行動分析学から心理学の基礎概念を解釈する(その11):ピグマリオン効果

定義:
 「人は他人に対していろいろな期待をもっている。意識すると否とにかかわらずこの期待が成就されるように機能すること」(『心理学辞典』(有斐閣), p. 715)。

 この現象については、ローゼンソールとジェイコブソン(1968)の、教師を対象に生徒たちに対する期待(成績が上がりそうな生徒とそうでない生徒との情報提供、ただし嘘)が、生徒たちの後の成績に影響することを明らかにした実験がよく知られていているが、その再現性や一貫性、効果の大きさについては疑問も呈されていて、追試やメタ分析が多数、行われている。
 ローゼンソールはラットを使った実験実習場面で実験者効果を検討する研究も行っており(Rosenthal & Lawson, 1964)、自分たちにあてがわれたラットが"Skinner-Box Bright"と言われた実験者チームと、"Skinner-Box Dull"と言われた実験者チームとでは、マガジントレーニング、シェイピング、消去と自発的回復などの7つの実験において、被験体であるラットの学習の速さにおいても、実験者によるいくつかの評価においても、群間で差があったことが報告されている。
 ここではそうした違いが生じるかどうかではなく、生じたとしたら、それはどのような変数によるものなのかを推測して解釈する。

行動分析学的解釈:
 他者の行動傾向に関する教示は、ルール(随伴性を記述した刺激)として機能する可能性がある。たとえば、初対面の人を事前に「怒りっぽい人ですよ」と言って紹介され、怒られることが嫌子であるなら、他者を怒らせたことがある様々な行動群の自発頻度は下がり、微笑むなど、他者が怒ることを阻止する機能をもつ行動群の自発頻度があがるだろう(そして、それが成功すれば強化される)。
 同様に、生徒の学習傾向に関する教示も、ルール(随伴性を記述した刺激)として機能する可能性がある。たとえば、「この子はとても賢く、将来有望です」と言われ、将来有望な子どもの成長が好子であるなら、その子を見たり、話しかけたり、質問したり、ヒントをだしたり、正解を褒めたり、誤答に対して解説したりといった、子どもの学習を促したことがある様々な行動群の自発頻度があがるかもしれない。反対に、「この子はあまり賢くありません。将来、期待できません」と言われたら(こんな実験、現代の倫理委員会は通らない可能性が高いですが)、そのような行動群の自発頻度が下がるかもしれない。
 つまり、生徒の行動を変えているのは、教師の行動(生徒にとっては随伴性)の変化であり、教師の行動を変えているのが、教師の生徒に対する行動の強化に関するルールである。「期待」という媒介変数/仮説的構成体がなくても解釈できるし、この場合、「期待」という媒介変数の設定は、重要な制御変数の特定に妨害的に働きそうでもある。
 なぜなら、上述のようなルールによって教師からどのような行動が引き出されるかは、教師がどのような強化履歴をもっているかどうか、何が確立操作として機能するかに依存するのであり、それを調べないと、それこそ「期待」がどのような行動変化につながり、どのような効果をもらたすのかわからないからである。
 数多くの追試実験が行われても結果に一貫性がないのは、こうした重要な制御変数を統制せずに実験をしているからではないだろうか。たとえば、教師によっては「この子はあまり賢くありません。将来、期待できません」という教示が、逆に、その子に注目し、より丁寧な説明をしたり、特別に教材をつくったりするなどの行動を引き出す可能性もあるからである。
 なお、ローゼンソールらが考察しているように、上記のラットを使った実験実習では、出来の悪いラットをあてがわれたと言われたチームの方が、より多くラットに話しかけていたことがわかっていて、これが実験中の妨害刺激としてラットの学習を阻害した可能性がある。出来が悪いゆえに「頑張れ〜、そこだ〜」など、本来すべきではない行動が“善意”から自発されてしまうこともあるわけであり、同じような行動変化が教師対象の実験で生起している可能性もある。

Rosenthal, R., & Jacobson, L. (1968). Pygmalion in the classroom: Teacher expectation and pupils' intellectual development. New York: Holt, Rinehart & Winston.

Rosenthal, R., & Lawson, R. (1964). A longitudinal study of the effects of experimenter bias on the operant learning of laboratory rats. Journal of Psychiatric Research, 2(2), 61-72.

本シリーズの過去記事一覧:

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