『行動分析学事典』に問う。オペラントとレスポンデントの区別について。

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 4月末に公刊された『行動分析学事典』。完読にはほど遠いですが(事典なのでそもそも最初から最後まで完読するものでもないし,そうしようともしてないのだけれど),ぱらぱらとめくると,いくつか気になるところが見つかります。

 今日はそのうちの一つについて。用語というより概念の整理に関する問題提起かもしれません。

 「条件強化」の項では,のっけに「条件強化とは,行動がある刺激や出来事によって強化されるとき,その刺激や出来事が別の強化子と対提示されるという過去のレスポンデント条件づけによってその機能を獲得した場合を指す」(pp. 190-193, 山岸)とあります。

 この定義にはいくつかの問題があると思います。以下,弊著で私が使っている用語は""で囲んで表記します。

 この項では,遺伝的に決定された強化子("生得性好子")と後天的に獲得された強化子("習得性好子")を区別しようとしているわけですが,まず,強化と強化子("好子")の区別が曖昧になってしまっています。上述の定義の後には,前者は「一次性,生得性強化子」,後者は「二次性,習得性好子」などと呼ばれると書かれているように*,「強化」という原理(手続き,あるいは現象)について生得性/習得性の区別をしようとしているわけではないのです。よって「条件」で「強化」で修飾するのは論理的誤謬です。

*複数の用語をこのように併記するのは事典としては混乱の元になると思われます。本文にはどちらか一方を書くことにして他の表記法は注釈に書く,あるいはまとめて表にするなど,編集上の工夫をしたらよいかもしれません。

 次に「レスポンデント条件づけによってその機能を獲得した」というところですが,念のため,同じ事典の「レスポンデント行動」の項を読むと,レスポンデントは反射と条件反射に限定されているように読めます。「行動分析学以外の分野ではNSにUSを対提示することを強化とよんでいる場合もあるが,現在の行動分析学でこの用法はほとんどみられない」(p. 38,石井)とありますし,私もそのように認識しています。そもそも行動分析学の「学習理論」の基本はオペラントとレスポンデントを明確に(論理的に,概念的に,実験手続き的に)分離したところに特徴の一つがあると考えています。

 強化子の機能(弊著『WM 応用行動分析学』では"好子"や"嫌子"の"行動変容作用"とよんでいます)を後天的に獲得させる手順は複数あり,その一つはすでにその機能を持つ刺激との対提示です。ですが,派生する機能はあくまでオペラントの"行動変容作用"であり,レスポンデントの"誘発作用"ではありません。上述の定義ではこの区別がなされていません。もしかしたら著者の山岸先生が意図的にそうしているのかもしれませんが,当該項目にその意図が書かれておらず,不明です。

**なお,『行動分析学入門』(産業図書版)ではオペラントにおける対提示は「価値変容の原理」とよび,レスポンデント条件づけの手続きとは区別しています(第12章, p.157)。
*** "習得性好子"や"習得性嫌子"は対提示以外にも,見本合わせ訓練(刺激等価性)や言語行動(「〜は〜」というオートクリティックフレーム)などによっても獲得されます。対提示が唯一の方法ではありません(詳しくは『WM』をご参照下さい)。

 「条件強化」というように「強化」を「条件」で修飾した用語を用いるなら,むしろ対象として記述すべきなのは,「conditioned reinforcement」ではなく「conditional reinforcement」の方ではないでしょうか。たとえば,ある刺激下(ハウスライト点灯)ではある三項随伴性が有効になるが(キーライト点灯のときにつつくと餌を提示する),別の刺激下ではその随伴性が有効にならないような設定で(ハウスライト消灯時にはキーライト点灯のときにつついても餌を提示しない),ハウスライトも刺激性制御の作用を獲得するようになるときの手続きです。高次弁別訓練やいわゆる"文脈刺激"とよばれる刺激機能をつくるときに用いられる手続きでもあります。もしかして事典には「条件性強化」としてこっちが記載されているのかもと索引を探してみましたが,なんと「条件強化」の項が「条件(性)強化」となっていました。「conditional reinforcement」の方が別の和訳用語でどこかに解説されているかどうかはまだ未確認です(索引をみている限り,なさそうなのですが...)****。

****十年後の改訂に向けてのお願い:いやそんなに待たずに,すぐにでも,電子版をだして下さい。こういう図書はやはり全文検索できた方がいいです。

 対提示(=時間的接近)が学習にとって大きな要因であることは間違いないですが,対提示によって何が「学習」されるが重要で,系統的発生に因果を求めることができるレスポンデントと,個体的発生に因果を求めるべきオペラントとは区別すべきというのが私の考えです(そしてこれは珍しく? 少数派ではなく多数派の考えだと思います)。

 刺激作用を派生させる操作は対提示以外にもあるということも重要です。対提示しなくても刺激機能が変わるという現象を材料に,行動分析学の"理論"に限界があると言われても困るしね。

 とりあえず以上です。

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