デジタル薬? ADHDの中核的症状を改善するゲームについて考える。

 抗インフルエンザウイルス剤「ゾフルーザ」で株を上げたシオノギ製薬が,発達障害をゲームで"治療"する「デジタル薬」に関して,米国,Akili Interactive Labsと提携したというニュース(日本経済新聞, 2019, 3月7日)。

 "治療"は日経記者の解釈だから脇においておくとして,色々と興味深いので,ちょこちょこ文献を調べていた。でも,結局,よくわからないところが多い。検索しきれていないからなのか,特許に関わる重要な点はそもそも公開されないのか,そもそもが市場に向けた探索気球なのか。

 実はこの話,ずいぶん前に米国の友人から聞いていた。元はこのweb記事(Robbins, 2017)だったと思う。どうやらその後,Scientific American に転載されていたようだ(ここ)。飲みの席だったこともあり,そのときは「怪しいよね,でも全くない話でもないよね,万が一化けるかもね」くらいの酒の肴だった。

 でも,その後,ヘビなどに対する不安反応をヘビは見せずに消去するといった論文とかがでてくると(Taschereau-Dumouchel, 2018),何かしらの神経活動(行動)を,それを引き起こす他の行動を自発させることで変更させることが可能かもしれないと考えるようになり,「まさかね」が「ありかも」に変わってきた。

 公開されている情報(Davis et al., 2018; Kollins et al., 2018)によると,

  1. 介入はAkiliによって開発されたゲーム(AKL-T01),
  2. 統制群には類似のゲームを用い,
  3. 無作為化比較試験を行った。
  4. 実験群,統制群ともに,一日25分,1週間に5日,4週間にわたってゲームをしてその前後に事前事後テストを実施。
  5. 主たる従属変数はADHDの中核的症状といわれる注意や制御を測定するアセスメント(PCによるもの,だと思う),
  6. 他にも,より一般的で標準的な行動観察による評価指標(ADHD-RSなど複数)を副次的変数としてとっている。
  7. 群間で有意差が認められたのは主たる従属変数の方で,副次的変数の方には群間で差がない。

といったあたり。

今のところ怪しいなと思う点は,

  1. AKL-T01の仕様が不明(静止画は公開され,説明もあるけど,独立変数は実際のところわからない)。
  2. 統制群で使われたゲームの仕様が不明(アクションゲームとしか記述がないのでAKL-T01とどこが違うのかわからない)。
  3. 主たる従属変数で使われた課題と,AKL-T01,統制群で使われたゲームとの関係性が不明(当然,類似度が高ければ事後の得点は上がる)。
  4. "実行機能"といわれている神経生理学的なメカニズムに影響していると主張しているけど,神経生理学的なデータは出されていない。

 ADHDや自閉症の診断が出ているお子さん(に限らないけど)がゲームにはとても集中できるということは,保護者も教員も,関わっている人にはよくわかっていることだし,文献も多くある。ゲームを使って何を教えるという介入もたくさん行われている。

 ルールが明確で即時かつ高確率に強化される環境を用意すればゲームに"集中"して取り組める。そのような環境なら,文字を読んだり,記号を弁別したり,ルールの変化や条件性制御(「〜のときには〜だが,〜のときには〜」)への対応も学びやすくなる。逆にいえば,ADHDや自閉症と診断されるお子さんの中には,他のお子さんに比べて強化遅延や確率が行動に大きく影響してしまう特性を持っている子がいるということかもしれない(遅延による価値割引が急激に起こるということ,確かそういう実験もあったような...)。
"集中"して取り組める環境が見つかれば,その結果,ゲームをしていないときに(ルールが不明確で強化は遅延し,低確率になる環境で)問題行動が自発され,偶発的に,あるいは必然に強化されてしまう機会を減らせる。つまり,二次障害を発生させるリスクを低下させられる(個人的にはこの副次的効果には意味があると思う)。

 また,ゲームをする機会を好子として使い,そういう構造化された環境へのアクセスを,そこにもゲームのような随伴性を適用することで(例:トークンエコノミーや活動スケジュール,例:「宿題のドリル1ページ終えたらゲーム10分できるよ」),日常行動もマネジメントしやすくなる。

 果たしてこの「AKL-T01」にはそういう既存の介入を越えた効果があるのか。期待しながら経緯をみたい。

引用文献

  • Anguera, J. A., Boccanfuso, J., Rintoul, J. L., Al-Hashimi, O., Faraji, F., Janowich, J., ... & Gazzaley, A. (2013). Video game training enhances cognitive control in older adults. Nature, 501(7465), 97.
  • Davis, N.O., Bower, J., Kollins, S. H. (2018). Proof-of-concept study of an at-home, engaging, digital intervention for pediatric ADHD. PLOS ONE 13(1): e0189749. https://doi.org/10.1371/journal.pone.0189749
  • Kollins, S. H., Bower, J., Findling, R. L., Keefe, R., Epstein, J., Cutler, A. J., ... & Faraone, S. V. (2018). 2.40 A Multicenter, Randomized, Active-Control Registration Trial of Software Treatment for Actively Reducing Severity of ADHD (Stars-Adhd) to Assess the Efficacy and Safety of a Novel, Home-Based, Digital Treatment for Pediatric ADHD. Journal of the American Academy of Child & Adolescent Psychiatry, 57(10), S172.
  • 日本経済新聞(2019, 3月7日). 発達障害をゲームで治療 塩野義、「デジタル薬」で米社と提携 Retrieved from https://www.nikkei.com/article/DGXMZO42160300X00C19A3TJ2000/ (2019年3月30日)
  • Robbins, R. (2017). Could this be the first prescription video game? New data show it helps kids with ADHD. statnews. Retrieved from https://www.statnews.com/2017/12/04/first-prescription-video-game-for-adhd-from-akili (2019年4月6日)
  • Taschereau-Dumouchel, V., Cortese, A., Chiba, T., Knotts, J. D., Kawato, M., Lau, H. (2018). Towards an unconscious neural reinforcement intervention for common fears. Proceedings of the National Academy of Sciences, 115, 3470-3475; DOI: 10.1073/pnas.

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