再考シングルケースデザイン:吉田寿夫先生からの問いかけに答える(その9):内的妥当性への脅威について

吉田先生からの問いかけ:

○内的妥当性への脅威(種々の攪乱要因の介在可能性)について
*実際には内的妥当性が高いデザインによる検討を行なうことが困難である場合が多いであろうから,この問題の顕現性は高いと考えられる。
・多標本群間比較法よりも(個人変数以外の変数に関する)交絡に関する配慮の必要性が高い?
・実験者(期待)効果,要求特性の効果,ホーソン効果,評価者のバイアスなどは,群間比較法と同様(ないし,それ以上に)に介在する?
・特に実験者の行動に関わる攪乱要因については注意が必要では?
・(特に ABデザインによる研究では)介入が長期にわたる場合の自然変動などについても考慮する必要性が高いのでは?
*以上のことについてのクリティカルな検討が不十分では?
・考察において他の解釈可能性をもっと慎重に論じるべきであるとともに,(研究者にとってはリスキーなものである)種々の攪乱要因の介在に関する情報を積極的に集めようとすべきでは?

 ご指摘されている種々の脅威についてはその通りで、内的妥当性に対する脅威は、群間比較法を用いた場合と同じ程度、存在すると思われます(シングルケースデザインを用いた研究の方がより高い脅威にさらされているという主張の根拠はわかりませんでした。すみません)。

 実験者効果などの剰余変数について:

 まず、実験者効果をできるだけ除外するように要因分析をすることが考えられます。たとえば「授業中に発言する前には挙手して指名されたら席を立って話をする」を標的行動とする場合、最初に教員による教示のみの条件から始め、それでも効果がなかったときに、たとえばトークンなどを使った条件に移行するのであれば、教員の期待の効果は相殺できます。
 もちろん、教示+「期待」では不十分で、教示+「期待」+トークンで効果がでたと考えれば、「期待」の効果を除外したことにはなりません。ただし、これは臨床的に考えればあまり意味のある議論ではありません。なぜなら、「期待」を除外してこの手続きを導入することがそもそも難しいからです。
 むしろ、同じ手続きを他の学級、他の教員で試していくうちに(再現、系統的再現を続けていくうちに)、児童と教員の組合わせによっては、同等の効果が得られないときがでてくるかもしれません。そのときには、たとえば、教員からの指示に従うことが日頃からどのくらい強化されているかとか、教員の意図を予想する児童の行動頻度とか、意図どおりになることの強化力などが、この介入に影響することが推察され、その条件が実験で確かめられることになるでしょう。
 内的妥当性の検証は、当該の研究内で行われるべきものと、一般的には考えられているかもしれませんが、シングルケースデザインの場合は、このように再現、系統的再現の試みの中でも進行するものと考えられます。

 評価者(観察者)のバイアスなどについて:

 シングルケースデザインでも群間比較法でも同じように脅威になる要素ですが、一般に、応用行動分析学における研究の方が、その他の教育・発達心理学よりも、この点に関するチェックは厳しいように思います。つまり、行動の直接観察だけではなく、行動の所産についても独立した観察者間の一致度を測定するし、そのための各種観察法も開発されているし、その上で生じる観察者ドリフトやその対処法なども考慮されているからです。つまり、バイアスのリスクは認知されていて、できるだけ排除、低減する措置がとられていることが多いと思います(たとえば、行動の直接観察をしている実験論文を各種学術雑誌から取り上げ、観察者間の一致率を求めているかどうか、またその測定や算出方法の妥当性を比較すればわかることかもしれません)。

 他の解釈可能性について:

 よっぽど怪しい変数があれば考察で議論する価値があると思いますが、それほどでもなければ(他の研究でもありえる、一般的なリスクであれば)、わざわざ取り上げる必要はないかもしれません。なぜなら、もし剰余変数が実験変数よりも効いていて、それが介入手続きに内在しないのであれば、再現、系統的再現されるときにわかるし、逆に、それまではわからないからです。

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