2013年1月アーカイブ

 NPO法人つみきの会主催の「発達障害児のためのABA早期療育の現在」という公開講座に参加してきました。我が子が発達障害児と診断されて療育機関を探していますという親御さんからメールを月に何件かいただきます。そのたびにどこを紹介すべきか悩んでしまうので、この業界の現状を把握し、自信をもって紹介できるようにしたかったわけです。

 公開講座に参加して、まずは、発達障害がある子どもたちの療育に有効なことを示すエビデンスがある様々な手法を提供できる機関が増えてきたこと、そうした機関が連携する場をこうして設けていることは、とても素晴らしいことだと思いました。ようやく日本でも、という感じです。この公開講座を共催しているのも「ABA療育エージェンシー連絡会」という同業者の組織だそうです。早々に160名の定員が締切られていましたし、会場は満員で、療育サービスや機関に対する関心や期待の高さがうかがえました。おそらく、今回参加されていない機関や組織もあるだろうし、需要が明らかになれば新しく算入してくる人も増えることでしょう。

 公開講座では慶応義塾大学の山本淳一先生によるゲスト講演を間に挟むようにして、7つの療育機関から各機関における療育サービスの概要などについてお話がありました。リアルタイムで若干辛口のコメントなども含めてTwitterでつぶやいていましたが、まとめておくと、気になったのは以下の点です。

1. 応用行動分析学に基づいた療育サービスの提供をうたう限り、そうではない療育サービスとどこが違うのかを明確にすべき。
 私見ですが、(1) 指導目標を具体化してから指導すること、(2) 標的行動に対して記録をとること、(3) 記録をもとに指導を評価し、改善すること、の3つは欠かせないと思います。
 恐らく、今回プレゼンされた療育機関ではどこでもこれらをやっているのでしょうが、残念ながら、プレゼンで紹介された機関は少なかったです。
 簡単にいえば、親御さんに指導の進展をグラフで示してくれる機関は信頼して紹介できると思います。

2. 応用行動分析学に基づいた療育サービスの提供をうたう限り、最新の研究成果を常に取り入れながら、現場での判断には現場でのデータを活かすこと。
 米国などの先進国では行動分析士(Board Certified Behavior Analysts:BCBA)という資格制度があり、修士以上レベルの訓練と実習と筆記テストで認定されています。取得後も学会に参加したり、研究発表するなどして継続して研究、学習しなくては資格が維持できないようになっています。今回、プレゼンされていた代表者の中には米国でBCBAを取得されて、日本で開業されている方もいらっしゃいました。
 私たちがこの資格について調査し、資格に必要な知識や能力の一覧を日本語訳したときには(島宗ら, 2003)、まだ日本においてはこうした民間の療育機関が限られていて(というより、ほとんどなくて)、資格制度自体に意味がなかったのですが、今後、こうした機関が増えて行くにつれて、業界全体のサービスの質を確保するためには、BCBAの資格試験を日本で日本語で実施し、継続研修も日本でできるように環境を整えていく必要があるかもしれません。
 ただ、注意すべきなのは、研究で成果があるとわかっているから目の前にいるこの子にも有効だというわけでは必ずしもないところです。ここが医療サービスと行動サービスの大きな違いで、個人差の影響がはるかに大きいわけです。だから、最新の研究成果を導入しつつ、最終的には目の前のお子さんの行動の記録から次の一手を判断すべきで、それが行動分析学という学問としての特徴である、シングルケースで制御変数をみつけていく方法論を活かした臨床サービスになるはずです(関連したことをここに書いてます → 島宗, 2009)。
 簡単にいえば、親御さんから「どうしてそういうふうに教えるのですか?」と質問されたときに、「こういう研究からこういう指導法が効果があるとわかっているからですよ」と丁寧に説明してくれる機関、さらに最初に計画した指導がうまくいかなかったときには(それを最初に決めた期間で判断して)次の一手を考えて、説明してくれるところは信頼できると思います。

3. 指導目標についてはご本人や保護者と相談して指導前に決め、最初に決めた指導期間以内に成果を見返って評価する。
 機関によってはカリキュラムの大枠が決まっていることもあれば、何を教えるのかはご本人や保護者との相談で決めるところもあると思います。いずれにしても「相談」のプロセスは不可欠だと思います。もちろん、たとえば、山本先生が紹介されていたESDM(Early Start Denver Model)など、構造化されたカリキュラムを導入する場合でも、そこで教えていることが家庭でどう活かされているのかを指導者が常に把握するためにも、「相談」(せめて「説明」)の時間はなくてはあった方がいい。「何が望ましい行動なのかは誰が決めるのか?」という質問がでていましたが、ご本人、ご家族の意向をくんで(どういう子どもさんに育て、どういう暮らしを目指しているか)、専門家(療育支援者やその他、関連する人たち)の多様な意見を参考にして、決めるしかないのだと思います(学校では個別の指導計画や支援計画作成にようやく、少しずつですが、そういう手続きが導入されてますよね。地域差、学校差があるけれども)。
 指導目標を指導を始める《前》に決める(できれば紙などに残す)のも重要です。子どもは発達障害や知的障害があっても、自然に学習します(当たり前なのですが)。療育は研究ではないので、指導手続きと指導効果の間に因果関係を証明する必要はありません(そういう仕事は研究の仕事です)。ですが、少なくても、学習や発達にほんとに必要なことをしているのか、あるいは、指導によって子どもがかわってきているのかは確認しておきたいです。だから、自然に子どもが学習したことと、療育サービスによって子どもが学習したこととをできるだけ見分けやすくするために、指導前に、指導目標(標的行動として具体的に)と、どのくらいの期間(日数、週、回数)をかけて指導をするかだけは決めておいた方がいい、そうしないと何が何だかわからなくなります。時々、指導前のビデオと指導後のビデオだけを見せて、こんなに効果があったと訴えるのを見かけます。もちろん、ご本人も親御さんもよくなっているので嬉しいことに変わりはないのですが、その療育サービスを自信を持って紹介するには、もう少し情報が必要です。極端な話、何の療育もしなくても、何十人ものビデオを撮っておけば中には自然に学習・発達が進む子どもさんもでてくるわけですから。
 今回参加された機関によっては半期ごとに知能検査や発達検査を実施してくれるところもありました。個別の指導目標だけでなく、学習や発達の全体像をそのように評価し、次の療育につなげてくれるところはお勧めできます。

 簡単にいえば、親御さんから家庭でのお子さんの様子をよく聞いてくれ、それを指導に活かしたり、指導していることが家庭でどう活かされて行くかを説明してくれるところ。あらかじめ指導目標と指導期間を具体的に決め、そのたびに指導の成果を確認してくれるところは信頼できると思います(たとえ、たとえば10回に7回くらいしか指導目標が達成しなかったとしてもです)。

4. ペアトレだけに頼らない。
 発達障害児の療育にペアトレが有効で、むしろ必須なことは議論の余地がないと思います。ただ、ほとんどすべてを親御さんに任せてうまくいくというケースは私の経験では希有です。それは有効性の問題ではなくて、親御さんの負担があまりに大きくなりすぎるからという意味です。ただ、これはもちろん、誰だって週40時間の指導時間(とコスト)を確保できたらとは思っていると思うので、現在の日本の諸事情による制約ではあると思います。でもだからと言って、ペアトレだけで完了するのがサービスの終着点と決めてしまうのは、ましてや、ペアトレ中心で療育がうまくいかないときに、それを親御さんのせいにしてしまうところはもってのほかでしょうね。
 簡単にいえば、ペアトレを提供しているところは推奨しますが、ペアトレだけのところよりは、うまくいなかければセラピストが直接指導をしてくれたり、療育ボランティアを派遣してくれるところを紹介すると思います。

以上。時間がなくて推敲できず、このまま公開します。卒論・修論を採点する時期はどうしても日本語が乱れますが、それもご勘弁を。


  • 島宗 理ら(2003).  行動分析学にもとづいた臨床サービスの専門性 : 行動分析士認定協会による資格認定と職能分析 行動分析学研究, 17(2), 174-208. http://ci.nii.ac.jp/naid/110001230873
  • 島宗 理(2009).  特集号「エビデンスに基づいた発達障害支援の最先端」へのコメント 行動分析学研究, 23(1), 85-88. http://ci.nii.ac.jp/naid/110007230349

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とににもかくにも1列だけらしい。

卒論・修論を読んでいると日本語の作文感覚がよじれてくる。Excelさんはそれに輪をかける。

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ゼミ生が全員無事に卒論を提出しました。お疲れさま。 しばし、ゆっくり休んで下さい。

次は卒論発表会。練習に使えそうなアプリを見つけました → プレゼンタイマー

発表時間は12分。質疑応答が3分です。予鈴を10分くらいに設定しておくと良いでしょう。

毎度のことですが、ギャグも期待しています(^^)v

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知らぬ間にPubMed (PMC) がiPhoneのiBooksで読める形式(.epub)で一部の学術論文を提供していました。結構前からのことで私が気づいていなかっただけかもしれません。

これでPubMedに登録されている下記の行動分析学系学術雑誌のバックナンバーがiPhoneで読めるようになります(ただし、.epubで配信されているのはすべてではないようです。少なくとも現時点では)。

  • Journal of Applied Behavior Analysis
  • Journal of the Experimental Analysis of Behavior
  • The Behavior Analyst
  • The Analysis of Verbal Behavior
  • Behavior Analysis in Practice

A4にレイアウトされたPDFをiPhoneで読むのはほぼ不可能なので諦めていましたが、これなら文字の大きさも変えられるし、操作感も良く(iBooksのページめくり感はKindleに比べて圧倒的に良いと思う)、電車などで論文を読むのに最適だと思います。

ちなみに最初にダウンロードしてみたのがこの論文。

Feuerbacher, E.N., & Wynne, C.D.L. (2012). Relative efficacy of human social interaction and food as reinforcers for domestic dogs and hand-reared wolves. Journal of the Experimental Analysis of Behavior, 98, 105-129.

家庭犬にも、シェルターで保護されてる犬にも、人に育てられたオオカミにも、人によるなでなでが好子として効かないという意外な事実を示した論文です。

 

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