2013年3月アーカイブ

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 昨日はテープ起こし原稿の校正に丸一日費やしてしまった。

 この講演、文書化してどこぞに掲載するなんて聞いてなかったし、そもそも今時カセットテープなんか使ってないだろうから「テープ起こし」ってナニ?って感じだし(「ICレコーダー起こし」もヘンだけれども)、自分の話が文字化されたものを読むのは、録音された音声を聞くのに次いで気持ちが悪いし、Wordがじゃんじゃかフリーズするし(「編集中に修正箇所を記録する」ってモードにすると、昔からよく固まったものだが、これって全然修正されていないんだなぁ)...

 というわけで散々な一日でした。

 それにしても、話をしているときにはある程度まともなことを言っているつもりだし、聴衆の表情や頷きからは、わかりやすい話をしているような気にもなっているのだけれど、その話を文字にして後から読むと支離滅裂に近いってことがよくある。インタビューを受けた後に記者が記事としてまとめた原稿が送られて来たときも同じ。結局、自分でほぼ書き直してしまうことさえある(何のためのインタビューだったのかと、インタビューワーの方もがっかりしているに違いない)。

 考えるに、話し手ー聞き手のコミュニケーションと、書き手ー読み手のコミュニケーションは大きく異なっていて、前者ではことば以外の刺激や行動が利用可能になる。講演ならスライドもあるし、身振り手振り、表情、それにイントネーションやポーズなどのいわゆるパラ言語もオートクリティックとして使える。文書にしたらくどすぎる繰り返しや言い換えも、発話なら有効だ。たぶん、人によって、この二つのモード間の違いに個人差があって、自分はそれがとても大きい方なんだろうと、モヤモヤ感は残るけれども、「これはこれでいいや」とACT的な自己教示と共に、自慰的に決着。

 とにかく、自分には口述筆記で本を書くなんて芸当はできそうにない。

 さてさて、上のエラーメッセージ。年商数千億円の会社とは思えない酷い日本語訳である。原文も表示されるのでみてみよう。

The most common cause of this error is a corrupted installation of the Microsoft Office for Mac software.

このエラーの最も一般的な原因は、Microsoft Office for Mac のソフトウェアのインストールの失敗です。

になってしまっている。「a corrupted installation」は「インストールの失敗」ではなく、「インストール済みのソフトに何らかの異常が発生した」と訳すべきだろう。

However, other causes that are related to operating system configuration must be ruled out first to accurately determine the cause.

に至っては、

ただし、オペレーティング システム構成に関連するその他の原因は、原因を正確に判断するのには、先に支配する必要があります。


になってしまっている。いったい何を支配するんですか。

正しくは、

ただし、原因を特定する前に、まずはオペレーティングシステムの設定に何かしら問題がないかどうか確認して下さい。

でしょう。

もっとも、たとえ訳が正しくても役には立たない教示だということに変わりはないのだけれども。

どうやらこれは自動翻訳らしい(違うかもしれないけど)、そして、上の図にあるように(ここから該当ページ)、「翻訳を改善します」というボタンをクリックするとユーザーが(!?)、誤訳を訂正してあげられるようになっているのだ。

おいおい。年商数千億円もあるのだから、こんなことをユーザーに頼ってはいけないよ。自分たちで正確で役に立つ日本語を書きなさい。

こんな怠慢を強化するわけにはいかないので、翻訳は改善しません。

これはこれでいいや。

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 近くの公園を散歩中、朝露にぬれ、きらきらと輝く草木の匂いをかぐ姿を見て、「あぁ、はるはやっぱり那須の山から降りてきた犬だなぁ。野生っぽくていいなぁ」と無邪気に喜んでいたんですね、最初は。それが朝露ではなくて、他の犬のおしっこだと気づいたときは唖然としました。

 はるがうちに来てから2ヶ月くらいは、散歩中、急に立ち止まって動かなくなったり、ぶるぶる震えたり、きびすを返すように反対方向に向って歩き出したりしていました。尻尾がお尻の下に丸まって入っちゃうことも多かったです。人や車や自転車やバイクが行き来するアスファルトの上でリードをつけられて歩くなんてこれまでしたことがなかった犬ですから、突然、多種大量の不安喚起刺激を呈示され、無計画な曝露療法状態になっていたのだと思います。向こうから歩いてくる、マスクをした人、キャスター付きのバックを転がしている人、子ども、男性一般には特に強い反応を示していました。中高年女性層はなぜかセーフでした。

 一方で、ゴミ袋やティッシュや葉っぱなどが風に吹かれて飛んでくると即時に反応して飛びついたり、ハトや雀に飛びかかっていったり、なぜか停まっているバイクのマフラーの匂いを嗅いだり、ピアノの演奏が聞こえてくるとそちらに耳を傾けたり、突然ダッシュしたと思うと、その先にコンビニ弁当が捨ててあったりと、新奇刺激への興味や食欲でも反応してました。元気すぎる子どもみたいです。

 世界的にはきれいに維持されていると評判の日本の街角や道路ですが、よく見るとゴミだらけです。これも犬と散歩を始めるまでは気づかなかったことです。スーパーマーケットでもらうビニール袋、空き缶、空き瓶、お菓子の袋や中身、焼き鳥の串、マクドナルドのポテト、痰やゲロなどなど。ほとんどすべてが誰かが散らかしたもの、片付けなかったものです。犬にはそれがゴミとはわかりません。臭いがすれば嗅ごうとするし、美味しそうなら口に入れようとします。散歩の敵、地雷みたいなもんです。仕方がないのでリードを引っぱります。はるは引っぱられまいと脚を踏ん張ります。あんまり強く引っぱると痛かったり、苦しかったりするかと思って少し緩めます。はるの勝ち。リードが引っぱられたら踏ん張って引っぱり返す行動が強化され、これが後々まで楽しい散歩を妨害することになります。

 犬との散歩の理想型は「J」リードだそうです(『佐良直美が教える犬との暮らし方--中高年が愛犬と楽しく暮らすための上手なしつけと飼い方』大泉書店)。首輪からリードが垂れ、Jの字を書くように飼い主の手に戻り、この状態を維持したままで歩いたり、走ったりするわけです。リードがぴんと張ることがないということです。そもそもリードは犬が飛び出して事故にあわないように万が一に備えた命綱のようなものなんですね(クライミングのロープと一緒で)。そのような危険がないところならリードをつけずに散歩できるような状態が理想的なわけです。だから「J」リード。

 私とはるの散歩は「J」どころか、ほぼ「I」。はるがどんどん先を歩き、リードがぴんと張った状態で私が付いていく。はるが止まれば私も止まる。はるが何かに興味を示して逸脱すればリードを引っぱるが、最後は私が手を緩める。随伴性を視考すれば自明の理ですが、リードが張った状態で私を引っぱって歩くことを強化していたわけです。

 日本語の犬のしつけの本は何冊も読みましたが、散歩の練習について詳しく書かれた本がありません。イアン・ダンバーの「赤信号・青信号」法に似た方法くらいでしょうか。実はこれも試してみたのですが、うまく行きませんでした。リードを引っぱったら止まる。リードが緩んだら歩き出す。行動分析学的にも理にかなっているのですが、結局、リードを引っぱったら止まる。リードが緩んだら歩き出すを繰り返すだけで、リードが緩んだまま歩き続けることはありませんでした。NHKの「極める 優木まおみの犬学」でみた「リーダーウォーク」も試してみました。その番組では、この方法が日本の警察犬学校では標準と紹介されていましたが、これもうまくいきませんでした。どちらもその場ではひっぱりが減るのですが、次の日はまた元に戻ります。ひっぱることを消去、もしくは弱化したとしても、横で一緒に歩くことを特定して強化していないのですから、当たり前といえば当たり前です。

 そこで山本央子先生に散歩の出張レッスンをお願いしました。山本先生によれば、チョークチェーンという首輪を使った痛刺激を使う訓練士の方も多く、悲しいことに、最近、増加傾向にさえあるそうです。Youtubeで画像を見る限り、あまりに酷い。こんなこと愛犬に対してよくできるなぁと思います。それに、こうやって訓練された犬はトボトボと、山本先生曰く「ドナドナの歌に出てくる牛のように」歩くようになってしまうそうです。はるには、できるだけ不安にならず、楽しく、胸をはって(?)歩いてもらいたいです。山本先生の指導法はまさにそれで、散歩がルンルンに楽しくなるように教えることを重視するそうです。

 山本先生のレッスンは、まずは室内でリードを装着せず、歩いて呼んで、ついて来たらすかさずフードを使って強化するという、行動分析学の本道--シェイピング--を用いた練習法です。フードは自分の左足の膝の裏側あたりに少量だします。うちの居間は10畳ほどの広さですが、そこで歩く向きを変えたり、曲がったりして、それについて来たらフードで強化します。レッスンの前の日の夕飯は半分、当日の朝飯は抜きで午後の練習にのぞみました(確立操作ですね)。

 これができたら(これは簡単にできました)、次はリードをつけて同じように練習します(これもできました)。次は部屋をでて、マンションの廊下で同じように練習します(これもできました)。そこでマンションをでて、いつも散歩している近くの公園で練習しました。ここには草木もあり、ゴミもあり、他の犬のおしっこの匂いもありと、妨害刺激満載の環境です。最初に私がリードをもって歩こうとすると、はるはいつものように先頭を切ってIリードのまま歩こうとします。

 「止まって下さい」という山本先生の指示で立ち止まるとリードがさらにピンとはります。はるは姿勢を前傾させ、踏ん張ります。リードを緩めそうになる私に「そのまま待って下さい」と山本先生。「そのうち戻りますから」。
 主観的には3分くらい、実際にはたぶん30秒もしないうちに、はるはリードを引くのをやめて立ちすくみ、少ししてから、こっちに向って歩いて来ました。!。すかさず、とはいかず、しばらくモタモタしてからフードをあげました。

 すると、山本先生が苦笑しながら、「戻ってきて直ぐにはフードをあげないでくださいね。引っぱって、戻っての繰り返しを教えることになってしまいますから」と、これはすかさずフィードバック。「戻ったら歩き始めて下さい。そして、はるちゃんが横についている時に、連続で数回、フードをあげて下さい」

 歩き出すと、2-3歩は部屋の中でできたように左後についてきますが、すぐにまた前に飛び出し、リードを引っぱります。再び「止まって下さい」と山本先生。止まって、戻って、歩き出してフードをあげますが、また先頭を切ってリードをひっぱります。これが何回か繰り返された後、「見てて下さいね」と山本先生。リードを山本先生にバトンタッチします。

 歩き出す山本先生。すると、はるは山本先生の左横についてしっかり歩いて行くではないですか。リードもJのまま。よく見ると、山本先生はかなり早めのペースで歩いています。はるの方をずっと見て、何やら話しかけているようです。そして、なによりフードを与える間隔が短い。さ、さ、さっと次々と肉片をちぎってスピーディーにあげています。はるは尻尾を振りながら、飛びついてそれを受取っています。
 50mくらい歩いて、山本先生とはるが戻って来ました。もう一度私の出番です。注意をひくため、とにかくなんでもいいので話しかけ続けて下さいとのこと、それから、歩き始めに連続でフードをあげるときには、もっと手際良くして、間隔を短くすること。どちらも、はるの注意が逸脱しないようにするためだそうです。これまで散歩中に話しかけていたことはなく、部屋の中ならともかく、人目がある外で犬に話しかけながら歩くのはさすがに恥ずかしく、声も小さくなりがちでしたが、今度はなんとか20mくらい歩けました。
 
 この日からはると散歩の練習が始まりますが、すぐにはうまく行きませんでした。まず、はるは不安状態になるとフードを鼻の前にだしても食べません。そして、東京での散歩に慣れて来たとはいえ、一回40分くらいの散歩時間中、あちらこちらで10-20分くらい、ひどいときには丸々40分、尻尾を丸め、目を伏せて、その場から逃げようとするような歩き方、走り方で散歩を過ごしていました。山本先生のレッスンでやったような状態ができるときもありますが、50-60mすると、またリードを引っぱります。止まって、戻るのを待ちますが、なかなか戻って来ません。道路の真ん中でこうなると、戻るまで待てないこともあります。車や自転車が通るので、それを避けるため、道路の脇に移動するからですが、このときにはるの引っぱりを強化してしまいます。以前よりもひっぱりを強化する回数は減りましたが、逆に部分強化になってしまい、消去抵抗を高めた可能性が大きいです。
 さらに、この頃、はるの体調は最悪で、お腹の調子がいつも悪く、病院通いをしていました。うんちをする時間と場所が固定できず、散歩中、うんちをしようとしてはやめ、しばらく歩いてはうんちをしようとしてはやめを繰り返していました。うんちをしようとする体勢になると、こちらもリードをゆるめるので、ここでも引っぱりを強化してしまいました。

 というわけで、山本先生のレッスンが功を奏し始めるのは、半年以上も経ち、お腹の調子が良くなり、散歩中の立ち止まりや不安反応が減り、食いつきの良いフード(散歩の直前に温めた豚のバラ肉)を見つけてからになります(右手にフードとリードの端、左手にリードのあまった部分を持ち、右手のフードを左手に移して高速で呈示するのはけっこうたいへんで、普通の粒状のフードだと、ぱらぱら落としたりしてしまいました。ドライジャーキーとかだと小さくちぎるのに時間がかかります。温めた豚のバラ肉だと、手がべたべたになるのが難ですが、ちぎりやすいし、落としにくいです)。そしてうまく行き始めたと思ったら、今度は野良猫のために誰かが埋めた餌を探して食べることをはるが覚えてしまい、それを止めさせるためにリードをひっぱったり、声をかけてしまうというミスを犯し、またまた3ヶ月くらい訓練が停滞します。それでも、ようやくこの頃は、散歩中の70-80%はJリードで歩けるようになってきました。フードは歩き始めは高頻度で(2-3歩に一回くらい)、しばらく歩いたら間隔をあけ、10-15歩くらいまでフードなしで歩けるようになってきています。まだ、ゴミ収集の場所や公園の草むら、猫餌が埋まっている辺りではリードを引っぱって進もうとしますが、以前とは違って随分と楽しそうに歩けるようになってきました。工事現場などで騒音や臭い、ヘルメットとマスクをかぶった男性らなどの刺激に反応してフリーズすることもありますが、ここぞとばかりフードを呈示しても何とか食べるようになってきています。それだけ、以前は相当の不安を喚起した刺激に対しても馴化したか、もしくは拮抗反応が条件づけられてきたのだと思います。

 まだまだ道半ばの私とはるの散歩練習ですが、とりあえず中間報告まで。

 自分が読んだ本の中で、山本先生の練習方法に類似した手続きを紹介しているのは、カレン・プライヤの『犬のクリッカー・トレーニング』もしくはTurid Rugaasの『MY DOG PULLS - WHAT DO I DO?』です。後者はKindle版を読みましたが、山本先生は評価されていないそうです。

 それにしても、犬のしつけに関する日本語の本で、散歩の仕方を教える具体的な手続きがほとんど書かれていないのはどうしてなんでしょうね。多くの本が「散歩の時間や道順は決めない方がいい」とか「運動不足にならないように」とか、散歩にまつわることについては触れていても、肝心のどうすれば飼い主と一緒に楽しく歩くことを教えられるかをステップ・バイ・ステップで書いてある本がありません。

 ちなみに、山本先生が指導されている犬たちは、一回のセッションでほぼ完全に楽しく歩くことを学んでしまうそうです。うちみたいにやたらと時間がかかるのは珍しいそうですが、これは間違いなく、飼い主側の問題ですね。

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「おなかがすくと記憶力アップ 都医学総研、ハエで確認」(日本経済新聞, 2013/1/25)という記事に興味を持ち、ハエの学習に関する論文をちらほら読み漁ってました。

あまりに面白いので、東京都医学総合研究所の平野恭敬先生に直接お電話してお話をうかがってしまったくらいです。平野先生、不躾なお願いにも関わらず、ご丁寧にご回答下さり、ありがとうございました。

平野先生たちの研究はScienceに掲載されていますが、東京都医学総合研究所のこちらのページには日本語の解説と共に装置の写真もあります(上の画像はそちらを参照させてもらっています)。

Hirano, Y., Masuda, T., Naganos, S., Matsuno, M., Ueno, K., Miyashita, M., Horiuchi, J., & Saitoe, M. (2013).  Fasting Launches CRTC to Facilitate Long-Term Memory Formation in Drosophila.  Science, January 25, 443-446.

ハエの嗅覚と電気ショックを使った条件づけをするのですが、このとき餌の遮断化をしておくと、匂いと電気ショックの対呈示から一日経過した後の回避反応率が、遮断化をしていないときよりも高くなるという結果です。

餌を好子に使った(あるいは餌とも関連する般性好子を使った)オペラント学習に餌の遮断化が効くのは当然ですが、レスポンデント条件づけもしくはそれによるオペラント逃避/回避に餌の遮断化が効くというのは初耳で、とても興味深い現象だと思ったわけです。

平野先生たちの研究はさらに進み、条件づけを(or 条件づけによって生じた学習の保持を)促進しているのは、CRTCという脳の神経細胞中に存在するタンパク質であることを突き止めます(餌の遮断化をしなくてもCRTCを操作すれば同じ現象を再現できる)。

行動分析学的にこの現象はどのように解釈できるのか、そのためにはハエの行動をもう少し詳細に知らないとならない。そこで平野先生にお電話したのでした。

まず、驚いたことに(この業界ではそれが標準だそうです)。ハエは一度に百匹使うそうです。そう、集団実験なのです。上の写真の上部にハエを百匹入れ、匂い刺激を呈示しながら電気ショックをかけます。そしてそのまま下のT字路への入口を開けて移動させ、左右から別々の匂い刺激を提示します。片方からは電気ショックと対呈示したのと同じ匂い刺激を流すわけですね。

そして百匹のハエが移動した後、T字路のどちらにどれだけのハエがいたかを数えてそれを学習(記憶)の指標とするそうです。

この手続きだと、ハエのレスポンデントを測定しているのか、あるいはオペラント回避/逃避を測定しているのかよくわかりません。そのことを平野先生に質問したら、平野先生はレスポンデント条件づけと考えてらっしゃるようでした。こういう区別は先生方の研究によってはあまり関係がないのかもしれませんが、CRTCが作用する範囲を明確にするには、もしかしたら有効かもしれません(レスポンデント/オペラントで機能するタンパク質が異なるとか、同じオペラントでも刺激弁別と習得性確立操作とでは異なるタンパク質が関わっているとか)。

あるいは、もしかしたら、ハエは空腹時と満腹時とで飛び回ったり、動き回ったりする運動量が異なるかもしれない(そうであれば、たとえば、より動き回っている条件の方が電気ショックによって動き回る行動が弱化される確率が高くなったり、T字路でどちらかに移動する確率も高くなる)。あるいは、嫌悪刺激の呈示によってどのような行動が誘発されるのか(fightはなさそうだけど、flightするのかfreezeしがちなのか)によっても結果が左右されそうです。そもそも、電気ショックに対するハエの反射にどのような反応形があるかもわからないし、と、興味本位で調査を開始したのでした。

とりあえず、わかったこと:どうやらハエはDNAの解析も完了していて、脳の解析もやりやすく、頭蓋?が薄いので直接観察もしやすいし、脳だけ切り離して刺激を与えたりする実験もできる、寿命が数週間と短いので「生涯発達」的な研究もできるなどなどの理由で、(比較)生物学や神経科学、生理学などの研究で被験体として用いられることが多いということ。これに比べて、JEABには下記のシンプルなオペラント条件づけの実験が1本しかありません(実験箱の穴に出たり入ったりする行動をサッカリンで強化するのを反転法で評価)。さすがにこちらは個別実験です。

Sokolowski, M.B.C., Disma, G. & Abramson, C.I. (2010). A paradigm for operant conditioning in blow flies (Phormia terrae novae Robineau-Desvoidy, 1830). Journal of the Experimental Analysis of Behavior, 93, 81-89.

行動分析学以外のジャーナルでは、数多くの(「学習」に限定しても、隙間時間では読み切れないほどの)実験が見つかります。その中でちょっと読んだだけでも、

匂いをかぐ器官(鼻のような触覚?)を伸ばす行動を条件性抑制で抑制する実験。

DeJianne, D., McGuire, T. R., & Pruzan-Hotchkiss, A. (1985). Conditioned suppression of proboscis extension in Drosophila melanogaster. Journal Of Comparative Psychology, 99(1), 74-80.

平野先生たちの研究と同じような装置で嗅覚嫌悪条件づけを個別実験と集団実験で行い、なんと、ハエの集団行動特性(社会的制御)を検討した実験。

Chabaud, M., Preat, T., & Kaiser, L. (2010). Behavioral characterization of individual olfactory memory retrieval in Drosophilamelanogaster. Frontiers In Behavioral Neuroscience, 4.

ハエを実験装置の中に吊るし、まるでフライトシュミレータのような状態で、飛行の角度を測定し、熱線を使って条件づけし、オペラントとレスポンデントの区別をしようとした実験。

Brembs, B., & Heisenberg, M. (2000). The operant and the classical in conditioned orientation of Drosophilia melanogaster at the flight simulator. Learning & Memory, 7(2), 104-115.

などなど。「ハエの学習の専門家」になる勢いでないと到底読み切れないほどの文献量です。なので、上記の私の疑問はまだ未解決ですが、とりあえず、これで打ち止めにすることにしました。さすがに今からハエの学習の専門家になるつもりもないので。

近年、ハトやネズミなどの脊椎動物を被験体に使って実験をするのが、倫理的な規制のため、どんどん難しくなってきていますが、ハエでこれだけの研究ができる余地があるのなら、救いです。日本の行動分析学会には、まだハエの学習の専門家がいません。今、始めればいきなり第一人者です。

いつやるか、いまでしょう(と、結局、しょーもないオチですみません)。

 シングルケースデザインについて再考する作業を進める中で、こんな本を見つけました。日常生活における行動観察や介入、特にいわゆる「社会実験」の行動分析学的な方法論についてまとめられた本ですが、恥ずかしいことに、これまで存在すら知りませんでした。

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Hamerlynck, L. A., Handy, L. C., & Mash, E. J. (1973). Behavior change: Methodology, concepts, and practice. Champaign, IL US: Research Press.

Amazon.comで探したらラッキーなことに古本が手に入り、ぼちぼち読んでます。それでもって表紙になぜか「Banff」という文字が入っているのかと気になっていたら(バンフは世界的に有名なスキーリゾートで、自分も一度だけ登山&スキーしに行ったことがあります)、なんと、Banff International Conferences on Behavioural Science(この本が出版された当時はBanff International Conferences on Behavior Modification)という学術集会が1969年から毎年開催されていたことが大会のwebサイトでわかりました。

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第1回大会にはAzrin, Risley, Lindsley, Patttersonら、応用行動分析学の大御所が登壇しています。現在では間口が広がり、名称も"行動科学"となっていますが、社会的に重要な行動の変容にコミットした人たちの学術集会で、かつ、スキー好きの人たちが集まる学会のようです。

もっと前に知っていたら参加していたのに。

今年度の大会はすでに終了していますが、興味のある方は、ぜひ来年度、日本から参加してみてはいかがでしょうか。

この大会での成果をまとめた本がかつてはシリーズとして出版されていたことがわかり(上の表紙でわかるようにこれは「4」番目の本)、蒐集意欲がもやもやとわき上がってきていますが、Amazon.comで探してもほとんどが「Currently unavailable」です。日本の古本屋には、...ないだろうなぁ。

 シングルケースデザインの研究で効果量を計算する方法を探していたら、こんな資料(Kratochwillら, 2010)を見つけた。

Kratochwill, T. R., Hitchcock, J., Horner, R. H., Levin, J. R., Odom, S. L., Rindskopf, D. M. & Shadish, W. R. (2010). Single-case designs technical documentation. Retrieved from What Works Clearinghouse website: http://ies.ed.gov/ncee/wwc/pdf/wwc_scd.pdf.

 

What Works Clearinghouse(WWC)は米国の教育省の研究機関である Institute of Education Sciences (IES)が設置した、教育に関する科学的なエビデンスを評価し、まとめる組織である。

 教育の様々な分野で、どのような方法論にどのくらいエビデンスがあるのかが、あらかじめ策定された評価基準に基づいて評価され、その結果が公表されている。

 元々は医療サービスの効率化が狙いで、今や教育の領域にも浸透しつつあるこのエビデンス重視の考え方においては、無作為化比較対照試験(randomized controlled trial: RCT)で示された結果が最も強いエビデンスであると評価される。RCTであれば群間比較法なので、効果量の算出方法もすでに標準化されている(APAの新しいPublication Manual で effect sizeの記載が求められるようになったのも、このことと無関係ではあるまい)。

 これに対し、シングルケースデザインを主に用いる行動分析学の研究においては、効果量の算出方法についていくつか提案されてはいるが標準化はされておらず、主要雑誌(たとえば Journal of Applied Behavior Analysis )の投稿の手びきに記載はない。かつ、その前に、効果量を算出するに値する内的妥当性、つまり、実験計画法によって条件が十分に統制されていて独立変数と従属変数の因果関係が特定できているかどうかについても、研究者間の大まかな同意しかないのが現状であり、このため、上述のWWCのような組織においても、シングルケースデザインの積み重ねを評価していない、もしくはできない、あるいは間違って過小評価してしまうという事態が生じている(たとえば、Lovaasらのプログラムの効果が間違って過小に評価されているという批判はこちらから)。

 Kratochwillら(2010)が今どのような段階にあるのかはよくわからないのだが(こうした基準を元にシングルケースデザインの膨大な研究が再評価されているのかどうかわからないということ)、たとえば、必要な反転の数(ABAでは不十分で最低限ABAB)とか、最低限必要な再現の数(たとえば多層ベースラインは3層以上で同じ結果が再現されること)とか、同一フェイズ内のデータポイント数は最低でも5つ以上とか、たとえこうした基準の一つひとつに統計的な根拠がなくとも業界内の目安というかガイドラインとして示すことには意味があると思う。

 そもそもシングルケースデザインによる研究にはRCTでは得られないメリットがあり、特に教育や臨床など、目の前の子どもやクライアントに即した指導や介入が必須となるヒューマンサービスの領域ではそれらがもっと重視されてもいいと考える。そのあたりの議論を深めるのにもよいきっかけかもしれない。

 シングルケースデザインについては日本行動分析学会創立三十年記念シンポジウムのテーマになっており、岡山大学の山田剛史先生による統計に関する話題提供もあるようなので、楽しみにしたい。

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 先週末、和歌山県新宮市にて、日本行動分析学会の創立三十年記念事業として、「生活と行動分析学」をテーマとした熊野集会が開催されました。上の写真は私が座長を務めさせていただいた「ワークショップ4 地域と共に生きる(2) ゴミを出さずに ゴミ問題を解決する 藤井園苗先生(NPO 法人ゼロ・ウェイストアカデミー) 企画 奥田健次先生(行動コーチングアカデミー) 司会 島宗 理 (法政大学)」、撮影は眞邊先生です。

 会員だけではなく、地域の人々も参加し、高齢者の余暇支援、地域経済や文化、障がいと家族、ゴミ問題、動物との共生など、我々の日常生活における様々な問題が取り上げられ、色々な実践が報告され、討論されました。地元の新聞でも取り上げられました(紀南新聞online)。

 熊野「集会」では宿泊型とすることで -- つまり、参加者の多くが同じ宿に泊まり、寝食を共にすることで -- ワークショップが終わってからも夜遅くまで語り合える機会が提供されました。夜の話題も様々だったと聞いています(ちなみに私の周辺では「女性観」「男性観」「結婚観」で大盛上りしていました)。

 ワークショップの内容は年度内に刊行される『行動分析学研究創立30年記念号』に抄録が掲載される予定ですので、そちらをご参照下さい。また、熊野集会やその他の事業に関する報告は会員以外でも無料で読めるJ-ABAニューズレターに掲載されることになっていますので、そちらもご期待下さい。

 翌日の朝の討論の時間(これは会員のみが参加)も興味深かったです。あらためて実感したのは、生活のことを研究することは他の学問でもできますが、生活をそのまま研究できるのが行動分析学の魅力だということです。生活における行動は元々リアルです。他の心理学や多くの社会・人文科学では、リアルな行動をそのまま扱わずに、抽象化したり、平均化したりします。そうしないと一般的な法則が導けないからですが、その過程でリアルな行動のリアルな制御変数に関する情報は抜け落ちて行きます。だからこそ逆に、一般化された法則では、リアルな行動の全体的、総体的な理解はできても、目の前の行動の問題解決となると、がぜん役立たなくなってくるわけです。
 目の前の一つのリアルな行動の制御変数を見つけるという行動分析学の基本中の基本となる考え方、そして、制御変数を明らかにしながら行動を(ひいては環境やQOLを)改善していくという、自らの行動をベースラインとして次の介入を模索し、データ(事実)に基づいて環境を変えて行く方法論を、より多くの人と共有し、社会におけるより多くの領域でこうした研究や実践を進めることが、十年後の創立40周年に向けての課題の一つだと思いました。

 ワークショップ当日のつぶやきをまとめました → 熊野集会のつぶやき

 懇親会でいただいた熊野の地酒がめちゃくちゃ美味しかったので、来週の卒業パーティー用に一本お取り寄せしました。お楽しみに。

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