2014年5月アーカイブ

その1、その2の番外編です。

 せっかくリモコンをつけたので、宅配などの来客があったときにフィーダーが回っておやつが出てくるようにすれば、玄関で荷物のやりとりをしている間、クレートでおやつを食べてくれ、吠えも防止できると考えました。

 玄関のチャイム→(リモコンのスイッチをオン)→フィーダーが回り始め→クレートに入る→おやつが食べられる、という随伴性です。

 ただし、実験用のペレットフィーダーと違って、魚用餌やり機を改造したフィーダーでは「今でしょ」という瞬間にフードを呈示できません。フィーダーが回り始めてからおやつがあるまで遅延が生じます。そこで、フィーダーが回っているときには電子オルゴールで音楽を流し、これを習得性好子にしようと考えました。

 玄関のチャイム→(リモコンのスイッチをオン)→フィーダーが回り始め、電子オルゴールで音楽が流れる→クレートに入る→(音楽が流れている間は)おやつが食べられる、というふうに。

 そこでまずは電子オルゴールの音楽を習得性好子にするために、普段おやつを手からあげている"晩酌"の時間を使うことにしました。私が晩酌をしているときに足下にやってきて、お座りし、私の足を前脚でトントンしたら、おやつ一粒もらえるという随伴性が有効な時間帯です。

 晩酌を始めるとさっそく足下にやってきたので、電子オルゴール(曲はなぜか「ハッピーバースデー」)をかけてみました。

 すると、なんということでしょう(「ビフォー・アフター」のナレーション風に)、はるは急に驚いたような素振りで背中を丸め、その場から立ち去り、部屋の隅っこで猫のように丸まってうずくまってしまいました。こちらを恨めしそうな顔で見つめています(↓ こんな感じで ↓)。

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 何が起こったのか最初はわかりませんでした。何をそんなに驚いているんだろと。でも、その日も、その翌日も、1週間経っても、2週間経っても、晩酌のときや食事の時間に、今まであんなに安定して自発していたおやつの要求行動が一切なくなってしまいました。

 それどころか、私が食事をしようとすると、部屋の隅っこに移動して、ふてくされたかのように寝転がってしまうようになりました。

 そうです。晩酌のときに足下に来る行動、おやつを要求する行動を弱化してしまったのです。それも嫌子出現による弱化です。げげげ。

 幸いにも、この弱化の効果は場面限定的で、それ以外の行動にはまったく影響を及ぼしておらず、今まで通りに暮らしています。

 全く意図していなかった弱化だし、可哀想でもあるし、独り晩酌も寂しいので、電子オルゴールの音の脱感作をしようかなと思いつつ、いったいこの弱化の効果がどのくらい続くのかという興味もあり、まだそのままにしています。

 3月の中旬に起きた事件です。その後、オルゴールは一度も流していませんが、5月も終わる今になっても、弱化の効果が持続しています。

 友達が来て一緒に食事をしていると、その友達には以前の方法でおやつを要求します。私にも、晩酌の場面以外(ベランダでとか、散歩中とか)では、おやつを要求してきていますから、般化ゼロ。ものすごく鋭角に場面限定的な効果のようです。

 一度ある嫌子によって弱化され、自発されていない行動が、その弱化に使われた嫌子を中性化するだけで復活するものなのかどうか。理論的にも興味があります。

 学校でジャイアンに大声で脅かされて不登校になったのび太に、ジャイアンの大声に対する不安反応をレスポンデント的に消去したり、ジャイアンの大声からの逃避反応をオペラント的に消去したりするだけで、登校行動は強化し直さなくても再び自発されるようになるのか、というような話です。

 また、別の文脈で中性化した(できたとして)電子オルゴールの音が、以前に弱化された文脈に登場したときに、どのような機能を持つのかもよくわかりません。

 セラピーでジャイアンの大声に微動だにしなくなったとのび太が、再び学校でジャイアンから大声で脅かされたときにどうなるのかというような話です。

 電子オルゴールをタオルなどでくるんで音を小さくして、ほとんど聞こえないようなところから少しずつ大きくしていこうと考えているのですが、そのためにはおやつを安定して食べる機会で、万が一失敗してもいい機会を新しく設定しないとなりません。

 またいずれ報告します。

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その1の続きです。はる(うちの犬)は食事を一気に(長くても2分以内で)平らげてしまいます(参照:「完食させる」)。食事の時間を使った脱感作には時間的限界があるので、扉を閉めたままでもう少し長い時間クレート内にいる練習(吠えたり、出ようとして扉をがちゃがちゃしたり、クレートを齧ったりしないで)をするための装置を作りました。

 ラットの実験で使う、ペレット(餌)を一粒ずつ呈示できるフードディスペンサーが欲しかったのですが、とても高価なので、一般家庭向けの魚用オートフィーダーを使うことにしました。

 ただ、この装置は回転式で、タイマーも一日に数回、一回あたり一回転回るようにしかセットできません。

 定時スケジュール(FT)を組みたいので、簡単に外部IOを制御できるArduinoという電子回路キットを入手しました。ArduinoはUSBケーブルでPC/Macにつなぎ、パソコンから制御することもできれば、制御ソフトをArduino本体に書き込み、スタンドアローンで動かすこともできます。

 今回必要なのはオートフィーダーのオンオフのみなので、このキットについてくるMOSFETで制御できます。オートフィーダーの手動スイッチから導線をだしてつなぎました。制御用プログラムは、サンプルでついてくるLEDの制御ソフト(ほんの数行)をいじっただけ。一時間かからずに作業が完了しました。

 リモコンコンセントにオートフィーダーとArduino用のUSB電源(古いiPhoneのものを流用)をつなげば、リモコンのスイッチを押すとフィーダーが回り始め、もう一度スイッチを押すとフィーダーが止まる装置の完成です。

 難しかったのはオートフィーダーの調整です。フードの出口の広さを、窓の空き具合をスライドして変えることで、一度に(一回転ごとに)出てくる量を変えるのですが、開けすぎると一度にドバッと出てしまうし、閉めすぎると一粒も出てきません。一回転するのに10秒くらいかかるので、一粒もでないとフードとフードの間隔が一挙に20秒以上になってしまいます。その間に吠えてしまったら、吠えを迷信行動として偶発強化してしまいかねません。

 何度も調整し、フィーダー本体を傾けたりもして、ようやく少し安定してきましたが、何しろ、フードの形も球形ではないので、ばらつきはかなりあります(はるはアレルギーが多いので使えるが少なく、このフィーダーにはナウ・フレッシュ・スモールブリードを使っていますが、アレルギーの問題がない犬なら、もっと選択肢があると思います)。

 今のところ、動画のように、フィーダーが回っている間は、一回で落ちてくるフードを食べているので、クレートの扉が閉まっていてもフードを食べる行動が優位で、吠えたり、出ようとしたりはしません。非両立行動の強化の効果です。

 うちでは、時々、出張マッサージを頼むのですが、そのときには1時間ほど、このシステムを稼働させています。その日はこれがはるにとっての夕食になります。

 先日、途中でフィーダー内のフードがなくなってしまい(私の準備不足です)、そのまま様子を見ていたら、前足でクレートの扉を少し引っかいていましたが、すぐにあきらめ、寝始めました。マッサージ受けながらとはいえ、すぐそばに私がいるので、これはまだ完成形ではありませんが、かなりの進展です。

 ただ、この先の展開は思案中です。フィーダーを回しながら、私がそばから離れ、吠えなどがないことを確認しながら徐々にいなくなり(隣の部屋に行くとか)、さらにフィーダーが回る間隔を少しずつ伸ばしていけば、無誤反応で練習を進められると思うのですが、このためには私に時間的余裕が必要です。サバティカルも終わってしまったし。

 さて、どうするか…

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定義:

「認知機能は、入力情報の感覚的、物理的な分析を行う「浅い」水準から、抽象的、意味的、連想的な分析処理を行う「深い」水準へと階層的に構造化されている」「深い処理を行う方が(その単語の)保持成績は優れたものになる」(『心理学辞典』(有斐閣),  p. 430)。

行動分析学的解釈:

(ここでは文字刺激に対する反応のみを想定して解釈します)

文字に対する行動としては、機能的に独立したいくつかの言語行動クラスが形成されている。たとえば、文字の形態的特性と反応の関連をもとに般性強化されるタクト、文字と発話(読み)の要素毎の対応をもとに般性強化されるテクスチャル、文字と反応の内容的関連性をもとに般性強化されるイントラバーバルなどが形成されうる。

タクトの例:
 「」 → 「さんずい」、「10画(正しくは9画だが、正誤は無関係)」、「角張っている」、「大きい」、「赤」

テクスチャルの例:
 「海」 → 「うみ」、「かい」

イントラバーバルの例:
 「海」 → 「海水浴」、「夏」、「砂浜」、「オーシャン」、「去年は海に遊びに行けなかった」

他の刺激と同様、文字に対し、言語行動以外の反応も形成されていることもありえる。

その他の例:
 「海」 → 寒気(レスポンデント)、海辺のイメージ(内潜的視覚反応)

 文字刺激が提示されたときにどのような反応が自発されるかは、その刺激に対する過去の随伴性と、現在の状況(確立操作、その他の弁別刺激、強化随伴性)などによる。自発された行動が強化されるかどうかが、同じ文字刺激に対して同様の反応が繰り返されるかどうか(「保持テスト」における反応)に影響するが、多くの記憶研究では強化の変数は統制していないので、状況任せになっていると考えられる。そのような状況では、より多くの反応が自発可能で、かつ、実験において提示される他の刺激から引き出される反応とは異なる(弁別刺激の混乱が少ない)可能性の高い、イントラバーバルを自発させる手続きの方が「保持テスト」の成績が高くなるのは予想できる。これは「処理水準」の概念をさらに発展させた「精緻化」の概念にもあてはまる。

関連する文献

島宗 理・清水裕文 (2006).  文章理解の理論的な行動分析  鳴門教育大学研究紀要, 21, 269-277.

本シリーズの過去記事一覧:

定義:

「同化とは環境を自分のなかに取り込む働きであり、調整とは自分を環境に合わせて変える働きである」(『心理学辞典』(有斐閣),  p. 622)。

行動分析学的解釈:

 同化とは、既習の行動レパートリーが新奇な刺激に対し自発され、強化される、刺激般化の過程である。調整とは、刺激般化した反応が強化されなかったときに(消去されたときに)、類似した異なる形態の行動が自発され(消去後の反応拡散)、そのうちのいずれかの行動が強化されていく過程である。

ピアジェの理論も含めて、発達に関する様々な概念の行動分析学からの解釈については、下記の文献が参考になります。

本シリーズの過去記事一覧:


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一昨日の記事について補足しておきます。

 まず、強化の遅延時間(行動から好子出現までの時間)の効果についての研究については、少し古いですが、これまでの文献をまとめているという点で、また現在、Kindle版も入手可能であるという点でお勧めです。

Commons, M. L., Mazur, J. E., Nevin, J., & Rachlin, H. (1987). The effect of delay and of intervening events on reinforcement value. Hillsdale, NJ England: Lawrence Erlbaum Associates, Inc.

 遅延の限界点を求める実験は、現実的には不可能に近いくらい難しい課題です。なぜなら、行動した後(たとえばキーつつきをした後)、餌を呈示するまで、キーつつきをさせないようにしないとならないわけですが(そうしないと、その間にしたキーつつきからの遅延になってしまうから)、すでに強化履歴がある行動であれば、完全に消去しておかない限り、どこかで自発されてしまいます。だから実際には遅延時間に手がかり刺激をつけたり(行動の直後にスキナー箱内を暗くするなど)、DROをつけたり、あるいは選択場面で遅延が選好(逆選好)に与える影響を選択率で検討したりしているわけです。このあたりの問題点とその課題を乗り越える方法については、小平・坂上(2012)をご参照下さい。

小平英治・坂上貴之 (2012).  ハトを用いたオペラント条件づけにおける信号のない強化遅延の効果の検討 行動分析学研究, 26, 102-117.

 このような研究から得られる勾配がどのような関数になるのかは、理論的な話になります。実験で得られたデータポイントにあてはまりのよい関数式を考察するわけです。双曲線関数があてはまると考える研究者が、遅延を無限に延ばしていっても強化効果が(僅かでも)残ると考えているかどうかは知りません。でも、上記の理由でそもそも現実的な話ではありません。

 それから産業図書の『行動分析学入門』などにでてくる「60秒ルール」の「60秒」は、繰り返しになりますが、科学的な“概念”ではなく、“指針”です(この本の囲み部分には見出しがついていて、それでこうした記述のレベルを区別しています)。そして、それは60秒以上遅延したら強化の効果がなくなりますよという意味ではなく、60秒以上遅延していて、でも行動が制御されているなら、制御変数としてはルール(言語行動の介在)を疑いましょうというヒントです。

 なぜ「60秒」なのかと言われたら「切りがいいから」としか答えようがありません。「58秒ルール」や「2分半ルール」よりも覚えやすいからです。『行動分析学入門』をよく読んでいただければわかると思うのですが、我々の主張は、言語行動レパートリーがある人たちの、日常生活でなんとかしようとする問題の多くは、行動と後続事象(結果)との間に、数時間どころか、何週間とか何ヶ月とかの遅延がある場合が多く、そういう遅延があっても行動が制御されることがあるのだから、その説明に、動物実験で得られている結果をそのままあてはめることはできませんよということです(そして、だから認知的な説明をというわけでもなく、行動の原理で解釈可能ということです)。

 残念なことに、ほんとに伝わらないんですね、ここが。

 流行に乗じて、人の日常行動の解釈に遅延割引の話を持ち込む人が増えていることに、あまりに大ざっぱな外挿だなぁと、残念に思っている次第です(たとえばこの記事)。

 なんだが愚痴のような補足になってしまいました。


The Effect of Delay and of Intervening Events on Reinforcement Value: Quantitative Analyses of Behavior, Volume V: 005 (Quantitative Analyses of Behavior Series) The Effect of Delay and of Intervening Events on Reinforcement Value: Quantitative Analyses of Behavior, Volume V: 005 (Quantitative Analyses of Behavior Series)
Michael L. Commons

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産業図書の『行動分析学入門』では「60秒ルール」を以下のように解説しています。

指針:ルールによる制御 行動をしてから60秒たってから好子が与えられる時はルールによる制御を考えなさい。

 この指針は、ある行動が随伴性によって直接制御されているのか、それとも随伴性を記述した言語行動(ルール)に制御されているのかを見分ける「ヒント」として提示したものです。

 ところが、どうやら誤解が生じているようです。このルールを行動を変えようとするなら好子を60秒以内に提示しなさいと解釈してしまっている人がいるからです。

 たとえば『行動分析学で社員のやる気を引き出す技術』(舞田・杉山, 2012)には「意識的に強化や弱化をしようとしたら、行動後の一分間でそれができるような工夫と努力をしなければならない」(p. 43)とあります。

 その前の頁にはこの図が掲載されています。この図からは、強化/弱化の効果が、行動から結果までの時間が60秒までは一定で、その後、徐々に低下するように読み取れますが、間違いです。

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 強化の遅延による勾配(delay of reinforcement gradient)を明らかにしようとする研究はそれこそハルやスペンサーの時代から現在に至るまで行われていて、勾配には指数関数と双曲線関数とどちらのあてはまりが良いかといったことまで検討されていますが、遅延による強化の効果が数秒以内に急激に減衰するという点は確立した知見です。

 下の図は、Reilly & Lattal (2004, p. 24) から抜き出しました。遅延時間を独立変数にして"強化の効果"を従属変数にした実験をするのは実はけっこう難易度が高い課題です。この実験でも新しい行動レパートリーを習得させるわけではなく、キーつつきそのものは獲得済みのハトを使い、強化率を統制したVIとFIとで、強化を遅延したときの反応率の変化を検討しています。図からわかるように、反応率は遅延が0秒(直後)のときに最大で、1秒遅くなるだけで急激に低下しています。

Delaygradient

 まさに「即時強化」の重要性を示していると言えます。

 人を対象とした同じような研究は読んだことがありませんが、Weiss, Cecil, & Frank (1973)は、目の前にいるサクラが電撃を受けないようにする行動の潜時が、遅延0秒に比べて、1秒、2秒で急激に低下することを示しています(2秒で強化なしの条件と同程度)。

 人においても 「即時強化」が重要で、「即時」とは0秒、遅くとも1秒ということになります。

 ちなみに「60秒ルール」は「ルール支配行動」と"ルール"のところが重複していてさらに混乱を招きそうなので、近著『使える行動分析学--じぶん実験のすすめ--』では「六十秒の原則」と表記しました。いずれにしても、これは強化の原理を使って行動を変えるための原則ではなく、ある行動がルール支配されているかどうかを見定めるときのヒントです。

 「60秒ルール」っていうくらいだから、30秒くらい遅れてもいい、というわけではありませんのでご注意を。

Reilly, M. P., & Lattal, K. A. (2004). Within-session delay-of-reinforcement gradients. Journal of The Experimental Analysis of Behavior, 82, 21-35.

Weiss, R. F., Cecil, J. S., & Frank, M. J. (1973). Steep delay of reinforcement gradient in escape conditioning with altruistic reinforcement. Bulletin of The Psychonomic Society, 2, 372-374.

衣料、ネットで割安感なく 「ショールーミング」サービス不発、導入店舗 広がらず店に並んだ衣料品のタグにスマートフォン(スマホ)をかざすとインターネットで購入できるアプリサービスが4月末、ひっそりと終了した。衣料品通販サイトを運営するスタートトゥデイが鳴り物入りで昨秋始めた「WEAR(ウェア)」のバーコードスキャン機能だ。店舗が買い物の下見の場になる「ショールーミング」が加速するきっかけになるかと注目を集めたが、不発に終わった(日本経済新聞, 2014/05/09)。

 家電だと店頭で商品を見定め、家に帰ってからネットで注文する人が多いのに、服では同じ行動が自発されなかったようです。

 日経の記事によれば、セレクトショップが取り扱う服は実店舗とネットとで価格がほとんど変わらないそうです。そもそも店舗にある服がネットに必ずあるかどうかもわかりません。“あるアパレル大手幹部は「価格が同じならば目の前にある衣服をわざわざスマホで購入する動機がない」と指摘する”とありますが、まさに即時強化を甘くみたというか、流行の遅延割引(delay-discounting)を配慮できていなかったということでしょうか。

 遅延割引(正確には「遅延による価値割引」)といえば、行動経済学関係の書籍や記事で言及されることが多くなりましたが、元々は行動分析学の研究からでてきた概念です。オペラントの頻度を決定する後続事象が行動から遅延するに従って強化力が減衰していくという現象ですが、どうも解釈の把握に飛躍があり、もう少し丁寧な考察が必要なケースが多いように思います。

 上の例も、目の前にある服を購入する行動の制御変数は、その場で買って帰ったらすぐに着れるという未来の事象ではなく(そう説明してしまうとteleologicalな間違いを犯すことになります)、買物場面で自発されるルールがいかに確立操作として機能するか、そしてそのようなルールの作用に、ルールが記述する随伴性の中の遅延やその他の要因がどのように働くか、そしてどのように働くようになるか、ということだと思います。そして、このあたりは行動分析学の研究でもまだまだこれからのところです。

 たとえば、Hantula & Bryant (2005)は、インターネットショッピングのシミュレーション場面ではありますが、配送料と配達にかかる日数の変数を操作し、対応法則にのせるような研究をしています。わかりやすく言えば、配達を一日早めるのにいくら支払うものなのかということを予測できるようにするような研究です。アナログ実験とはいえ、新しい方向です。

 うちの研究室でも、ネットショッピングのシミュレーション場面で、同じ商品の価格割引と還元ポイント数の対応を調べた学生がいました。単純な課題設定のように見えますが、たとえばポイントの場合、そのポイントが貯めやすく、使いやすいか、期限はあるかなど、様々な要因によって結果が左右されそうでした。

 当然のことながら、実社会にはスキナー箱では想定していない変数が山とありますし、何しろ相手は言語行動のレパートリー豊富な人間です。動物実験の結果を流用するさいには、そのための手順が必要です。

Hantula, D. A., & Bryant, K. (2005). Delay Discounting Determines Delivery Fees in an E-commerce Simulation: A Behavioral Economic Perspective. Psychology & Marketing, 22(2), 153-161. doi:10.1002/mar.20052

 ところで買った服がすぐに着れることを記述するルールに購買行動を強力に引き出す力があるのなら、たとえば裾上げなどの時間を圧倒的に短縮するとか(売り場をひと回りして帰ってくるような時間内、たとえば10分以内とか)、その場で着替えてしまい、それまで着ていた服を自宅に宅配してくれるサービスとかにも効果が見込めそうです。あるいは、逆に、季節外れもしくは季節の先取り商品で、元々すぐには着ない服を買うときには、“遅延割引”は生じないかもしれませんね。

 「行動分析学道場」は奥田健次先生が主宰される行動コーチングアカデミー(西軽井沢)での合宿研修です。

 三年目となる今年は事例研究支援を担当させていただくことになりました。すでに終わった事例、これから取り組む事例、どちらでもOKです。道場当日には、事例について発表していただき、行動分析学の専門家から、標的行動の選び方、記録の方法、介入計画(指導法や教材など)などについて討論しながら助言をもらえます。

 いきなり討論するのは心もとないという方のために、当日まで、事前にメールなどで準備をお手伝いします(ここが私の担当です)。

  • 行動分析学を勉強して、自分や誰かの行動変容に使ってみたけど、うまく行かなかった方。
  • 仕事に活用してみてはいるものの、これでいいのだろうかと不安な方。
  • こんな面白い実践をしているので、ぜひ専門家の意見を聞きたいという方。
  • 職場の仲間で事例検討会を開いているのだが、どう進めればいいのかよくわからない方。

 などなど。

 この夏、環境を変えて行動を変える楽しさを一緒に味わいましょう。

 奥田先生のブログに「プレ告知」が公開されていますので、詳しくはそちらをご参照下さい。

 ビデオを撮っていなかったのが今となれば残念なのですが、はる(うちの犬)はクレートの中で食事ができませんでした。正確には、クレートの扉が閉じていると、外に出たがり、食事どころではなくなってしまっていました。
 扉を開けたままなら、自分から中に入って行き、昼寝をすることもありましたし、あらかじめフードを入れておけば、自分で入って行き、食べていました。
 ところが、クレート、私、はるの位置関係で、私がクレートにおやつを投げ入れ、そのまま待っていると、こちらをちらちら見るのですが、近づいてきません。私がその場から離れてしばらくすると、様子をうかがいながらクレートに近づいてきて、後ろ足をクレートの外に残し、“へっぴり腰”状態でクレートに頭を突っ込み、おやつをパクッとくわえると、すぐにクレートから離れます。
 擬人的に言えば、まるで餌で誘い込んで捕獲されることがわかって用心している半野生動物みたいな振る舞いです。
 クレートでくつろいで過ごせるようにならないと、万が一、怪我や病気で入院したり、災害にあって被災したときに大変ですよと山本先生から言われていたので、なんとかしたいと色々試してきました。
 クレートに入れ、扉を閉め、いくら吠えてもほっておくこともしました。3-4時間の消去でしたが、それでも吠えは止まらず、逆に止まらないうちにクレートからだしてしまったので、消去抵抗は余計に上がってしまっているはずです。
 クレートに入れ、扉を閉め、私がクレートのそばにいながら無視していれば、やがて吠えるのは止めますが、これではあまり意味がなさそうです。しかも、そのときには中におやつを入れても食べません。クレートに閉じ込められている状況が不安喚起機能を獲得していくばかりです。
 そこで作戦を変えることにしました。短期決戦はあきらめ、時間をかけてレスポンデントもオペラントも、扉が閉まったクレートの不安喚起機能をなくすことで対処することにしました。
 まずは、クレートに入ってフードを食べる行動の強化です。これはそれまでもできていましたが、機会を増やしました。朝、クレートにおやつを入れておき、寝室から居間に移動してきたら入って食べる。日中、ベランダで遊んでいて部屋に戻ると、クレートにおやつが落ちていて、入って食べる。クリッカーを使ってコマンド遊びしているときに、クレートに入ってクリック+おやつとか、クレートの中でおすわりやふせでおやつとか。これらは全部クレートの扉が開いている状態での練習です。
 次に、クレートの扉を閉めていきました。これには朝夕の食事の時間を使いました。いきなり食器をクレートの中に入れてみたらクレートに入って行かなかったので、最初はクレートの扉は全開で、食器を入口から50cmくらいのところに離して置きました(これまで通り)。ここから大凡ですが、様子をみながら1週間に5cmくらいのペースで食器をクレートに近づけていきました。
 食器に近づかなくなったり、へっぴり腰になったら距離を一段階前に戻すつもりでしたが、おそらくあまりにゆっくりと進行させたせいでしょう、ステップバックは必要ありませんでした。
 数カ月かけて食器をクレートの中に移動し、さらに数週間かけてクレートの隅に移動させ、後ろ足までクレートに入らないと食べられないようにしました。ちなみに、うちでは、「おすわり」させ、「待て」で待たせ、「よし」で食べさせています。なので、この段階で、クレートの中で待てをしています。
 次に、クレートの扉を少しずつ閉めていきました。1週間に角度でいえば大凡10度くらい。これを全開(180度)からほぼ犬の肩幅がぎりぎり通るくらい(30度くらい)になるまで、さらに数カ月間かけて進めました。クレートの扉は普段からこの角度を保持していました。だから、上述の色々な練習も、徐々に扉が閉まった状態でするようになっていきました。ここでもステップバックは必要なかったです。
 ところがここまでの成功に気を良くし、実は一度失敗しています。うちにはクレートの他に移動用キャリーも常設していて、そちらでも上述の練習を繰り返していました。そこで試しに、「ハウス」で移動用キャリーに入り、おやつで強化した後でキャリーの扉を閉めて「待て」をかけてみました。吠えませんでしたが、前足で扉をぱたぱたしだしたので、すぐに開けました。吠えを自発させたくなかったからです。その後、同じ遊びの流れで「ハウス」のコマンドをかけても移動用キャリーには入らなくなりました。キャリーにおやつを入れておいても入っていきません。扉を閉められた状態の嫌悪性は、これまでの練習で変化していなかったようです。
 幸い、移動用キャリーでの経験はクレートには影響しませんでした。なので、クレートでの練習と、扉角30度での食事をさらに数カ月続けました。
 そして、その後(ここははるの行動を観察して見極めたわけではなく、単純に時間の経過から、そろそろいいんじゃないかと判断しただけです)、クレートに入り、おすわりさせ、「待て」と言ってから、扉を閉めました。そして数秒後に「よし」。すると、はるは何の問題もないように食事を食べ始めました。クレートのすぐ横で見ていて、食べ終わったと同時に(扉を開ける要求行動が出る前に)、扉を開けて食器を取り出し、扉はそのまま30度で開放しました。
 はるがうちに来てから2年近く経過していましたが、初めて扉の閉まったクレートの中で、安心して食事ができた瞬間でした。
 その後は、クレートの扉を閉め、「よし」をしてからクレートから離れたり、わざとクレートの扉をいじって物音を立てたり、クレートの扉を閉めてから「よし」までの時間を長くしたり(最長で30秒くらい)と、色々と環境に変化を持たせ、それでも安定して食事行動が自発されています。
 ビデオは三月末に撮影したものです。最後の方に、食べ終わった後で食器を取り出し、また追加でフードを入れて食べさせていますが、これは食べている最中に食器を取り出しても、それを守ろうとして噛んだりしないようにするための練習(のつもり)です。山本先生にはローハイドとかを噛ませ、途中で取り上げ、レバーペーストを塗って戻してあげるというやり方を教わったのですが、はるはレバーペーストを与えるとお腹がゆるくなってしまうのでこのように変形してみました。元々、こういうことで噛んだりする犬ではないのですが、予防のために時々、続けています。
 なお、この先の練習は私に余裕がなくて進んでいませんが、もっと長い時間、安心して扉の閉まったクレートで過ごせるようなプログラムを検討中です。これも吠えさせて消去するのではなく、無誤反応で進めるように計画しています。また、そのうち報告します。

定義:

「客観的には同一の図形でありながら、知覚的には二つあるいはそれ以上の形が成立する図形(『心理学辞典』(有斐閣),  p. 708)。

行動分析学的解釈:

 複数の異なる随伴性で弁別刺激となり、異なる行動を誘発させうる刺激。どちらの(どの)刺激性制御が優位になるかは、その他の弁別刺激(その他の弁別刺激や文脈となる条件性弁別刺激など)や確立操作、フリーオペラント的に移動する注視点などによると推察される。

本シリーズの過去記事一覧:

アーカイブ

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