「60秒ルール」の誤解:即時強化の「即時」とは本来「遅延なし」、せめて「1-2秒」のことです。

産業図書の『行動分析学入門』では「60秒ルール」を以下のように解説しています。

指針:ルールによる制御 行動をしてから60秒たってから好子が与えられる時はルールによる制御を考えなさい。

 この指針は、ある行動が随伴性によって直接制御されているのか、それとも随伴性を記述した言語行動(ルール)に制御されているのかを見分ける「ヒント」として提示したものです。

 ところが、どうやら誤解が生じているようです。このルールを行動を変えようとするなら好子を60秒以内に提示しなさいと解釈してしまっている人がいるからです。

 たとえば『行動分析学で社員のやる気を引き出す技術』(舞田・杉山, 2012)には「意識的に強化や弱化をしようとしたら、行動後の一分間でそれができるような工夫と努力をしなければならない」(p. 43)とあります。

 その前の頁にはこの図が掲載されています。この図からは、強化/弱化の効果が、行動から結果までの時間が60秒までは一定で、その後、徐々に低下するように読み取れますが、間違いです。

60 

 強化の遅延による勾配(delay of reinforcement gradient)を明らかにしようとする研究はそれこそハルやスペンサーの時代から現在に至るまで行われていて、勾配には指数関数と双曲線関数とどちらのあてはまりが良いかといったことまで検討されていますが、遅延による強化の効果が数秒以内に急激に減衰するという点は確立した知見です。

 下の図は、Reilly & Lattal (2004, p. 24) から抜き出しました。遅延時間を独立変数にして"強化の効果"を従属変数にした実験をするのは実はけっこう難易度が高い課題です。この実験でも新しい行動レパートリーを習得させるわけではなく、キーつつきそのものは獲得済みのハトを使い、強化率を統制したVIとFIとで、強化を遅延したときの反応率の変化を検討しています。図からわかるように、反応率は遅延が0秒(直後)のときに最大で、1秒遅くなるだけで急激に低下しています。

Delaygradient

 まさに「即時強化」の重要性を示していると言えます。

 人を対象とした同じような研究は読んだことがありませんが、Weiss, Cecil, & Frank (1973)は、目の前にいるサクラが電撃を受けないようにする行動の潜時が、遅延0秒に比べて、1秒、2秒で急激に低下することを示しています(2秒で強化なしの条件と同程度)。

 人においても 「即時強化」が重要で、「即時」とは0秒、遅くとも1秒ということになります。

 ちなみに「60秒ルール」は「ルール支配行動」と"ルール"のところが重複していてさらに混乱を招きそうなので、近著『使える行動分析学--じぶん実験のすすめ--』では「六十秒の原則」と表記しました。いずれにしても、これは強化の原理を使って行動を変えるための原則ではなく、ある行動がルール支配されているかどうかを見定めるときのヒントです。

 「60秒ルール」っていうくらいだから、30秒くらい遅れてもいい、というわけではありませんのでご注意を。

Reilly, M. P., & Lattal, K. A. (2004). Within-session delay-of-reinforcement gradients. Journal of The Experimental Analysis of Behavior, 82, 21-35.

Weiss, R. F., Cecil, J. S., & Frank, M. J. (1973). Steep delay of reinforcement gradient in escape conditioning with altruistic reinforcement. Bulletin of The Psychonomic Society, 2, 372-374.

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