再考シングルケースデザイン:吉田寿夫先生からの問いかけに答える(その10):一般化について

吉田先生からの問いかけ:

○結果を一般化する際の限定条件についての論述の必要性について
・このようなことについての記述が考察であまり(ないし,ほとんど?)なされていないのでは?

 まず、その8に書いたように、シングルケースデザインは母集団についての仮説を演繹的に検証する実験計画法ではありません。ですから、群間比較法を用いた実験論文のように、その実験のデータから母集団について結論をだすという意味で「結果を一般化」することはしません(できません)。シングルケースデザインで得られたデータからは、その研究で対象にしたことについてしかわかりませんし、それでいいのです。

 ただし、先行研究の再現、系統的再現をしている研究については(ほとんどの研究は何らかの再現をしているはずなのですが)、先行研究の手続きと、その研究の手続きにおける各種変数の相違点と結果一致/不一致について述べ、先行研究の結果を「再現」したのか、しなかったのかを書く必要があります。その中で、先行研究(や先行研究の積み重ね)でわかったことがさらに確認できたのか、それともできなかったのかは論述すべきです。前者は帰納的な文脈での「一般化」になりますし、後者は推測ではなく、先行研究と当該の研究における違いを事実として書くということで、「一般化」に制限がかかる、もしくはかかる可能性を示唆することになります(ほんとうに制限がつくのかどうかは、さらなる再現が必要になります)。

 どの研究の再現なのかを論文中に明記することで、後でメタ分析をするときに研究をまとめやすくなるというメリットも生まれると思います。このあたりは、現状、公刊されている論文では必ずしも実現されていませんが、それは、ある実験がどの実験の再現にあたるかついて、実験者の視点は唯一無二のものではなく、視点によって変わってくるということもあると思います。

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