スポーツのコーチングにおける課題分析:明日の久保選手を育てる「エコノメソッド」

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 東京オリンピックまで一年を切りました。酷暑など問題が山積している感がありますが,今日はスポーツの話です。

 国際大会レベルやプロの世界では選手の育成やマネジメント,チームの運営にデータを活用する取り組みが進んでいます。日本開催でテレビ中継がなぜか多いバレーボールの試合では監督がタブレットをみているシーンを目にしますよね。試合中にチームの複数のサポートメンバーがリアルタイムで入力していくデータ(たとえば,敵チームのアタッカーがクロスとストレート,フェイントなどをどのタイミングでどのように打ち分けているか)をネットワークで共有し,そこから作戦を立て選手に伝えているそうです。

 自分はテニス好きで,四大大会はテレビ観戦もします(今はUSオープン真っ最中です)。最近は,試合中にファースサーブ/セカンドサーブが入った確率やそのときの得点率が随時更新され,アナウンスされます。コートのどの位置にどのくらいボールが打ち込まれているかをローデータの散布図で,大会や会場によってはボールの軌道まで視覚化されて放映されます。テニスの試合ではオンコートのコーチングはルール違反なので(大会によってはOK),こうしたデータやデータを見せる工夫は主に観客向けですが,試合後にはデータにもとづいたコーチングや次の試合へのプランニングがなされているのでしょう。

 野球は観ませんが,大リーグではボールをトラッキングし,投手のリリースポイントや,初速,終速,回転数,無回転ボールの軌道変化量などが記録され,球種も機械学習によって即座に判定され,記録されるそうです(「スポーツ界に広がるデータ革命」 酒折, 2018, 日経新聞)。スポーツの中でいちはやくデータの重要性に気づき,実用化したのが大リーグです。その経緯は映画『マネーボール』で世に知られるようになりました。そしてデータによる選手行動のマネジメントを活用し,かつ実験して論文にしたのが,ホワイトブックの著者の一人でもある Heward 先生なんです。週末に小樽で開催される日本行動分析学会の年次大会ではテーマは違いますが,特別講演をされます。ところで,ヒューワード先生が野球選手&監督だったことを知っている人も少なそうなので,『行動分析学事典』の「スポーツ」の項目にはこのことも書きました。

 さて本題です。『バース・デイ』というドキュメンタリー番組(TBS系列, 2019/6/8 放送)で取り上げられていた,グランデ・アメージングアカデミー山梨という少年サッカーチームが採用している「エコノメソッド」という指導法についてです。

 同チームのホームページによると,エコノメソッドとは「ギリシャ語で"考える"という意味で, エコノメソッドバルセロナリサーチ&ディベロップメント社が開発したメソッドです。エコノメソッド社は,スペインサッカーにおいて10年以上にわたり,脳の発達段階に応じてどのようなトレーニングをしていくと,インテリジェンスが高い選手が生まれていくのかということを研究してきた3名によって設立されました」だそうです。

 番組ではエコノメソッドを「認知に重点を置いており,試合の中で「何を見てどう判断するか」を指す。ボールよりも人に意識をおくもので,その場で自分のプレーを説明させ考える習慣を徹底的に植え付ける。子どもたちは寮生活を送っており,ミーティングでは集団生活のルールについて教えている。認知トレーニングは日々難易度があがっていく」とし(番組HPより),いくつか具体的な指導場面をみせ,そして全国有数少年サッカーチームが集まったトーナメントの大会でグランデ・アメージングアカデミーのチームが圧倒的勝利を収めるところまでを放映していました。

 "認知"に重点をおくとありますが,放映されたシーンを見た限り,徹底的に行動的でした。

 まず,チームに勝利にもたらすパフォーマンスの指標を設定します。このチームの場合は「ボール支配率」(試合中に自チームがボールを保持していた時間の割合)でした。うちの大学院にきているサッカーの専門家によると,この指標は監督がどのようなスタイルのチームを目指すかで変わってくるそうで,なでしこジャパンがワールドカップで優勝したときにはこの指標を使っていたが,その後,他国のチームに研究され通用しなくなったそうです。どの指標を選ぶかもデータで決めるということですね。

 どんな指標を使うにせよ,ポイントはまず指標を作ることです(たとえば,全国の部活動でこうした指標を設定しているチームが果たしてどのくらいあるか)。それも,計測でき,妥当性がある(少なくとも論理的に,また過去の試合のデータから予測できる)数値で,かつ,できるだけ単純でわかりやすいものを使うということだと思います。次の段階ではこれを各選手のパフォーマンスに落としていくことになります。複雑で数多くの指標があると,この作業が困難になるし,選手も何のために何を求められているのか言語化しにくくなるからです。

 番組ではグランデ・アメージングアカデミーの練習シーンがいくつか紹介されていましたが,どれもがこのチームパフォーマンスへ直結していそうなものでした。その中の一つがパスをだす場所です。4on4くらいの模擬戦で,フィールドを縦方向に3つのエリアに分割し,ボールを保持した選手には,敵選手がいない(パスが通りやすい)エリアを探させ,そこへパスをだせたかどうかをコーチが即時フィードバックしていました。
 標的行動を"探す"に留めているとコーチが的確にフィードバックしにくくなります。だから,エリアに名前をつけ,空いているエリアの名前を言うようにプロンプトします。番組ではそこまで放映していませんでしたが,おそらくプロンプトはフェイドアウト,フィードバックはリダクションしていき,コーチの声かけなしでも選手が自分でそのようにパスをだせるように指導していくのだと思います。
「何を見てどう判断するか」という"認知"を行動的に解釈して具体的な標的行動に落とし込めば,あとはその標的行動を自発させる場面を設定し(練習ドリルやプログラムを組み),プロンプトをだして強化していけばいいわけです。このあたりは行動的コーチングの手法とそれほど変わりません(ちなみに行動分析学事典では「行動的コーチング」の項目も担当しましたので読んでみて下さい)。

 競技レベルのコーチング,特にチームスポーツでは,チームとしてのパフォーマンス指標の設定と,その達成につながる各選手のパフォーマンス指標,そしてそれを達成させるための標的行動の抽出と訓練プログラムの開発,改善をデータを元にして進めることがいかに重要か,あらためて納得させられた番組でした。

 参考までに。サッカー選手の"注意"の拡大に関する応用行動分析学からの実験論文もあります。

  • Ziegler, S. G. (1994). The effects of attentional shift training on the execution of soccer skills: A preliminary investigation. Journal of Applied Behavior Analysis, 27, 545-552.

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