まれていて、それが我々の日常行動にどのように影響しているのかが、もっとはっきり示されるデータがすでにあるのかと、タイトルからも期待してしまったからか、物足りなさ感が少し残った。

最後に「研究法」の章があり、研究のロジックがわかりやすく解説されている点も異色。教科書として使うことを想定しているのだと思う。下手すると、こういうのを本の最初に持ってきちゃったりするわけだけど、よく工夫してある。

お奨めです。

約束するサル―進化からみた人の心約束するサル―進化からみた人の心
小田 亮

柏書房 2002-09
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marvinharis

マーヴィン・ハリス 【著】 御堂岡 潔【訳】 東京創元社

大学院の授業で課題図書だった文化人類学者のマーヴィン・ハリスの本を日本語で読み直した。

ハリスは文化唯物論を打ち立てた人で、たとえばイスラム教徒が豚を食べることをタブーとしている理由を、単に“宗教”や“文化”や“精神的な”活動として片づけず、どうしてそのような行動様式が生まれ、維持されてきたのかを、物質的な事情から分析した。

文化的行動の背景にはそれなりの理由がある。それは、主に、その共同体や人々の存続に関わる、物質的、経済的な事情であるというハリスの主張やデータは、行動分析学の考え方と相性がいい。彼の理論と行動分析学を比較・対照する論文もあるくらいだ。

紹介したハードカバーの本は入手が難しいかもしれないが、新書版もあるようなので(『食と文化の謎』岩波現代文庫など) 、興味のある人はどうぞ(私は新書版は読んでません)。

関連する行動分析学の論文にはこんなものがあります。

Glenn, S. S. (1988) Contingencies and Metacontingencies: Toward a Synthesis of Behavior Analysis and Cultural Materialism. The Behavior Analyst,11(2), 161-179.

Malott, R. W. (1988) Rule-Governed Behavior and Behavioral Anthropology. The Behavior Analyst,11(2), 181-203.

Malagodi, E.F. and Jackson, K. (1989) Behavior Analysts and Cultural Analysis: Troubles and Issues. The Behavior Analyst,12(1), 17-33.

文化の謎を解く―牛・豚・戦争・魔女文化の謎を解く―牛・豚・戦争・魔女
マーヴィン ハリス 御堂岡 潔

東京創元社 1988-06
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映画『羊たちの沈黙』や海外ドラマ『Xファイル』などに登場するFBI捜査官たち----アカデミーで学んだ“行動科学”を駆使して、犯人の割り出しにプロファイリングという手法を使うという。

映画やドラマの世界だから現実離れしているはずだし、誤解・歪曲も多いはず。でも、先進国では犯罪者の捜査に“行動科学”の手法が取り入れられていることは事実らしい。

本書は「科学警察研究所犯罪行動科学部」という、日本の警察にもそんな部署があったのだ!という機関に所属する研究者たちが書き上げた、捜査心理学に関する概論書。

捜査心理学における“行動科学”とは、主に心理学を中心に、犯人の行動パターンを分析したり(数量化など、統計的な手法を使う)、容疑者や証人への尋問におけるテクニックを開発したり(認知心理学の「目撃者証言」に関する知見なども引用されている)することのようだ。

本書の後半では、ばらばら殺人や連続放火、年少者わいせつ犯罪など、犯罪の類型ごとの詳細な分析も紹介されていて、誠に興味深い。いずれの場合も、基本となるのは犯罪者の過去の行動記録であり、複数の行動間の関係を主に統計的に見つけていくことが主眼である。

現時点では行動分析学の知見は活用されていないようだが、複数の行動間の関係をもうすこしロジカルに見ていくのに、行動分析学のアイディアを取り入れても面白いのではないかと思った(たとえば、犯罪行動や犯罪未遂行動、犯罪につながる前段階の行動などを動機付け、強化している背景要因などを整理するなど)。

ちなみに、ドイツ語では“行動科学”による分析のことを「行動分析(behavior analysis)」と呼んでいるらしいが、行動分析学とは無関係のようである。

捜査心理学捜査心理学
渡辺 昭一

北大路書房 2004-03
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コミュニケーションとか社会性の障害はおそらく自閉症の主因ではないだろうと疑っている。これらはもっと根本的な障害からくる二次的な、言ってみれば学習性の障害ではないだろうか?

それでは一次的な障害は何かというと、何らかの脳の機能的障害による感覚過敏とワーキングメモリの障害ではないだろうか(「と」の部分は“and/or”)。

それで感覚過敏に関する研究を調べようと思って、まずはこの本を読んでみた。

アスペルガー症候群といわれる障害を持つ人たちの「感覚過敏性」とはどういうものなのか、どのようにアセスメントできるのか、どのように対処できるのかが、わかりやすく書かれた、教師や保護者向けのガイドブックである。

残念ながら、期待していたような、脳科学や神経生理学的研究の引用などはなく、対処法もhow-toの寄せ集め的な印象が強い。だから役に立たないということはもちろんなくて、「どうしてこの子はいつも同じ服ばかり着るんだろう」とか「食べ物の好き嫌いが激しすぎる」など、感覚過敏性の問題で指導に窮している先生方や親御さんには参考になると思う。

どうやら著者は日本でもかつて一世を風靡した「感覚統合」の専門家らしく、本書でもその紹介がされている。ところが、対処法のhow-toを一つ一つ見て行くと、視覚的支援とか構造化とか強化とかトークンとか、「感覚統合」以外の手法がたくさん列挙されている。

たとえば、特定の食べ物を食べない子どもの対処法としては以下の3つがあげられている。

栄養上の支障がない限り、子どもに食べ物を選ばせる

→ 対処法としては、ごくごく常識的なもの。無理強いさせないことで、食事場面で問題行動を学習させないためには、意味があるだろう。

1つずつ違う感覚的特徴をもつ食品を加えながら、新しいものを増やしていく。たとえば、もし子どもがヨーグルトが好きなら、コーンフレークなどのシリアル食品をヨーグルトに加えて、新たな食感を試させる。

→ 行動分析学的に言えば、好子の中に中性子あるいは嫌子をフェイドインしていき、あわよくば価値変容の原理を使って、中性子(好きでも嫌いでもなかったコーンフレーク)を好子にする手法とも考えられる。ただ、この方法でうまくいったという事例はあまり聞いたことがない(むしろ、信じられないくらい丁寧に好きなものを嫌いなものから選り分けて食べるという話の方をよく聞く)。

固く、弾力性のあるゴムのチューブやストローなどを噛ませて歯や歯茎に強い圧迫感を与える(本文中ではリストの2番目に登場する)

→ これが、私のもつ「感覚統合」のイメージに一番近い方法だ。

 自閉症児に対するさまざまな療育方法について数多くの文献を調査し、各種療育方法の効果を検証した、ニューヨーク州保健省のレポートは、感覚統合(Sensory Integration Therapy)は、「効果を示すデータがないため、主な療育方法としては推薦できない」としている(Clinical Practice Guideline: Report of the Recommendations Autism/Pervasive Developmental Disorders. 同省のHPから注文可能)。

 確かに「固く、弾力性のあるゴムのチューブやストローなどを噛ませて歯や歯茎に強い圧迫感を与える」ことで、どうして嫌いな食べ物が食べられるようになるのかよくわからない。

 自閉症の主因の一つではないかと思われる「感覚過敏性」に着目している点は評価できるので、もう少し詳しく調べてみようと思う。

アスペルガー症候群と感覚敏感性への対処法アスペルガー症候群と感覚敏感性への対処法
ブレンダ・スミス マイルズ ナンシー・E. ミラー リサ・A. ロビンズ

東京書籍 2004-03
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mysocialstorybook_s

『マイソーシャルストーリーブック』 キャロル・グレイ他 編著  安達 潤 監訳  / 安達潤・柏木諒 訳 スペクトラム出版社

自閉症児の苦手な社会的文脈や手がかりの理解を高めるのに有効であるとされる「ソーシャルストーリー」。本書はその提案者であるキャロル・グレイが最初に出版した本の日本語訳版である。

ソーシャルストーリーについては、近年、実証的な研究も進められている。反転法や多層ベースライン法を使って効果を検討した研究もある(詳しくはこちらから)。

ただ、こうした研究のほとんどで、「ソーシャルストーリー」をどう使うかといった指導方法についての変数統制が甘く、またベースラインの条件についての記述も少ないので、効果があったとしても(問題行動が減ったり、社会的に望ましい行動が増えたり)、それが何によるものなのかが不明確なケースも多い。また、介入効果を示した事例でも維持や般化は見られないことが多い(ソーシャルストーリーの講習会に参加された方の話では、グレイは「自閉症児は般化が苦手なので期待してはいけない」と説明しているようだ)。

附属養護学校で実践され、成功した事例を聞くと、たとえば注射が嫌いで医者に行こうとするとパニックになるお子さんに、
(1)看護婦さんが「痛くないよ」と言うかもしれないけど、ほんとうは少し痛い。とか、
(2)注射の針が刺さると痛いけど、2秒くらいで痛くなくなる。
など、そのお子さんが、どうしてパニックを起こすのかを理解した上で、その状況を乗り越えるための情報が含まれていることがわかる。

たとえば、(1)は言われたことを文字通りに捉えてしまうこのお子さんの特性に配慮したものだし(「痛くない」と言われているのに痛いからびっくりする)、(2)は見通しがきかないので、痛みがずっと続くのではないかという不安を軽減しているものと思われる。

そして、こういう情報は、一人ひとりのお子さんが、それぞれ苦手とする状況で、何を手がかりにして行動しているのか、また、何を手がかりにできずうまく行動できないのかを、ソーシャルストーリーを作成する先生方がよく理解しないとわからないことである。

つまり、ソーシャルストーリーの導入がうまくいくなら、その最大の理由は、ストーリーを作る過程で、先生たちが子どもの行動をそれまで以上に理解することではないだろうか? おそらく、作成する上で、「あ、この子はこういう勘違いをしていたのだ」とか「そうか、私のこの指示がわかりにくかったのね」のような発見があるのではないだろうか。

逆に、どこかで見つけてきたソーシャルストーリーを、対象とする子どもの行動の分析なくやみくもに取り入れてしまったら、まず成功しないのではないだろうか。

せっかく日本語訳されたグレイの例文集だが、実践に移すときには、そのまま使うのではなく、子どもの行動を分析し、実態に合わせて作成することが欠かせないだろう。

マイソーシャルストーリーブックマイソーシャルストーリーブック
キャロル・グレイ アビー・リー・ホワイト 安達 潤

スペクトラム出版社 2005-01
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昨年、神戸で開催された世界行動療法認知療法学会で、ADHDをもった成人への薬物療法と認知療法に関するワークショップをお手伝いしました。その準備のために読んだ本の1冊です。

医学的な話は難しく、敬遠する人も多いかもしれませんが、ADHDをもった児童・生徒への介入は、薬物療法と行動療法の組み合わせが最も効果的であるというのが、現時点での一般的見解です。

本書では両者についてわかりやすくまとめられていますのでお薦めです。

ADHD―注意欠陥/多動性障害の子への治療と介入ADHD―注意欠陥/多動性障害の子への治療と介入
C.キース コナーズ ジュリエット・L. ジェット C.Keith Conners

金子書房 2004-03
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quill

『社会性とコミュニケーションを育てる自閉症療育』Kathleen Ann Quill【編】安達 潤・笹野 京子 ・内田 彰夫 【訳】松柏社 2004(改訂版第3刷)

木曜に予定されている附属養護学校研究発表会の分科会で助言をするために、このところ、今話題の「ソーシャルストーリー」について勉強している。

「ソーシャルストーリー」とは、自閉症児が社会的な状況を理解できるように、実践家のキャロル・グレイという人が工夫して築き上げた手法で、高機能自閉症児やアスペルガー障害をもった、いわゆる軽度発達障害の子どもたちに、彼らが気づきにくい、あるいは誤解しがちな約束事や習慣、状況などを、紙芝居的に(視覚的に)わかりやすく伝える方法である。

この本の第9章にはグレイが執筆した「社会的状況の「読みとり」を自閉症の子どもたちに教える」が掲載されている。

今回は、電子図書館などを駆使して、ソーシャルストーリーの効果を検討した、実証的な研究を探してみた。少しずつではあるが、ABAB法や多層ベースラインなど、ある程度の実験計画を組んだ研究も発表されている。ただし、効果はあったり、なかったり。とりあえず限定的に効果があると言うべきかもしれない。

日本でも実践家を中心に「ブーム」になっているようだが、大学に勤める研究者の役割は、たとえ「ブーム」であれど、少なくともそれを知っておき、その上で、どんな子どもに、どれだけ有効なのか、あるいはどんな眼界があるのか実証的な研究を進めて、それを実践家と共有していくことだと思う。

そのうち徳島ABA研究会でも情報提供しようと思います。

社会性とコミュニケーションを育てる自閉症療育社会性とコミュニケーションを育てる自閉症療育
Kathleen Ann Quill 安達 潤 笹野 京子

松柏社 1999-09
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AAMR(アメリカ精神遅滞学会)が刊行している人気シリーズ「リサーチから現場へ」の日本語翻訳版、第3段め。

PBS(Positive Behavior Support)の枠組みから、どうすれば個人の生活の質を向上させる行動支援計画が作成できるかを分かりやすく解説している。

個別の教育支援計画や個別移行支援計画を作成するのに読んでおくといい一冊。

表紙の解説からは、この本は応用行動分析の本ではないと誤解を生むかもしれないが、そうではない。ABC分析(機能的分析)を基本にした正真正銘の応用行動分析本である。

表紙からプラス思考的行動支援(PBS)では
問題行動を起こしている子どものことを
彼らの立場からまず理解し
長期的・短期的な指導計画を立案していく。
従来の応用行動分析(ABA)のテキストでは
触れられることの少なかった
ライフスタイルへの指導
危機管理の介入についても
詳細に解説する。

本文中には、たとえば問題行動を減らす手法として、タイムアウトなどの弱化の手続きを使うのが「従来の応用行動分析」、同じ機能を持つ、より社会的に望ましい代替行動の強化を進めるのがPBSの特徴であると区別する記述があるが、これは誤解を生む表現だと思う。応用行動分析学は「手法」ではないのだから。

正確には「PBSは、応用行動分析学をベースに開発された行動支援、生活支援、教育支援のためのパッケージであり、嫌子よりも好子を、弱化よりも強化を、望ましくない行動よりも望ましい行動により力点を置く手法を組み合わせている」ではないだろうか(もちろんあくまで私見です)。

プラス思考でうまくいく行動支援計画のデザインプラス思考でうまくいく行動支援計画のデザイン
リンダ・M. バンバラ ティム ノスター Linda M. Bambara

学苑社 2005-01
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先日、現職教員数名との覆面座談会を行った。 テーマは「教師はなぜ本を読まないか?」。

もちろんすべての教師がそうではないだろうが、とても熱心な先生でさえ、特に専門書になると、「なかなか読めない」、「買ったけど、そのまま」、「ページを開けて文字だらけだと、読む気を無くす」ことが多いようだ。

活字を全く読まないというわけではなく、雑誌(ファッションや芸能)は熟読するという。

教育に関する専門的なことに興味がないのかというとそんなことはない。覆面座談会の出席者は誰もがとても勉強熱心な先生方だ(この点に関しては私が個人的に保証します)。

そういう自分も、最近はさっぱり小説を読まなくなってしまった。学生時分は週に数冊は読んでいたのに、過去一年ではせいぜい『ハリーポッター』くらい。食事のときなど、比較的気を抜いてるときに読むのは『日経トレンディ』とか『MacPeople』。ホントは Journal of Applied Behavior Analysis とか Journal of the Experimental Analysis of Behavior とかの論文を日常的に読むべきだし、読みたいのにも関わらず、なかなか読めない。逆に、ゼミ生やコラボレーションしている学校の先生たちに情報提供するために、特別支援教育関係の文献をひたすら読んだりしている。

たとえ本の内容に興味があって、読書行動を強化する内在的随伴性が存在しても、それを上回る弱化の随伴性があるということだろうか....

前置きが長くなってしまった。

本書は、ADHD(注意欠陥多動性障害)に関する概説と、保護者や教師が取り組めるさまざまなアイディアが簡潔にに紹介されたガイドブックである。現在のところ、ADHDへの対処としては薬物療法と行動療法の組み合わせがベストとされているが、その両方がバランスよく解説されている。

薄く(全77ページ)、文字も比較的大きく、専門的につっこんだ話はほとんどないので、たとえば、初めてADHDの児童・生徒を担当することになった先生たちにちょうど良いのではないだろうか。

「行動分析」というキーワードはでてこないけど、行動のマネジメントや社会的スキルの指導など、全編通じて行動的な指導方法のアイディアがちりばめられた本である。

親と教師のためのAD/HDの手引き親と教師のためのAD/HDの手引き
ヘンリック ホロエンコ Henryk Holowenko 宮田 敬一

二瓶社 2002-12
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kennethhall

『ぼくのアスペルガー症候群—もっと知ってよぼくらのことを』ケネス・ホール著 東京書籍 2001

アスペルガー症候群を持ったケネスくんが書いた本です(実際には編集者が聞き取って文章にしています)。

自閉症やアスペルガー症候群を持った子どもが、どんなふうに世界を見て、感じているのか垣間見れます。

応用行動分析学(ABA)の支援方法を、子どもの方はどのように考えているのか、自分はこの本で初めてそういう視点に出会いました。

ハウツー本ではありませんが、軽度発達障害を持った児童・生徒さんを担任してらっしゃる先生には、ぜひ読んでいただきたい一冊です。

ぼくのアスペルガー症候群―もっと知ってよぼくらのことをぼくのアスペルガー症候群―もっと知ってよぼくらのことを
ケネス ホール Kenneth Hall 野坂 悦子

東京書籍 2001-12
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manga-stat

マンガで学ぶ統計本、3冊を読んでみました。

報告はゼミ日記で。

まえがきから引用します。

まえがき「児童生徒の状況を理解しようとすることもなく、ただ待つだけでは状況は改善しない。子どもと周囲の状況をよく知り、積極的な働きかけをする必要がある」。そして、そのためには、さ行動論や認知理論の使った「この方法で支援し指導すれば、子どもは学校に復帰できるという確かな手ごたえをつかんでいます」。

不登校という複雑で困難な問題に、主に行動分析学的なアプローチで取り組んでこられた河合先生ら研究グループの豊富な事例研究をベースに書かれたガイドブックです。

とても読みやすく、かつ実践的に、なんのために、どんな技法を、どのように使えるか解説されています。54の事例報告つき。

どちらかと言うと、理論的な背景の解説に重点をおいて書かれたと思われる、『不登校 再登校の支援』(河合伊六・桜井久仁子【著】、2000、ナカニシヤ出版)とあわせて読むと、理解がいっそう進むと思います。

ガイドブック 子どもを学校復帰させる方法ガイドブック 子どもを学校復帰させる方法
河合 伊六

ナカニシヤ出版 2004-09
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umakuyarutameno.jpg

『うまくやるための強化の原理—飼いネコから配偶者まで』
プライア,カレン【著】 河嶋 孝・杉山 尚子【訳】 二瓶社 1998 ISBN:4931199550

この本の原書は「Don't Shoot the Dog!」。叱ったり、なじったりしなくても、愛犬はしつけられますよというメッセージだ。

しかも犬だけではない。なつきにくい猫とか、近所のうるさいおじさんとか、あるいは、読者が自分でもやめたいと思っている癖までも。

「強化」の仕組みさえ理解すれば、行動は変えられるということを、とても分かりやすく解説してくれる本である。

行動分析学の初学者にお薦めです。

うまくやるための強化の原理―飼いネコから配偶者までうまくやるための強化の原理―飼いネコから配偶者まで
カレン プライア Karen Pryor 河嶋 孝

二瓶社 1998-06
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ようやく出ました。

自分で自分のパフォーマンスマネジメントをしていて、最も達成率が低いのが執筆行動なんですが、この本は足掛け3年。出版社の米田さんに何度「ごめんなさい」をしたか数えきれないくらいです。

インストラクショナルデザインは行動分析学が「教育」に貢献できる大きな柱ですが、残念ながら日本にはこれまであまり紹介されていません。どちらかというと、教育工学系あるいは認知科学系の話かと思われるかもしれませんが、教育工学の基礎を作った一人はB.F.スキナーであることは(長井秀和風に)間違いないですし、お弟子さんの一人である S.M.マークルの著書はインストラクショナルデザイナーにとってはバイブル的な本となっています。

本書では「どうすれば上手く教えられるか」について、行動分析学にもとづいたインストラクションデザインの考え方をできるだけわかりやすく解説しました。

授業づくり、教材作成、研修計画の立案などにご活用いただければと思います。

インストラクショナルデザイン―教師のためのルールブックインストラクショナルデザイン―教師のためのルールブック
島宗 理

米田出版 2004-11
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怪しげだけど真実が潜んでいそうな理論に興味を惹かれる。「ナンバ」の動きもその一つだけど、この本もまた面白い。

たとえば、国や文化や母語にかかわらず、多くの幼児が母親をM音で呼ぶことを(「マム、ママ、マミー、など」)、乳児が母親の乳首に吸い付いて乳を吸うときの音にその起源があると分析し、さらに、

こうして、赤ん坊にとってM音は、口いっぱいの乳首や、掌いっぱいの乳房、お腹に満ちていく甘い乳と共に存在している。Mは赤ん坊のまっさらな脳に、満ち足りた、充足感の音として刷り込まれているのである(p.20)

と解釈している。

このように、ことばの音にはそれぞれ「クオリア」(感性の質)があり、組み合わせによってサブリミナル的に働くというのが著者の理論である(たとえば「タナカマキコ」が「タナカマユコ」だったらあそこまで攻撃的なイメージにはならないだろうなど)。

面白いのは、音のイメージという心理的な特性が物理的な特性と環境的な要因から説明できると考えているところ。

M音に関して言えば、確かに乳児が最初に作る音がM音であり(物理的に)、そしてそれがちょうど乳を飲むときにでる音なので、母親が最初の要求行動(マンド)として強化しやすい音となる。さらに、レスポンデント的にも、乳や安堵感と組み合わされるということによって、M音が条件刺激となる可能性もあるだろう。

また、いくつかの刺激が組み合わされて、複合的な効果を及ぼすという仕組みは、スキナーの言語行動論にも一致するところがある。

このような理論は実験的にどこまで検証できるのかどうかは不明だが、行動分析学から解釈して、どれだけ辻褄があうのかを検討するのも面白いかもしれない。

怪獣の名はなぜガギグゲゴなのか怪獣の名はなぜガギグゲゴなのか
黒川 伊保子

新潮社 2004-07
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先に紹介した『コオーディネーションのトレーニング−東ドイツスポーツの強さの秘密−』(綿引, 1990)が理論編なら、この本はサッカーにおけるコオーディネーショントレーニングの実践編といったところだろうか。具体的なエクササイズやトレーニングがたくさん掲載されていて、眺めているだけで面白い。

とにかく、必ずしもサッカーの練習ではないのに、サッカーに役立つ(はず)というのが面白いところ。

「操り人形」のトレーニングでは「左脚を前に出してクロスさせながら、左手を前に伸ばす」(p. 70)など、エアロビクスの中級クラスみたいな動きを要求したりする。

もちろん、ボールを使うエクササイズもあるが、シュートやパスの練習ではなく、むしろ、キャプテン翼的な「ボールと友達になる」ためのプログラム。

「いろいろな形状のボールを使って行うトレーニング」(p.110)は、まさにアトム研究会でやろうとしている課題に近く、ううう、と唸ってしまった。

ビデオも発売されているんだが、いまさらVHS買うのも気が引ける。DVDでないのかな。

サッカーのコーディネーショントレーニングサッカーのコーディネーショントレーニング
ペーター シュライナー Peter Schreiner 白石 豊

大修館書店 2002-10
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watahikibook.jpg

スポーツアトム研究会がいよいよ面白くなってきた。

ここ数回はコーディネーショントレーニングの話題でいっぱい。

コーディネーショントレーニングは旧東ドイツで研究開発が進められたそうなのだが、最近では日本でも流行の兆しがあるらしく、コーディネーショントレーニング研究会なるものも発足しているし、コーディネーションを良くする子どもの遊びを啓蒙する動きもあるという。

そんななか、本学の綿引勝美先生の『コオーディネーションのトレーニング』を上田先生からお借りして読んでみた。新体育社。残念ながら品切れでAmazonでも紀伊国屋でも入手不可。

面白いことに、さすが旧東ドイツだけあってパブロフの理論が引用されている。そして、パブロフの理論は受動的で、より能動的なスポーツの動作・運動を扱うには限界があるとして、環境からのフィードバックを重視する、独自の運動論を展開している。

あぁ、この人たちがスキナーのオペラントの理論を知っていたら(知っているんだろうか?)、この枠組みももっと整理できるし、実証的な研究も進むだろうにと、そこはちょっと残念。

それでも、「コオーディネーション」を高める意図で行われるさまざまな運動のアイディアはとても興味深い。ぜひともデータを見てみたいのだが、なにぶんにも原著は独語である。学生時代、第二外国語はドイツ語だったし、そういえば大学院入試はドイツ語で受験したんだよなぁ〜と、今となっては遠い霧の中の思い出。上田先生におんぶにだっこになりそうだ。

それにしてもAmazonで「この著者のその他の作品」をクリックすると、『ドラえもん恐竜サイエンス』とか『懐かしのビジュアルで甦るぼくらのゼロ戦』とかがヒットする。同一人物だろうか?

ようやく出ました(笑)。

これまで障害児教育関係の臨床、というか臨床心理学一般では、専門家がクライアントと直に接して、指導や治療をするという一次的な関係が主体だった。しかし、そのような介入で対処できるクライアントの数には当然制限がかかる。

この本で紹介される「行動コンサルテーション」とは、たとえば学校場面では、児童・生徒と直に接する教師をコンサルティ、教師に対してアドバイスをする専門家をコンサルタントと位置づけ、教師を介して(あるいは教師と共に)指導に関わるアプローチを指す。

教育相談や巡回相談員、特別支援コーディネーターなどには、そのように、子どもたちに間接的に働きかける仕事が期待されており、本書はそうした仕事につく人にぴったりの内容である(宣伝 ^^)。

第11章:養護学校への支援では、国府養護学校とのコラボレーションプロジェクトについて、その導入期と専門性マトリクスについて解説してあります。 ぜひご一読を。

台風が来るたびに恥ずかしいおもひでがボロボロ蘇る。

子どもの頃、「台風一過」は「台風一家」だと思っていた。ものすごく元気なファミリーをなぜか連想していたのだ。

そんな間違いは二度と犯すまいと心に誓って10年以上してから、「豪雨で○○線がフツーです」が「不通」であると気がついた。それまでは「普通」だと思い込んでいたのだ。豪雨にも関わらず頑張っている路線だなぁと。

というわけで、日本語にはまったく自信がない。だから本屋でこういうタイトルを見るとつい買ってしまう。

案の定、さっそく次の問題でつまずいた(p.7)。正解は....ぜひ本屋さんで。

(  )に入ることばは1〜3のどれでしょうか?     ●受け入れ(  )が整う。         1.態勢   2.体勢   3.体制
国語力もっとアップ400問国語力もっとアップ400問
NHK放送文化研究所日本語プロジェクト

NHK出版 2004-04-11
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タイトルにつられて思わず買ってしまった本。残念ながら「科学的なデータ」はごくわずか。それも運動生理学的なもので、本書の要である「コーディネーション」についてはデータも文献の引用もない。

現代テニスに必要とされる「パワー」を生み出し、「テクニック」を演出する秘訣は、幼少年期、特に7歳から11歳までの間にコーディネーショントレーニングがきちんとなされているかどうかにかかっていると言っても過言ではない(p.36)

とし、テニスにおける目と手(ラケット含む)の協応をトレーニングするためのレッスンプランやドリルが解説されているのだが、それがどの程度「科学的」に実証されているのかは定かではない。

スポーツアトムの研究をしていても、少なくとも球技にとってのコアはこのへんにあると思うので、ぜひ実証的な研究をみてみたいのだが....

科学の目で見たテニスレッスン科学の目で見たテニスレッスン
蝶間林 利男 勝田 茂 佐藤 政広

ベースボールマガジン社 2000-10
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野球は特に好きじゃないし、TV観戦もしない。でも、シアトルのセーフコ・フィールドでたまたま試合を観て、たちまちイチロー選手のファンになってしまった。

イチローは守備につくと、すぐにストレッチを始める。試合前のウォームアップではない。試合中、ずっと隙あらばストレッチなのだ。はっきりとした目標を持って、達成のための戦略をたてて、それを実行していくプロなのだ。

というわけで、たまたま本屋で目に付いたこの新書。イチローがなぜあれだけの成績を残せるのかを、いくつかの視点から分析している。どこまで科学的な裏付けがあるのか怪しいところもあるのだが、そこがまた面白い。

たとえば、オリックスの選手の視力測定をしている田村スポーツビジョン研究所代表の田村知則氏の分析として、イチローが他の選手よりも抜きんでている『目の能力』を

瞬間視能力:ほんの一瞬見えたものを素早く認識する。
追跡視能力:動いているものを追視する。
深視力:奥行きや位置関係を正しく認識する。
周辺視能力:視点の中心ではなく視野全体を丸ごと認識する。
探索視能力:たくさんの物の中から目的の物を瞬時に探し出す。

という5つの下位行動に分析している。これらは確かに課題を工夫すれば、独立に、高い信頼性を持って測れそうだし、多くのスポーツに共通の能力であるという意味で妥当性も高そうだ。

スポーツアトム研究会で取り上げてみてもいいかも。

イチローは「天才」ではないイチローは「天才」ではない
小川 勝

角川書店 2002-06
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ケーゲルらの研究グループは、自閉症児への最も効果的な教育は日常場面での自発的なコミュニケーションの指導であると考え、子どもたちが遊びの場面などで自発的に質問するスキルを教えるプログラムを開発してきている。この本はその理論的背景も含めた解説書。

たとえば、指導者と子どもが机をはさんで座って、「これは何?」「えんぴつ」というやりとりをするより、遊びながら子どもから「これは何?」と聞けるように指導する。

このように、それを教えれば、あとは日常生活の自然なやりとりでボキャブラリーが増えたり、コミュニケーションのレパートリーが広がるような「要となる行動」(Pivotal Behavior:ただし、本書では「機軸となる行動」と訳されている)」を見つけていくのが彼らの仕事の特徴で、注目に値するところ。

親指導プログラムやソーシャルサポート、IEP作成における課題などに関する章もあり、特別支援教育に関わる先生方にはぜひ読んでいただきたい一冊。

ただし、応用行動分析学の基礎的な知識なしに読むと話が見えないかもしれない。『自閉症へのABA入門—親と教師のためのガイド』(リッチマン,シーラ【著】 井上 雅彦・奥田 健次【監訳】・テーラー 幸恵【訳】)などを読んでからどうぞ。

残念ながら日本語訳は堅く(章によってバラツキあり)、誤訳も散見される。英語に自信がある人は原著を読んだほうが読みやすいかも。

自閉症児の発達と教育―積極的な相互交渉をうながし、学習機会を改善する方略自閉症児の発達と教育―積極的な相互交渉をうながし、学習機会を改善する方略
ロバート・L. ケーゲル リン・カーン ケーゲル Robert L. Koegel

二瓶社 2002-10
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本屋で立ち読みした瞬間に「やられたぁ」と思った本。

「やられたぁ」と思ったのは、国会での質疑を例にあげているところ。もちろん、議論のルールが守られていない例として引用され、解説されている。

国会中継や日曜の朝の討論番組を観るたびに、政治家の人たちの論理性の欠如や議論の下手くそさにイライラしていた。大学でディベートを教えるのに、総理大臣の所信演説を教材として使ったこともあったくらいだ。いつかこういう本を書きたいなとも思っていたんだけど...

でも、この本は自分の教材よりもはるかに分かりやすく、しかも議論のルールを包括的に解説してくれている、お勧め本である。藤原先生も鳩尾のクスリで引用していた「トゥルミンのモデル」を著者独自に拡張しているという。

「根拠」と「論拠」の区別は、意見の食い違いを調整するのにとても有意義だと思ったし、議論のレベルを3段階に分けるところも面白い。ちなみに、レベル1は日常の議論(会話など)、レベル2は公の場での議論(会議や国会、「教育関係者の議論」)、レベル3は科学的議論なのだが、自分はときどきレベル3をレベル1に適用して煙たがられているのだということを再認識した。

あとはこうしたルールをいかに教えられるかということになる。これまでの体験からの直感的な判断になるが、とてもよく書けているのにも関わらず、議論のレッスンが必要な人にこの本を読ませただけでは、おそらくルールは身につかないと思うから。

議論のレッスン議論のレッスン
福沢 一吉

日本放送出版協会 2002-04
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英語で「buzzword」とは「実業家・政治家・学者などの使うもったいぶった言葉」(研究社「新英和辞典」)のことだが、最近ブームの「コーチング」は、まさに「buzzword」にあたる。

もともとは主にスポーツの指導を意味していた「コーチング」を、「エンパワメント」とか「ワークアウト」とか「ファシリテーション」など、それっぽいカタカナ用語で武装して、企業におけるリーダーシップ研修としてまとめ上げたものが多い。日本では、欧米のコンサルタントたちがトレーニングプログラムとして開発したものを、輸入したり、フランチャイズしたりしている人が多いのではないだろうか。最近ではそれがさらに派生して「親子関係のコーチング」なるものまで見受けられる。

「コーチングって行動分析学と関係あるんですか?」といった質問を受けることがあるのだが、それは「コーチング」が何を意味しているかによる。

「中学校で運動部の指導をしているのですが、コーチングに行動分析学が活用できますか?」という質問なら、答えはYesである。スポーツ行動分析学という領域があって、研究・実践がなされている。日本語ですぐ読める図書としては、『コーチング−人を育てる心理学』武田建著(誠信書房)がお勧めである。

「いま流行っている“コーチング”って、行動分析学の原理を使っているんですか?」という質問なら、答えはYes/Noだ。そういうふうにプログラムされている研修もあれば、そうでないのもありそうだ。また、行動分析学的なプログラムでも、開発者やトレーナーがそれを自覚しているかどうかは、また別のことである。

『コーチングの技術』は、アメリカやイギリスでコーチングを勉強し、日本でコンサルテーションをしている著者による、とても分かりやすいガイドブックだ。コーチングの技術がとても具体的な行動としてリストアップされている。

実は私も、米国の、行動分析学をベースにしたとあるコンサルティング会社で、3日間にわたるファシリテータートレーニングを受講したことがある。そのときの内容とほぼ同じ標的行動を含んでいる。元になっているプログラムが同じなのかもしれない。

それだけではない。『コーチングの技術』では、『うまくやるための強化の原理』カレン・プライア(二瓶社)が引用されており、「好子」という用語まで使われている。

行動分析学とコーチングの両方に興味を持つ人へお勧めの1冊である。

コーチングの技術―上司と部下の人間学コーチングの技術―上司と部下の人間学
菅原 裕子

講談社 2003-03
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