「ショールーミング」の失敗と遅延割引

衣料、ネットで割安感なく 「ショールーミング」サービス不発、導入店舗 広がらず店に並んだ衣料品のタグにスマートフォン(スマホ)をかざすとインターネットで購入できるアプリサービスが4月末、ひっそりと終了した。衣料品通販サイトを運営するスタートトゥデイが鳴り物入りで昨秋始めた「WEAR(ウェア)」のバーコードスキャン機能だ。店舗が買い物の下見の場になる「ショールーミング」が加速するきっかけになるかと注目を集めたが、不発に終わった(日本経済新聞, 2014/05/09)。

 家電だと店頭で商品を見定め、家に帰ってからネットで注文する人が多いのに、服では同じ行動が自発されなかったようです。

 日経の記事によれば、セレクトショップが取り扱う服は実店舗とネットとで価格がほとんど変わらないそうです。そもそも店舗にある服がネットに必ずあるかどうかもわかりません。“あるアパレル大手幹部は「価格が同じならば目の前にある衣服をわざわざスマホで購入する動機がない」と指摘する”とありますが、まさに即時強化を甘くみたというか、流行の遅延割引(delay-discounting)を配慮できていなかったということでしょうか。

 遅延割引(正確には「遅延による価値割引」)といえば、行動経済学関係の書籍や記事で言及されることが多くなりましたが、元々は行動分析学の研究からでてきた概念です。オペラントの頻度を決定する後続事象が行動から遅延するに従って強化力が減衰していくという現象ですが、どうも解釈の把握に飛躍があり、もう少し丁寧な考察が必要なケースが多いように思います。

 上の例も、目の前にある服を購入する行動の制御変数は、その場で買って帰ったらすぐに着れるという未来の事象ではなく(そう説明してしまうとteleologicalな間違いを犯すことになります)、買物場面で自発されるルールがいかに確立操作として機能するか、そしてそのようなルールの作用に、ルールが記述する随伴性の中の遅延やその他の要因がどのように働くか、そしてどのように働くようになるか、ということだと思います。そして、このあたりは行動分析学の研究でもまだまだこれからのところです。

 たとえば、Hantula & Bryant (2005)は、インターネットショッピングのシミュレーション場面ではありますが、配送料と配達にかかる日数の変数を操作し、対応法則にのせるような研究をしています。わかりやすく言えば、配達を一日早めるのにいくら支払うものなのかということを予測できるようにするような研究です。アナログ実験とはいえ、新しい方向です。

 うちの研究室でも、ネットショッピングのシミュレーション場面で、同じ商品の価格割引と還元ポイント数の対応を調べた学生がいました。単純な課題設定のように見えますが、たとえばポイントの場合、そのポイントが貯めやすく、使いやすいか、期限はあるかなど、様々な要因によって結果が左右されそうでした。

 当然のことながら、実社会にはスキナー箱では想定していない変数が山とありますし、何しろ相手は言語行動のレパートリー豊富な人間です。動物実験の結果を流用するさいには、そのための手順が必要です。

Hantula, D. A., & Bryant, K. (2005). Delay Discounting Determines Delivery Fees in an E-commerce Simulation: A Behavioral Economic Perspective. Psychology & Marketing, 22(2), 153-161. doi:10.1002/mar.20052

 ところで買った服がすぐに着れることを記述するルールに購買行動を強力に引き出す力があるのなら、たとえば裾上げなどの時間を圧倒的に短縮するとか(売り場をひと回りして帰ってくるような時間内、たとえば10分以内とか)、その場で着替えてしまい、それまで着ていた服を自宅に宅配してくれるサービスとかにも効果が見込めそうです。あるいは、逆に、季節外れもしくは季節の先取り商品で、元々すぐには着ない服を買うときには、“遅延割引”は生じないかもしれませんね。

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