強化の遅延について補足:日本語で読める研究とKindle版も入手可能な専門書

一昨日の記事について補足しておきます。

 まず、強化の遅延時間(行動から好子出現までの時間)の効果についての研究については、少し古いですが、これまでの文献をまとめているという点で、また現在、Kindle版も入手可能であるという点でお勧めです。

Commons, M. L., Mazur, J. E., Nevin, J., & Rachlin, H. (1987). The effect of delay and of intervening events on reinforcement value. Hillsdale, NJ England: Lawrence Erlbaum Associates, Inc.

 遅延の限界点を求める実験は、現実的には不可能に近いくらい難しい課題です。なぜなら、行動した後(たとえばキーつつきをした後)、餌を呈示するまで、キーつつきをさせないようにしないとならないわけですが(そうしないと、その間にしたキーつつきからの遅延になってしまうから)、すでに強化履歴がある行動であれば、完全に消去しておかない限り、どこかで自発されてしまいます。だから実際には遅延時間に手がかり刺激をつけたり(行動の直後にスキナー箱内を暗くするなど)、DROをつけたり、あるいは選択場面で遅延が選好(逆選好)に与える影響を選択率で検討したりしているわけです。このあたりの問題点とその課題を乗り越える方法については、小平・坂上(2012)をご参照下さい。

小平英治・坂上貴之 (2012).  ハトを用いたオペラント条件づけにおける信号のない強化遅延の効果の検討 行動分析学研究, 26, 102-117.

 このような研究から得られる勾配がどのような関数になるのかは、理論的な話になります。実験で得られたデータポイントにあてはまりのよい関数式を考察するわけです。双曲線関数があてはまると考える研究者が、遅延を無限に延ばしていっても強化効果が(僅かでも)残ると考えているかどうかは知りません。でも、上記の理由でそもそも現実的な話ではありません。

 それから産業図書の『行動分析学入門』などにでてくる「60秒ルール」の「60秒」は、繰り返しになりますが、科学的な“概念”ではなく、“指針”です(この本の囲み部分には見出しがついていて、それでこうした記述のレベルを区別しています)。そして、それは60秒以上遅延したら強化の効果がなくなりますよという意味ではなく、60秒以上遅延していて、でも行動が制御されているなら、制御変数としてはルール(言語行動の介在)を疑いましょうというヒントです。

 なぜ「60秒」なのかと言われたら「切りがいいから」としか答えようがありません。「58秒ルール」や「2分半ルール」よりも覚えやすいからです。『行動分析学入門』をよく読んでいただければわかると思うのですが、我々の主張は、言語行動レパートリーがある人たちの、日常生活でなんとかしようとする問題の多くは、行動と後続事象(結果)との間に、数時間どころか、何週間とか何ヶ月とかの遅延がある場合が多く、そういう遅延があっても行動が制御されることがあるのだから、その説明に、動物実験で得られている結果をそのままあてはめることはできませんよということです(そして、だから認知的な説明をというわけでもなく、行動の原理で解釈可能ということです)。

 残念なことに、ほんとに伝わらないんですね、ここが。

 流行に乗じて、人の日常行動の解釈に遅延割引の話を持ち込む人が増えていることに、あまりに大ざっぱな外挿だなぁと、残念に思っている次第です(たとえばこの記事)。

 なんだが愚痴のような補足になってしまいました。


The Effect of Delay and of Intervening Events on Reinforcement Value: Quantitative Analyses of Behavior, Volume V: 005 (Quantitative Analyses of Behavior Series) The Effect of Delay and of Intervening Events on Reinforcement Value: Quantitative Analyses of Behavior, Volume V: 005 (Quantitative Analyses of Behavior Series)
Michael L. Commons

Psychology Press  2013-12-19
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