2020年8月アーカイブ

体育会系社員を開花させる秘策

労政時報の人事ポータル「jin-jour (ジンジュール)」に、以下の記事が掲載されました (2020.08.14掲載)

Point of view 第162回 荒井弘和
体育会系社員を開花させる秘策とは

見出しは以下のとおりです。

体育会系は転換期にある
体育会系を科学する
秘策1:メンターを紹介する
秘策2:「文武不岐」(スポーツ・ライフ・インテグレーション)を実践する
体育会系のリーダーシップに期待する

学生時代に運動部に所属し、スポーツに打ち込む学生は、一般に「体育会系」と呼ばれます。本論考は、この体育会系に焦点を当てています。
法政大学では、2019年度に「大学スポーツアドミニストレーター主導による体育会学生のキャリア形成支援体制の構築」というスポーツ庁の事業を行いました。その事業の成果と、事業成果から展望できることを報告しています。

見出しにある「文武不岐」とは、文と武は分かれているものではなく、重なり合っているべきと強調した言葉です。この言葉は、私が19歳から稽古している武道「骨法」の創始師範である故堀辺正史先生に教えてもらった言葉です。
この文武不岐という考え方を元に、本学の事業では「スポーツ・ライフ・インテグレーション」という考え方を提唱しました。これは、競技経験が仕事や生活に活かせることの実感を通じて、競技とそれ以外の生活のつながりを認識する考え方です。
日本の支配階級が、百年前までは武士であったことを考えれば、私たちの中に文武不岐は染みついているはずです。そして体育会系の学生や社員は、文武不岐の血液が流れているはずです。

「体育の科学」に論考が掲載されました。宅香菜子先生 (オークランド大学) との共著です。

荒井弘和・宅香菜子 (2020). 新型コロナウイルスの感染拡大とアスリートセンタード 体育の科学, 70, 593-597.

見出しは以下のとおりです。

1.新型コロナウイルスの感染拡大がもたらした影響
2.2種類の価値
3.価値のバランス
4.価値の揺らぎ
5.アスリートセンタード
6.価値の転換点としての東京2020大会

新型コロナウイルスの感染拡大によって、これまでに保持していた価値 (価値観と言い換えてもOK) が揺らいだり、複数の価値が葛藤したりすることは避けられないばかりか、むしろ人間としての成長にとって望ましい一面もあると考えます。
しかし、自らの価値の問い直しにはリスクがつきものです。アスリートの指導者や関係者はそれを理解したうえで、アスリートに寄り添って、価値の再構築に向けて辛抱強く援助することが求められます。

この論考で最も行いたかったのは、「誤ったONE TEAM」への警鐘です。

ONE TEAMは素晴らしい価値です。しかし最近は、ONR TEAMを誤用していると考えられるケースが散見されます。ONE TEAMという言葉を嵩に、選手の多様性を認めないというケースです。
ONE TEAMという価値に惹きつけられる理由は、人それぞれのはずです。多国籍の選手がONE TEAMになることに価値を感じる人もいれば、様々なポジションの選手がONE TEAMになることに価値を感じる人もいるでしょう。また、苦境でこそONE TEAMになり、支え合って乗り越えるんだと考える人もいるはずです。もちろんこういった考えは、重なり合ったり、共存したりし得ます。このエピソードから、ONE TEAMがひとつの価値を強制するものではないと理解できるはずです。

ではどうすればよいか?アスリートたちが多様でバラバラな価値を持っていたとしても、指導者は、アスリートたちの多様な価値を認めてほしいと思います。
そして、それをそのまま受け止めるだけでなく、むしろ価値の多様性を活かすことで、チームをさらに飛躍させる可能性を探れるはずです。それこそ、「チームの力が個々人の力の寄せ集めを越える」ということに他なりません。

文末には、骨法會の高山献児師範の言葉を借りて、「勝負や損得を超える価値を、現代に生きる私たちはどれだけ構築できているのか」と問題提起しています。
新型コロナウイルスに直面している私たちは、価値の多様性、そして、アスリートセンタードについて、どう実践に活かすことができるか対話を続けることが重要と考えています。

この論考でも、宅先生には大変お世話になりました。遠隔でのミーティングや日本での対面でのミーティングでご一緒するたび、宅先生は私の価値観を揺さぶってくださいました。宅先生に、心より感謝申し上げます。

Journal of Loss and Traumaに論文掲載 (Taku & Arai)

Journal of Loss and Traumaに論文が掲載されました。宅香菜子先生 (オークランド大学) が筆頭著者の論文です。

Taku, K. & Arai, H. (2020). Impact of COVID-19 on athletes and coaches, and their values in Japan: Repercussions of postponing the Tokyo 2020 Olympic and Paralympic Games. Journal of Loss and Trauma, 25, 623-630. 10.1080/15325024.2020.1777762.

新型コロナウイルス感染症 (COVID-19) の感染拡大に伴い、東京2020大会 (オリンピック・パラリンピック) の開催が延期になったことについて、アスリートやコーチはもちろん、様々な立場の人々に与えた影響について記述しています。さらに、その人々が持つ価値観についても記述を加えています。

論文の最後の一文を、以下に記載します。「誰かの決断を待つことなく」という言葉は、私が強く訴えかけたい部分です。

We would like to conclude this article by encouraging all of us to actively engage in and focus on what we can do here and now instead of waiting for someone to make a decision.
訳:誰かの決断を待つのではなく、今ここでできることに対して、積極的に、集中して取り組むことを呼びかけて、今回の記事を締めくくりたいと思います。

筆頭著者の宅先生との作業を重ねるたび、考えてもみなかった展開が見えてきて、刺激的な機会となりました。宅先生、どうもありがとうございました。