
*画像は公式HP(http://samuel-k.jp)より拝借いたしました。
"日本で初めての",そして今のところ唯一の,"行動分析学による共生の幼稚園"--学校法人西軽井沢学園サムエル幼稚園と,併設された児童発達支援事業所ハンナに見学に行ってきました(今朝の軽井沢は-5℃でした)。
昨年4月に開園し,直後の5月にも一度見学させていただいていたのですが,子どもたち,そして先生たちの成長を楽しみにした再訪問となりました。
一期生の園児さんのほとんどが年少さんで,この時期の子どもの発達がどれだけめまぐるしいかわかってはいるつもりですが,前回と今回とでは人が違うのでは?と思うほどの大きな変化をたくさん観察した半日でした。
まず,教室に入って挨拶したとたんに,何人かの子どもが話しかけてきました。「おはようございます」だけではありません。「しんかんせんだよ」と組み立てたブロックを見せてくる子どもさんもいます。サムエル幼稚園ではインクルージョンが実現されています。発達障がいがあるお子さんもいます。そうしたお子さんも,私に指でサインをつくって挨拶してくれました。後で先生に聞いたら,自分の名前のイニシャルをつくって教えてくれていたそうです。
前回も今回も,登園後,朝の会の前の自由遊びの時間から見学を開始したのですが,5月にはたださわったり,転がしていたりしたブロックを,今回は何かに見立てて組み立てています。ブロックを注射器にみたてて「お尻に注射!」と先生にちょっかいをだしている子どもさんまでいました。
この時間帯,前回は,叩いたり叩かれたり,押したり押されたり,それで泣きだしたりと,けっこう混沌とした状況だったのですが,今日は子どもたち同士で話をしたり,仲良くじゃれあったり,おままごっこをしたりしていました。組み立てたブロックを取られそうになると,「私がつくったの!」としっかり主張しているお子さんもいました。
すべて5月には見られなかった社会的行動ですし,発話の頻度,複雑さです。
朝の会も驚きの連続でした。5月にはずっと泣き叫んでいた子どもさんがずっと静かに座っています。前回は先生方が我慢して大きな声にも動じないようにしていました。懸命に消去しようとしていた姿がそこにはありましたが,そうした指導や席の位置の調整,朝の会が始まるまでのルーチンの工夫(自由遊びの時間に静かな別室で,親御さんによる個別指導を行う時間にするなど),様々な指導がなされた成果のようです。
他のお子さんたちも同じです。今日は,なんと"天国"のお話まであったのですが(名前から推測されるようにサムエル幼稚園では聖書のお話を聞いたり,賛美歌を歌う機会があります),そして天国や神さまのお話は幼稚園児には,そして私にも,けっこう難解な話だったりもしたのですが,離席も,逸脱も,ほぼ皆無でした(椅子から半分腰をすべらせて座るくらい。← これは私の教授会でのいつもの行動です)。
これも5月と比べて大きな進歩です。幼稚園の大きな役割の一つは,小学校入学後にいきなり求められることになる集団技能の練習にあると私は思うのですが,それを叱ったり,強制したり,諭したりすることなく実現できていました。
「天国ってどんなところだと思う?」という先生の問いかけに,「○○ちゃんが死んで天国に行ったの」と発言する子どもたちもいました。話したがりのお子さんには先生から「手をあげてから話そうね」とプロンプトが提示され,そのあとは一生懸命に手を挙げていましたよ(かわいかったです)。子どもさんがどれくらい先生のお話を理解しているかには大きな個人差がありそうでした。それはそれであたりまえだし,みんな違ってみんないいわけです(←わかる人にはわかるフレーズの拝借です ^^)。
サムエル幼稚園では,児童発達支援事業所ハンナが併設されているメリットを最大限に活かし,個別や小集団での,指導目標をより焦点化し,教材や訓練プログラムを作成した上での指導も受けられます。また,その指導には保護者の方たちも強く関わってきます。先述の例も,個別の指導プログラムはハンナで作成し,親御さんが家庭でも実行できるように練習し,それを登園後に親御さんが園で実施しているというわけで,幼稚園と発達支援事業所が連携してお子さんと親御さんの両方をうまく支援している好例だと思いました。
奥田先生は出張中でお留守でしたが(そうだ今日は徳島で実践教育報告会だった ^^;;),事前に偏食などの指導にも成果がでてますよとうかがっていたので,お弁当の時間も見学させていただきました。
前回は昼食前においとましたので比較はできないのですが,その代わり,記録(間食までの経過時間など)を見せて頂き,先生方やハンナの笹田先生にも詳しくお話をお聞きしました。ここでも個別指導が鍵になっています。子どもさんごとにプログラムがつくられていて,一つのケースでは完食目標時間の設定とiPadによるタイマーの提示で見事に成果がでていました。目標時間内に完食でき,このお子さんは「成功!」と喜んでいました。
もう一つのケースは現在進行形でプログラムを検討中だそうで,どういう状況なら食が進むのか,色々な変数をみつけている最中だそうです。このお子さんの場合,特に新奇な食べ物が苦手なようなのですが,今日は「オクラ」を生まれて初めて食べることに成功していました。こういう挑戦をするときにはお弁当の中に何か新しいおかずをいれてもらう必要があるわけで,それにはご家族のご協力が不可欠になります。このお子さんの場合はなんとお父さんが毎日お弁当をつくられているそうです。これが本当のイクメンですね。
そうそう。サムエル幼稚園にはロフトのような2階スペースがあり,保護者の方々がそこから子どもたちの活動を観察できるようになっています。前回も,今回もかなりの数の親御さんがいらしゃっていました。
登園後の個別指導やお弁当の例からもわかるように,保護者の方々の関わりを重視することもサムエル幼稚園の特徴です。奥田先生は「親子ともによい育ち」というスローガンをあげていますが,これはお題目ではなく,奥田先生が担当された何万にもわたる(数は私の根拠のない推測です)ケースから導かれた事実だと私は考えています。子どもさんの発達を促し,成長を伸ばすには,親としての親御さんの成長が不可欠だということです。"不可欠"が言い過ぎだとしたら,親御さんの親としての技術に磨きがかかればかかるほど,子どもさんもぐぐっと成長しますよ,ではどうでしょう。そして,子どもさんへの直接的な指導だけではなく,親御さんへの親技術の指導においても,行動分析学という行動科学を基礎にした奥田先生の臨床の引出は巨大であり,それがサムエル幼稚園では使い放題ということなのです。
お子さんごとに丁寧に指導プログラムをつくるためには,指導目標に関する行動をしっかり記録し,指導がうまくいっているかどうか,うまくいっていなければどこを改善するべきかを記録を元に判断します。
サムエル幼稚園では,記録の方法や先生方同士での情報共有の方法について,これも現在進行形で,工夫や改善を重ねているそうです。今日は壁に貼り出された折れ線グラフをみせていただきました。こういうシステムがあるからこそ,先生方も思い込みや個人的なこだわりに固執せず,一人で背負い込むこともなく,奥田先生(は理事長先生です)や笹田先生,親御さんと一緒に,子どもさんの成長を確実に後押しできているのだと思います。
とはいえ,サムエル幼稚園に現在勤務されている先生方は,大学院で行動分析学を学んだ人たち--ではありません--。臨床の現場で奥田先生の指導を受けてきた人たち--でもありません--。いわば,ふつうの幼稚園の先生たちです。もちろん,奥田先生の教育理念に同意した先生たちです(「記録なんてなんのためにとるんですか!」とか「愛があれば体罰もありだと思います」なんて人はいません)。理念に同意していれば,そして理論は後から学ぶという心意気があれば,そして何より子どもさん,そして親御さんの成長が働き甲斐になる(好子になる)先生であれば,あとは園のシステム(指導行動への随伴性)があれば,望ましい指導は自発され,子どもさんの成長で強化されていく。ここは奥田先生による壮大な実験だと思うのですが,今日見学した限り,この実験は大成功に向かって発展中と言えるでしょう。
4月には新園児さんたちが入ってきます。人数が増えると子どもたちの随伴性も変わります。また,5月あたりにお邪魔させて頂こうと思います。
追記:見学に対応して下さった笹田先生,園の先生方,保護者の皆さま,本日はありがとうございました。