『学力の新しいルール』

学力の新しいルール学力の新しいルール
陰山 英男

文藝春秋 2005-09-09
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「百ます計算」で有名になり、現在、教育再生会議の委員も務められている、陰山英男先生(立命館小学校副校長・立命館大学教育開発支援センター教授)の著書を読んでみた。

正答率ではなく正答スピードを上げる学習方法は、プリシジョンティーチング(Precision Teaching)の成果からもわかるように、基礎スキル(読み書き計算など)の習得と、その応用(文章理解、問題解決など)に効果があることは、行動分析学の研究からも想定できる。

そういう「百ます計算」の理論的背景を知りたくて注文した本なのだが、読んでみると、それよりも、いわゆる「学力低下」問題の原因分析と対処について書かれていて、こちらがいっそう興味深い。

陰山先生は、山口小学校という公立小学校の一教員として教育プログラムを開発。その後、公募制により就任した尾道市立土堂小学校の学校改革を進められ、現在は立命館大学附属小学校の副校長を務められている。

プログラムの中身は「百ます計算」だけではない。本書ではむしろ児童の生活リズムを整える(早寝、早起き、朝食など)ことや、親子のコミュニケーションを増やすことなどが強調されている。また、各学年、各学科で、ここだけはおさえておこうという、「基礎学力づくりの手びき」という名前の、非常に具体的で、ものによっては達成目標としてrate(正反応スピード)まで設定した、指導目標録も公開されている。

なにを、どうやって、どこまで教えることにコミットするか、というインストラクショナルデザインの基本が、学校全体で共通認識、理解、合意する形でつくられているわけで、これなら学校改革も成功するはずだ。というか、よくぞここまでのプログラムを作られたと拍手喝采である。

本来こういう教育プログラムの開発は(元)国公立大学の附属諸学校で研究開発され、全国に普及していくべきだが、現実にはこれらの学校はそうした本来の仕事以外で忙しく、実現できていないと陰山先生は指摘している。正確な把握だと共感する。また、陰山先生は、この問題の対策として、教育に関するシンクタンクを作るべきだとも主張されている。これもいい考えだが、日本の場合、資金獲得が難しいのと、その困難さをかいくぐってできるハコモノ的なシンクタンクだと、陰山先生たちが取り組まれてた、地域の公立学校で、血の通ったナマの学校現場で、うまく機能するプログラムを開発するのは難しいのではないだろうか。むしろ、学校教育界に行動分析学の「系統的再現」の考え方と、トヨタの「KAIZEN(continuous improvement)」の考え方を導入して、うまくいっている学校のやり方は、他の学校がそれを自分の学校にあうようにカスタマイズして取り入れていく慣習を、学校運営のレパートリーとして学校の管理職やリーダーの先生たちがマスターすべきなのだと思う。

なにはともあれ、学校改革、教育改革に関して、たくさんの示唆を含んだ本です。おすすめ。

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