2019年8月アーカイブ

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 東京オリンピックまで一年を切りました。酷暑など問題が山積している感がありますが,今日はスポーツの話です。

 国際大会レベルやプロの世界では選手の育成やマネジメント,チームの運営にデータを活用する取り組みが進んでいます。日本開催でテレビ中継がなぜか多いバレーボールの試合では監督がタブレットをみているシーンを目にしますよね。試合中にチームの複数のサポートメンバーがリアルタイムで入力していくデータ(たとえば,敵チームのアタッカーがクロスとストレート,フェイントなどをどのタイミングでどのように打ち分けているか)をネットワークで共有し,そこから作戦を立て選手に伝えているそうです。

 自分はテニス好きで,四大大会はテレビ観戦もします(今はUSオープン真っ最中です)。最近は,試合中にファースサーブ/セカンドサーブが入った確率やそのときの得点率が随時更新され,アナウンスされます。コートのどの位置にどのくらいボールが打ち込まれているかをローデータの散布図で,大会や会場によってはボールの軌道まで視覚化されて放映されます。テニスの試合ではオンコートのコーチングはルール違反なので(大会によってはOK),こうしたデータやデータを見せる工夫は主に観客向けですが,試合後にはデータにもとづいたコーチングや次の試合へのプランニングがなされているのでしょう。

 野球は観ませんが,大リーグではボールをトラッキングし,投手のリリースポイントや,初速,終速,回転数,無回転ボールの軌道変化量などが記録され,球種も機械学習によって即座に判定され,記録されるそうです(「スポーツ界に広がるデータ革命」 酒折, 2018, 日経新聞)。スポーツの中でいちはやくデータの重要性に気づき,実用化したのが大リーグです。その経緯は映画『マネーボール』で世に知られるようになりました。そしてデータによる選手行動のマネジメントを活用し,かつ実験して論文にしたのが,ホワイトブックの著者の一人でもある Heward 先生なんです。週末に小樽で開催される日本行動分析学会の年次大会ではテーマは違いますが,特別講演をされます。ところで,ヒューワード先生が野球選手&監督だったことを知っている人も少なそうなので,『行動分析学事典』の「スポーツ」の項目にはこのことも書きました。

 さて本題です。『バース・デイ』というドキュメンタリー番組(TBS系列, 2019/6/8 放送)で取り上げられていた,グランデ・アメージングアカデミー山梨という少年サッカーチームが採用している「エコノメソッド」という指導法についてです。

 同チームのホームページによると,エコノメソッドとは「ギリシャ語で"考える"という意味で, エコノメソッドバルセロナリサーチ&ディベロップメント社が開発したメソッドです。エコノメソッド社は,スペインサッカーにおいて10年以上にわたり,脳の発達段階に応じてどのようなトレーニングをしていくと,インテリジェンスが高い選手が生まれていくのかということを研究してきた3名によって設立されました」だそうです。

 番組ではエコノメソッドを「認知に重点を置いており,試合の中で「何を見てどう判断するか」を指す。ボールよりも人に意識をおくもので,その場で自分のプレーを説明させ考える習慣を徹底的に植え付ける。子どもたちは寮生活を送っており,ミーティングでは集団生活のルールについて教えている。認知トレーニングは日々難易度があがっていく」とし(番組HPより),いくつか具体的な指導場面をみせ,そして全国有数少年サッカーチームが集まったトーナメントの大会でグランデ・アメージングアカデミーのチームが圧倒的勝利を収めるところまでを放映していました。

 "認知"に重点をおくとありますが,放映されたシーンを見た限り,徹底的に行動的でした。

 まず,チームに勝利にもたらすパフォーマンスの指標を設定します。このチームの場合は「ボール支配率」(試合中に自チームがボールを保持していた時間の割合)でした。うちの大学院にきているサッカーの専門家によると,この指標は監督がどのようなスタイルのチームを目指すかで変わってくるそうで,なでしこジャパンがワールドカップで優勝したときにはこの指標を使っていたが,その後,他国のチームに研究され通用しなくなったそうです。どの指標を選ぶかもデータで決めるということですね。

 どんな指標を使うにせよ,ポイントはまず指標を作ることです(たとえば,全国の部活動でこうした指標を設定しているチームが果たしてどのくらいあるか)。それも,計測でき,妥当性がある(少なくとも論理的に,また過去の試合のデータから予測できる)数値で,かつ,できるだけ単純でわかりやすいものを使うということだと思います。次の段階ではこれを各選手のパフォーマンスに落としていくことになります。複雑で数多くの指標があると,この作業が困難になるし,選手も何のために何を求められているのか言語化しにくくなるからです。

 番組ではグランデ・アメージングアカデミーの練習シーンがいくつか紹介されていましたが,どれもがこのチームパフォーマンスへ直結していそうなものでした。その中の一つがパスをだす場所です。4on4くらいの模擬戦で,フィールドを縦方向に3つのエリアに分割し,ボールを保持した選手には,敵選手がいない(パスが通りやすい)エリアを探させ,そこへパスをだせたかどうかをコーチが即時フィードバックしていました。
 標的行動を"探す"に留めているとコーチが的確にフィードバックしにくくなります。だから,エリアに名前をつけ,空いているエリアの名前を言うようにプロンプトします。番組ではそこまで放映していませんでしたが,おそらくプロンプトはフェイドアウト,フィードバックはリダクションしていき,コーチの声かけなしでも選手が自分でそのようにパスをだせるように指導していくのだと思います。
「何を見てどう判断するか」という"認知"を行動的に解釈して具体的な標的行動に落とし込めば,あとはその標的行動を自発させる場面を設定し(練習ドリルやプログラムを組み),プロンプトをだして強化していけばいいわけです。このあたりは行動的コーチングの手法とそれほど変わりません(ちなみに行動分析学事典では「行動的コーチング」の項目も担当しましたので読んでみて下さい)。

 競技レベルのコーチング,特にチームスポーツでは,チームとしてのパフォーマンス指標の設定と,その達成につながる各選手のパフォーマンス指標,そしてそれを達成させるための標的行動の抽出と訓練プログラムの開発,改善をデータを元にして進めることがいかに重要か,あらためて納得させられた番組でした。

 参考までに。サッカー選手の"注意"の拡大に関する応用行動分析学からの実験論文もあります。

  • Ziegler, S. G. (1994). The effects of attentional shift training on the execution of soccer skills: A preliminary investigation. Journal of Applied Behavior Analysis, 27, 545-552.

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 4月末に公刊された『行動分析学事典』。完読にはほど遠いですが(事典なのでそもそも最初から最後まで完読するものでもないし,そうしようともしてないのだけれど),ぱらぱらとめくると,いくつか気になるところが見つかります。

 今日はそのうちの一つについて。用語というより概念の整理に関する問題提起かもしれません。

 「条件強化」の項では,のっけに「条件強化とは,行動がある刺激や出来事によって強化されるとき,その刺激や出来事が別の強化子と対提示されるという過去のレスポンデント条件づけによってその機能を獲得した場合を指す」(pp. 190-193, 山岸)とあります。

 この定義にはいくつかの問題があると思います。以下,弊著で私が使っている用語は""で囲んで表記します。

 この項では,遺伝的に決定された強化子("生得性好子")と後天的に獲得された強化子("習得性好子")を区別しようとしているわけですが,まず,強化と強化子("好子")の区別が曖昧になってしまっています。上述の定義の後には,前者は「一次性,生得性強化子」,後者は「二次性,習得性好子」などと呼ばれると書かれているように*,「強化」という原理(手続き,あるいは現象)について生得性/習得性の区別をしようとしているわけではないのです。よって「条件」で「強化」で修飾するのは論理的誤謬です。

*複数の用語をこのように併記するのは事典としては混乱の元になると思われます。本文にはどちらか一方を書くことにして他の表記法は注釈に書く,あるいはまとめて表にするなど,編集上の工夫をしたらよいかもしれません。

 次に「レスポンデント条件づけによってその機能を獲得した」というところですが,念のため,同じ事典の「レスポンデント行動」の項を読むと,レスポンデントは反射と条件反射に限定されているように読めます。「行動分析学以外の分野ではNSにUSを対提示することを強化とよんでいる場合もあるが,現在の行動分析学でこの用法はほとんどみられない」(p. 38,石井)とありますし,私もそのように認識しています。そもそも行動分析学の「学習理論」の基本はオペラントとレスポンデントを明確に(論理的に,概念的に,実験手続き的に)分離したところに特徴の一つがあると考えています。

 強化子の機能(弊著『WM 応用行動分析学』では"好子"や"嫌子"の"行動変容作用"とよんでいます)を後天的に獲得させる手順は複数あり,その一つはすでにその機能を持つ刺激との対提示です。ですが,派生する機能はあくまでオペラントの"行動変容作用"であり,レスポンデントの"誘発作用"ではありません。上述の定義ではこの区別がなされていません。もしかしたら著者の山岸先生が意図的にそうしているのかもしれませんが,当該項目にその意図が書かれておらず,不明です。

**なお,『行動分析学入門』(産業図書版)ではオペラントにおける対提示は「価値変容の原理」とよび,レスポンデント条件づけの手続きとは区別しています(第12章, p.157)。
*** "習得性好子"や"習得性嫌子"は対提示以外にも,見本合わせ訓練(刺激等価性)や言語行動(「〜は〜」というオートクリティックフレーム)などによっても獲得されます。対提示が唯一の方法ではありません(詳しくは『WM』をご参照下さい)。

 「条件強化」というように「強化」を「条件」で修飾した用語を用いるなら,むしろ対象として記述すべきなのは,「conditioned reinforcement」ではなく「conditional reinforcement」の方ではないでしょうか。たとえば,ある刺激下(ハウスライト点灯)ではある三項随伴性が有効になるが(キーライト点灯のときにつつくと餌を提示する),別の刺激下ではその随伴性が有効にならないような設定で(ハウスライト消灯時にはキーライト点灯のときにつついても餌を提示しない),ハウスライトも刺激性制御の作用を獲得するようになるときの手続きです。高次弁別訓練やいわゆる"文脈刺激"とよばれる刺激機能をつくるときに用いられる手続きでもあります。もしかして事典には「条件性強化」としてこっちが記載されているのかもと索引を探してみましたが,なんと「条件強化」の項が「条件(性)強化」となっていました。「conditional reinforcement」の方が別の和訳用語でどこかに解説されているかどうかはまだ未確認です(索引をみている限り,なさそうなのですが...)****。

****十年後の改訂に向けてのお願い:いやそんなに待たずに,すぐにでも,電子版をだして下さい。こういう図書はやはり全文検索できた方がいいです。

 対提示(=時間的接近)が学習にとって大きな要因であることは間違いないですが,対提示によって何が「学習」されるが重要で,系統的発生に因果を求めることができるレスポンデントと,個体的発生に因果を求めるべきオペラントとは区別すべきというのが私の考えです(そしてこれは珍しく? 少数派ではなく多数派の考えだと思います)。

 刺激作用を派生させる操作は対提示以外にもあるということも重要です。対提示しなくても刺激機能が変わるという現象を材料に,行動分析学の"理論"に限界があると言われても困るしね。

 とりあえず以上です。

logo.png 2013年の放送開始から衝撃を受け,言語行動満載の課題分析に取り組むなら,これを見よと学生さんに伝えてきた『プレバト!!』(TBS/MBS系列, 木曜19:00-)。

 音楽にあわせてリズムをとるとか(結局,難しいのは5/4拍子の「テイク・ファイブ」しかなくて終わっちゃった),生け花や料理の盛り付け,書道や水彩画,最近では,脱伝統派(?)のちぎり絵や消しゴムはんこのような,芸術系のお題を取り上げている番組です。

 その中でも人気なのが,そして複雑な言語課題の分析として,お手本になるのが,夏井いつき先生の"俳句の才能査定ランキング"です。

 兼題と呼ばれる俳句のお題に対し,出演者が詠んできた句を夏井先生が採点し,順位をつけて発表するのですが,この評価基準が驚くほど客観的で,行動的なわけです。

 たとえば,「季語を一ついれる」(あたりまえのようですが,季語がなかったり,二つあったりすることもある)とか「自分の体験を具体的に書く」とか「解釈ではなく事実を書く」とか「視覚,聴覚,嗅覚が伝わるように書く」とか「(句の途中で)遠景から近景にズームアップするような語順で書く」とか「冗長な言葉は削除する」とか。"気持ちを込めて"とか"読み手に自分の感動が伝わるように"なんていう教示は一切ないのです。

 番組上,「才能あり」,「凡人」,「才能なし」と判定しているし,夏井先生が"才能"を生まれ持った能力と考えているかどうかは謎ですが,少なくとも適切な指導を受けて練習すれば,誰だって良い俳句が作れるようになると信じておられると思われます。著書を読ませていたただいたところ「俳句は型」とあり,批判されることは覚悟で,初心者にはマニュアル的な作法(たとえば"尻から俳句"法など)から始めることを奨めておられますので(『夏井いつきの世界一わかりやすい俳句の授業』 Kindle版)。

 「夏井先生のご本をたくさん買いました」と言う出演者が「才能なし」になることもあるのですが,きっと買っただけで読んでないのではないでしょうか。あるいは番組の演出かもしれません。間違いだらけの句を夏井先生が"劇的"採点する,というか手直しという校正をすることで,上述のような良い俳句づくりのルールが明確になるからです。

 ゼミでやる論文作成やABC分析の指導と同じで,学び手が誤反応をしてくれるとそれを題材に正反応と誤反応のペアを例示できるので,正誤弁別訓練になるんですね。自分はよく「間違え大歓迎」というのですが,それはこういうメリットがあるからです。いわば機会利用型RULEG訓練ですね。

 番組では「才能あり」を何回もとった人に上級者クラス「特待生」や「名人」を設定していて,このレベルになると初心者向けマニュアルを超えた句が輩出されてくるのですが,それでも,夏井先生は"センスがいい"だけでは終わらせず,「兼題写真を見て思いついたことへ"発想をとばす"」とか「上句で読み手に疑問を持たせ,下句で謎解きをする」というように,他の人でも再現できるようなルールとして解説してくれます。

俳句以外の課題でも,たとえば生け花なら「花瓶を360度回転させてどこから見ても隙間ができないようにいける」とか「剣山が見えないように隠す」とか「不等辺三角形をつくる」,日本料理の盛り付けなら「左右非対称に並べる」とか「あしらいは手前に置く」など,できるだ客観的,行動的な評価をするように努力されているようなのですが,その徹底さ(たぶん課題分析して判明しているルールの数や複雑さ)は,夏井先生に遠く及ばない印象です。

 それもあってか,最近,水彩画,ちぎり絵,消しゴムはんこの課題では,先生方による評価や解説よりも,お手本として作り直した作品のすごさを前面に押し出した演出になっています(なので,課題分析の面白さはありません)。

 この番組が牽引役になった俳句ブームがいつまで続くかわかりませんが,複雑で,"認知的","言語的","芸術的"な課題は,行動的に課題分析できないと思い込んでいる人は,番組が放送されているうちに,ぜひ一度ご覧下さい。

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 10MTVオピニオンは「1話10で知識・教養が身につく」大人のための教養講座です。

 『人は、なぜ約束の時間に遅れるのか』(光文社新書)を読んで下さった制作チームの方に声をかけていただき,2月に取材を受けていたのですが,このたび公開されました。以下,配信スケジュールです。

  • 8月18日(日)人の行動の「なぜ」を読み解く行動分析学(1)随伴性
  • 8月22日(木)人の行動の「なぜ」を読み解く行動分析学(2)ABC分析
  • 8月29日(木)人の行動の「なぜ」を読み解く行動分析学(3)時空間分析
  • 9月5日(木)人の行動の「なぜ」を読み解く行動分析学(4)三日坊主
  • 9月12日(木)人の行動の「なぜ」を読み解く行動分析学(5)行動コスト
  • 9月19日(木)人の行動の「なぜ」を読み解く行動分析学(6)見える化
  • 9月26日(木)人の行動の「なぜ」を読み解く行動分析学(7)心理学の罠

 事前に脚本や資料を作らず(つまり準備をさぼり),収録時は本番一発のフリートークでもよろしければということで承諾した案件だったのですが,いざやってみると,これがとても難しい。ふだんオードリーやCreepy Nutsのオールナイトニッポンを聴いているのが裏目にでたかも(あれはやっぱりプロの技なのだ)。

 収録後に,あれについて言えばよかったとか,あれはわかりにくい説明だったなとか色々振り返りましたが,あとは編集にお任せするしかなく,編集担当の方々には多大なご迷惑をおかけしたのではないかと推察します(ありがとうございました)。

 有料サービスですが「1ヶ月の無料体験」もできるそうなので,興味がある方や,これをネタにして個人的に私をいじりたい人はぜひどうぞ。放送大学的なぎちぎちコンテンツとは真逆ですのでその点は事前にご了承下さい(自意識過剰かもしれませんが,自分の映像や音声は恥ずかしすぎて見ることができません)。


 160万回以上再生されているこの動画。間違いの原因を人に帰属させているコメントが多いけど,まさに個人攻撃の罠である。

 この人,行き先をよく見る行動を自発することなく,4回目のトライでガラスの向こう側へ移動できている。部分強化,FR4である。次回もがんがん行くかもしれない。

 行き先を見る行動が自発されたとしても,ガラスの透明度が高く,開口部と閉口部の違いがほとんどなく,観察行動が強化されないかもしれない。実は法政大学市ヶ谷キャンパスに新しく建ったばかりの大内山校舎1Fがまさにこんな感じで,自分も何回か同じような衝突を繰り返している。

 この場所でぶつかっているのはこの人だけではないだろうに,おそらく見かけのデザインが優先され(美しさ > わかりやすさ),そして間違いは間違いをする人に原因があるとみなされるために,閉口部を示すシールを貼るといったアイディアなどは"野暮"と切り捨てられるのだろう。

 動画をみると吹き出してしまうけど,笑い事ではない。こういう現象は生活のあちこちに転がっていて,いずれ大きな事故になる危険がひそんでいるのだから。 間違いは間違いを起こす原因を見つけて修正する行動の弁別刺激とすべきである。

 ちなみに「間違いをする」という行為はオペラントとして定義すべきではない(弊著『人は、なぜ約束の時間に遅れるのか』参照)。間違いには色々あり,それぞれ制御変数が異なり,制御変数が異なれば修正方法も異なるからである。

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