J-ABA年次大会2021を振り返る:公募企画シンポジウム⑤ 行動記録と情報共有システムの利点と課題

公募企画シンポジウム⑤ 行動記録と情報共有システムの利点と課題

企画・司会  奥田健次(学校法人西軽井沢学園)
話題提供   佐々木銀河(筑波大学)
話題提供   笹田夕美子(行動コーチングアカデミー)
話題提供   中谷啓太・井上雅彦(鳥取大学)
指定討論   島宗理(法政大学)

 テーマとしてはとても広い範囲の話で時間が足らなかったです。後で奥田先生も感想を述べられていましたが,技術的な話は参加者の多くにとってはわかりにくかったですね。とはいえ,そういう仕事が必要とされる時代に突入してきているということではあるので,行動分析学 ∩ 情報技術 という,いまのところ人数が限られている,もしかしたらちょっとヲタクな集団でサーバーやIOTや画像認識なんかの話を徹底的に繰り広げる機会が別途あってもいいのかもしれません。参加者10人くらいだとしても(笑)。

 指定討論としては,アプリ開発や外部からのコンサルサービスという視点で議論を展開しようとしていて,それはそれで狙い通りに進んだし,今後の展開も見えてきたと思いますが,それはそれでやっぱりちょっとテーマとしては広すぎたかもしれません。

 もしかしたら,行動を記録する装置や方法,データを共有する手段として,現在可能な技術やアプリ,システム,そしれそれぞれの使い所や課題を一覧表にするみたいなところに着地点を作った方が,まとまりとしてはよかったかもしれないと後から考えました。

 そこで,以下,こんな視点でもう一度まとめてみたらどうだろうと,シンポジウムが終わってから考えたことを羅列しておきます。

 今回話題提供してくださった先生方の他にも日本の行動分析家で記録のシステムを開発しておられる先生方もおられます。そういう開発側の先生方と,それを導入する側の先生方が協力して,できればそれを仲介し,検証することをテーマに修論でも書く院生さんでもいれば,行動分析学的な消費者リサーチみたいな研究もできるのではないかと思います。現場にあるこういうニーズにはこういうアプリは使いにくいけど,こういうアプリは使いやすいとか,こういうニーズをみたすアプリやシステムがまだないなどの成果をまとめると,このあたりの研究や実践がぐぐっと進展しそうです。

記録装置:どういうときにどういう装置を使うと便利か,それはなぜか。

  • 紙+アプリでデータ化
  • 最初からアプリ
  • アプリ以外の記録装置(例:IOTスイッチなど)
  • 自動(例:ICタグ検出や画像解析)

記録装置の選択に影響しそうな要因としては,

観察対象者(利用者や園児/児童/生徒):

  • 同時には一人
  • 同時に複数人

観察者/記録者(スタッフ/教員):

  • 同時には一人
  • 同時に複数人

観察時間帯:

  • 観察者が決められる(せーので始めて,一定時間後に終了)
  • 観察者が決められない(オープンな環境で一定時間中に)
    *アプリは観察時間帯が決められていてその間起動しておけばよいときには使いやすいけど,そうではないときには起動という行動コストがかかるのが大きそうという印象があります。

観察場所:

  • 観察者が決められる(机上,プレイルームなど)
  • 観察者が決められない(観察対象者があちこち移動する)

記録方法:

  • 生起/非生起や正誤で記録できる(1/0記録)。
  • どのような行動が自発されたか,どのような条件で自発されたかを(も)記録する必要がある(付帯条件メモ記録)。
  • 付帯条件をあらかじめコード化できる(付帯条件コード式記録)。


 データの共有システムにもいくつかの方法があり,選択に影響する要因がありそうです。

共有形式:どういうときにどういう形式を用いると便利か,それはなぜか。

  • ノート(紙)
  • グラフ(折れ線)
  • グラフ(その他?)
    *目視分析の訓練をしなくても実践家にとって読み取りやすいグラフ形式が生み出せればブレークスルーになることでしょう。

共有媒体

  • 印刷
  • PDF
  • web

共有目的:

  • 現状報告
  • 説明責任
  • 介入計画立案と評価

共有対象:

  • 個人(共有しない)
  • 職員間(組織内)
  • 職員間+保護者,連携外部組織,外部専門家など

データの保管方法:

  • 紙(ノート,絵巻?,バインダーなどなど)
  • 特定個人のPCやHDD
  • 共有HDD(NASなど)
  • クラウド

 指定討論では投資を回収できない動かないアプリの話をしましたが,そういうもったいない状況を回避するには,何のための記録で,誰とどのように共有して,どのように活用するのかを明確にしておき,まずはすでにあるものを使い(英語でいう"Don't reinvent the wheel"),新しいシステムは少しずつ導入し,改善を繰り返すことです。このあたりはシングルケースデザイン法の基本と同じなので,行動分析学との相性はいいはずです。いきなり参加者間多層ベースライン法で実験しないじゃないですか。まずはAB(CDE...)法で1-2人を対象に実験や実践をして,うまくいく介入をみつけてから,もっと多くの人を対象にその介入を使い,さらに改善を続けていきますよね。あれと同じです。

 技術革新は進んでいますが,画像解析でどんな行動でも自動記録という将来はまだ先みたいです。しばらくはアナログとデジタルをうまく活用していくことが求められそうです。この分野を牽引していく「新世代」の活躍を期待しています。

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